「体、冷えるよ」
「冷えてもいい」
「ダメ……だろ」
「……大丈夫。だって、こうしてたら暖かい」
濡れた相葉君の体をタオル越しに抱きしめたのは俺だったはずだったのに、いつの間にか相葉君に抱きしめられてまたキスをされる。
「……相葉君って、キス……好きなんだね」
唇が少しだけ離れ、恥ずかしいやらテンションは更に上がるやらで何を話せば良いのか全然分からない。だからと言って沈黙の空間に耐えられるほど大人じゃなくて。そんな事を聞いてどうするのかと思うのに。
「そうみたい、だね」
こちらから聞いたのに、拍子抜けな返事をした相葉君が少し嬉しそうな顔をして俺の事を見る。
「そうみたいって……今まで気付かなかったのかよ」
まるで今その事に気がついた様な言い方は、今までしてきたキスに比べて俺とのキスが良かったんだと思わせていることに気付いていないんだろうか。今日まではその事を知らなかったけど、オレとキスをしてキスをするという事が好きなんだと言うことを知りました、なんてあるわけもないのに。
「だって今日初めてだし、キスしたの」
「は?」
「え?」
「いや、だからさ。初めてとか嘘言うなよ」
そんなわけない。確かに彼女を作ってこなかったとは言っていた。ずっと好きな人がいて、そいつが男だと言うことも聞いた。だけど初めてのやつが舌なんて入れてくるわけない。俺だって知識だけはあるんだから、順序ってものがあることくらい分かっていると言うのに。
「嘘じゃないよ?なんで?」
「いや、だって、慣れてる!慣れてた!慣れすぎっつーくらいしてきたし舌だって入れるか?普通?!それにめちゃくちゃ気持ちよ……」
って、危な。俺は何を言おうとしているんだろう。キスをしてきた相手にそのキスが気持ち良かったと伝える事が正解なのかも分からない。その前に正解とか不正解とか関係なく、その事を口に出すこと自体がめちゃくちゃ恥ずかしい事なのではないかと急に焦る。
「気持ち良かったんだ?」
「は……?」
「オレとのキス、櫻井くん気持ちいいって思ってくれたんだ?」
「……いや……なんの話しだよ」
はぐらかそうとしても無理なのかもしれないと半分は諦めているけれど。言いかけた言葉は伝わらなくてよかったのにどうやら相葉君には伝わってしまったらしい。
「だって櫻井くん、今言いかけたよね?」
「言いかけてない……し。俺、別に相葉君とのキスが気持ち良かったとか口に出して全部は言ってないし……」
「あはは!超可愛い!ほとんど言っちゃってるじゃん。……もうホントにやばいかも、オレ」
笑いながらも俺を抱きしめる腕は全然離れない。まぁ、離れてしまったら何も着ていない体を俺の前で晒すことになるから離れないのかもしれないけれど。
「笑ってんじゃねー。くそっ。めちゃくちゃ恥ずかしいんだからな、これでも」
「うん」
「ったく、ファーストキスだっつーのに入れるかな、舌」
「ふふ」
「なんだよ、まじで笑ってんじゃねーよ。つーかお前も初めてなんだろ?なのに何してんだよ、マジで」
我ながら良く喋る。言葉遣いも普段の自分のそれになっている。相葉君の前では丁寧にしていたつもりだったのに。でもちゃんと分かってる。このやばいくらいの緊張をどうにかしたくて喋りまくっていると言うことを。そうしないと今すぐにでも膝から崩れ落ちそうなんだ。
「つーか、服着ろよ!風邪ひくぞ、マジで」
「えー?着なきゃダメ?」
「いや、いいとかダメとかじゃなくて着るだろ」
風邪の事もそうだけど、着ないという選択肢が俺には無い。せめて下着の一枚でも履いてもらわないと目のやり場に困ると言うのは俺側の事情になってしまうけど。
「そうだ」
「ん?何?」
「櫻井くんも脱いじゃう?裸同士で抱き合ったら暖かくなると思わない?」
オレめちゃくちゃ寒いんだよね、と更に体を密着させてくる相葉君の言動が今の俺には正直キャパオーバー。
「……服あんだろ。着ろよ」
初めてのキスをした事も裸のままの相葉君と今抱き合っていることも
「えー、ダメなの?」
「ダメです」
「こんな震えてるのに?」
「服着て布団入れはいいだろ?」
「んー、櫻井くんと一緒になら入る」
「…………襲うぞ、まじで」
心臓の音はうるさいくらいなのに、イマイチ現実味が無いから倒れずにいられるんだと思う。