乾いた自分の髪に触れてみる。
「ふわふわ……かな」
相葉君の言葉を真に受けたわけでは無いけれど、確かにそうかもしれない。ふわふわとした髪は何となく柔らかいような気がする。
「……今更恥ずいわ」
触れられた時よりも思い出す今の方が恥ずかしい、という不思議な感覚になる。だけどそうだな、相葉君に言われるまで、自分の髪質の事にそこまでの興味を持ったことは無かった。
「あー、気持ちよかった!」
悶々とまた考えていたら相葉君がシャワーを浴び終えたらしくご機嫌な声が聞こえた。こんなに早く?と思ったけれど、多分考えていた内容が俺的にディープすぎて、だからその時間があっという間に感じたんだろう。
「シャンプーとかありがとね。すげぇ良い匂い。シャワールームも結構広さあるし使い勝手も良いね」
妄想から頭を無理やりに切り替える事を今日何度しただろう。身が持たない、なんて大袈裟ではなく、だけどその事が全く嫌ではない。でも切り替えなければ延々と妄想を続けてしまいそうで、聞こえた相葉君の声に、確かにそうだね、と同調の言葉を掛けようと思ったんだけど。
「うわっ!!!!」
見てしまった相葉君は、下着と部屋着らしいスウェットは履いているのに上半身は何も着ていない。肩にタオルこそ掛けているけれどそれだけ。見てはいけないと思いながらも思いっきり凝視していまう体は細めではあるけれど鍛え抜かれていた。
「櫻井くん?どーしたの??大丈夫?」
俺のリアクションに驚いた相葉君がそのままの格好で近づいてくるからもうダメで。
「服!服、は?」
「服?」
「Tシャツとか!」
「あぁ、まだ暑いから後で着ようと思って」
いや、分かるんです。自分だって実家にいる時はそう。下手したら下着のみで家の中をウロウロしていたし、特に男同士、上半身を隠す必要が無いことだって分かっているんだけど。
「……目の置き場に困るんだよ」
「目?」
「いや、えっと何でもない。……うん、寒くしないでね。……あ、俺もう寝ようかな、うん」
相葉君の事が好きだとずっと前から自覚していた。小学校の高学年の時にはもう好きだった。ダメなことなんだと思っていたし叶うことの無い現実なんだから物理的に離れなくてはずっと好きなままかもしれないと怖くなった。
「ん、オレも汗引いたら寝ようかな。やっぱりさ、初日って緊張とかで疲れるもんね」
だけどその好きというやつはあくまでも性格だったり見た目だったりの事で、自分が見て知った事だけ。
「……今日は色々、ごめん」
だけどまさか、その表情や仕草や性格の良さだけではなく、彼の体を目の前にしても妄想の時のように欲情するなんて。
「櫻井くん」
「……なに?」
「オレね、櫻井くんと同じ部屋でめちゃくちゃ安心してるんだ。もし合わない奴が同室でもさ、正直な話オレって多分頑張っちゃうんだよね、合わせなくちゃって」
離れたところから見る相葉君はいつも笑顔だった。それが彼だと思っていたけれど、きっとその全部が自然なものではなくその中に努力の笑顔もあったんだ。
「だからさ、櫻井くんでほんと良かった。今日一日、全然オレ無理しなかった。超楽しい事ばっかりだった」
だからありがとね、と言いながら小さな冷蔵庫からペットボトルの水を取り飲む。
「俺の方こそ……相葉君と同じ部屋で嬉しかった」
俺の方の理由は邪だったりでごめん。大丈夫だから。相葉君が純粋にルームメイトとして俺に好感を持ってくれたんだと言うことはちゃんと分かっているから。
ずっと好きだった人だから、という理由なしでも今日一日、俺は本当に楽しかったんだ。
「……良かった。また明日からもよろしくね」
そう言った相葉君が
「あ、櫻井くんも飲む?」
そう言って飲みかけのペットボトルを俺の前に差し出すから
「……飲む」
ほんとごめん、邪です俺。と深く反省をしながら、受け取ったペットボトルの今相葉君が口を付けていた飲み口に唇を当てた。