学生寮にて 7 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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相葉君の寝顔が見たいから寝たくない、なんて思っていたけどそれとはまた別の理由で眠れなくなった。





相葉君にとって深い意味は無かったであろうペットボトルの回し飲みは、俺から見れば完全に関節キスと言うやつ。他の奴との飲み回しの経験がない訳ではないし、むしろ気にしない方だと思う。





だけど相葉君とはやっぱり違った。ペットボトルの飲み口に交互に口を付けた、それだけの事なのに。










「おはよ、眠れた?」




「……ん」




「ほんと?櫻井くんなんか疲れてない?あ、もしかしてオレうるさかった?寝言とかいびきとか」





ごめん!と手を合わせられて逆にこっちが慌てる。





「いや、違う違う!相葉君はすごい静かに寝てたよ!俺が眠れなかったのはそうじゃなくて」





君との関節キスが原因です。なんて絶対に言えないからどうにか誤魔化さなければいけないと思うのに。





「あ、もしかしてホームシック?」




「……え?」




「家族と離れて寂しくなっちゃった?」





言われて何の事か一瞬分からなかった。だって自分に限ってホームシックは無い、と思う。だけどきっと相葉君は真剣に俺の事を心配してくれているんだと思う。例えば寝不足の理由が何であれ、茶化すとかではなく、ちゃんと俺と向き合おうとして。






「ホームシックじゃないよ。大丈夫。やっぱり何となく緊張してたのかも。新しい場所で寝付けなかっただけだから」





「ほんと?……もし、もし寂しいとかなら言ってね?」





「はは」





「あ、笑った?オレ大真面目に言ってるんだけどなぁ」





拗ねる顔は初めて見る。本気なのかわざとなのか分からないけれど拗ねる顔は可愛い。そんな表情を初めて見て、それまでは爽やかで楽しげでかっこいい人だと思っていた相葉君の事を今初めて可愛くもある人なんだと知った。






「ごめん、違う違う!相葉君の発言ひとつひとつが優しいなと思って」




「オレの発言が?」




「ん。やっぱりお兄ちゃんだからなのかな。相葉君の言葉って安心する」





そしてどう抑えようとしても胸が高鳴る。好きな人だからという理由だけではない。人としての優しさや思いやりが相葉君の言葉ひとつひとつからストレートに伝わってくるから。





「ふふ、うん。オレお兄ちゃんだからね!いーっぱい頼ってね!」





もしかしたら気を使われているのかもしれない。昨晩せっかく、自分といる事で彼自身に無理がかかっていないという言葉を聞けたばかりなのに。





「いいの?」




「うん!もちろん!」




「……マジで、頼りにしてます」





だけど居心地は最高。やばいくらいに加速する、彼の事が好きだという感情を抑える事はやっぱりどうしたって出来ないかもしれない。





「うん!!任せなさい!」





気を使うにしても使わないにしても、相葉君が無理をしてなければいいなと思う。こんな風に笑い合える日が来るなんて考えもしなかった今までの自分ならそんな近い人に抱くような事をきっと思いもしなかった。新しい生活の中、違う学校になった相葉君の事はきっと忘れていく。そう思っていたのに。






「面白いね、相葉君って」





まだたった1日だけど、俺たちはきっと上手くいく。クラスメイトとして上手くやっていける。それは多分俺次第。彼にとっても居心地のよい距離感で過ごせばきっと。







「そうかなぁ。オレから見たら櫻井くんの方がが面白いけど」





顔洗おっか、と自然すぎる程自然に腰を抱かれ洗面所へと誘われる。寝起きの男の俺の腰を躊躇わずに抱くのも彼が、お兄ちゃん だから。





「あ、タオル、忘れないでね?」





面倒見がよくふわふわと柔らかく笑う顔と、腰を抱く男の腕のギャップに混乱する。どっちが本当の素の相葉君なんだろうって。





「あぁ、タオル。危な。また忘れてた」





またタオルの存在が頭に無く、相葉君に言われてクローゼットへ向かう俺は腰に回っていた相葉君の腕を諦めようと思ったのに。





「ふふ、櫻井くんって天然?」





楽しそうにそう言って、でも俺の腰を離さずにクローゼットまでそのまま一緒に向かう。





「言われたことないけど」




「ほんと?」




「ん。ない」





タオルを取るその一瞬だけ離れた腕は、洗面所へ向かう時にはまた俺の腰に回る。それどころか、鏡の前で俺の背後から抱きしめるみたいに腕を腹の前に回した。






「オレの方が高い」




「ん?……あぁ、背?」




「そう。ちょうど良くない?オレたちの身長差」





何が?そう聞きたかったのに聞けなかった。後ろから俺の肩に顎を乗せ、嬉しそうに笑う相葉君の顔に見蕩れたから。





「ふふ」




「……え?」




「何でもない。顔、洗おっか」





見蕩れた俺は何も言えず馬鹿みたいに口を半端に開け、鏡越しに綺麗に笑う相葉君の事を見つめていた。