保健室 77 LAST | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

櫻葉で相櫻な虹のブログ

櫻葉で相櫻なブログです。



「もう、桜咲いてんじゃん」




「あ、ほんとだ」





卒業式の朝、今日で最後だからと二宮くんと登校した通学路には桜が咲き始めていた。





「なんかあっという間だったよね、今思うと」




あんなにも早く卒業したいと思っていたのに。早く大人になりたいと思っていたのに。いざこの日を迎えると気分は複雑でやっぱりどうしたって寂しさが勝つ。





「確かに。でもまだ実感無いや」




卒業式が終わって家でひとりになった瞬間に急に実感したりするのかな、なんて考える自分はまだ冷静。とか言って卒業式で泣くのかもしれないけど。





「あ、そうだ。卒業式終わった後どーすんの?クラスの奴ら集まるとか言ってなかった?」





確かにそんな事を言っていた。カラオケだかなんだかで集まって騒ごうぜ、みたいな内容の連絡が来ていたのは結構前だったと思う。





「オレはパス」


 

「だと思った」




「最後だからね」




「ん。最後だもんね」





何の約束もしていないけど、先生はきっと待ってくれていると思う。卒業式を終えたオレが最後の保健室に先生に会いにいく事を。










「相葉、来ないの?嘘だろ?!」




「ごめんって。マジな用事あってさ」




「なんだよ、その用事?!つーか、その用事終わってからでもいいから!来れそうだったら来いよ!待ってっから!」





卒業式を泣く事もなく無事に終え、集まりには行けない旨をクラスの奴らに伝えればこんな反応がありがたかった。連絡の取りやすい世の中は卒業での別れをそこまで意識しなくてもまたみんなで会える。オレが行かないことを残念がってくれるこのメンバーを見てそんな気がした。












いつも開いている保健室の戸は閉まっていた。




「失礼します。相葉です」




だけど鍵の掛かっていない戸はノブを回せば簡単に開いた。




「どうぞ」




卒業式ではスーツを着ていたはずの先生が、いつも通りにワイシャツの上に白衣を羽織って、いつも通りに椅子に座っていた。オレの声に特別驚くことも無く、本当にいつも通り。





「先生、ひとり?」




「だよ?お前も?」




「ん」




「集まりとかなかったわけ?」




「あるけど行かないって決めてたから」





オレの言葉に、そうなんだ、と呟くように言った先生が座っていた椅子からゆっくりと立ち上がって




「鍵、閉めて」




と、聞こえるギリギリの声で小さくオレに言った。









絶対にダメなんだと思っていた。ここは学校で保健室で。だからどう考えても絶対にダメなんだって、そんなことは何万回も考えた。先生のある意味で神聖なこの保健室という場所で先生を抱いてはいけないんだと何度も何度も自分に言い聞かせたのは、今日だってそうだったのに。







「翔さん……」




「ん……、アッ……」




「すげぇ……興奮する」




「雅紀……アッ……ダメ……だって……」





鍵をかけたオレに向けられた両手の中に飛び込むようにして先生の体を抱きしめた。抱きしめて夢中になってキスをして、それからオレたちは綺麗に整えられた保健室のベッドを乱して体を繋げた。






白衣のボタンを外す背徳感も仕切りの為の薄いカーテンも鳴ったチャイムの音も。




「泣くなよ」




今日でここに来る事が最後なんだと思うと卒業式では流れなかった泪が溢れ出て止まらなくなった。











「……マジで思ってんだよな?」




泪が止まらないオレに先生はめちゃくちゃ優しかった。何度も何度も頭を撫で、流れる涙を拭ってくれた。その優しさに甘えまくったオレはもしかしたら羽目を外してしまったのかも、なんて。





「思ってるよ!ここに来るの最後なんだって思ったらすげぇ寂しくてまじで泣きそうになったし。つーか泣いてたし」





これだってめちゃくちゃほんと。もうオレがこの場所に来ることは恐らく無い。先生の白衣姿を見る事も無いんだと思うと、寂しいだけの感情ではなく涙が溢れた。





「その割に随分じゃないですか?」




まだ落ち着いてない呼吸で先生が言うこともわかるけど。乱れた白衣も片方だけ足から抜けている下着も、何度も何度も先生の中に出した事も。確かに「随分」かもしれないけど、だけどそれも全部ホントなんだから仕方ないと思う。





「つーか、オレ、まだできるんですけど?」




そんな先生を見て欲情が収まる訳もなく。むしろ欲が増す。今迄に何度もダメだと言い聞かせてきたんだ。保健室では先生を抱かないって。どんな事があってもダメなんだって、ここに来る度に思っていたのに。





「嘘だろ……」




「嘘なわけないじゃん!だってオレまだめちゃくちゃ興奮してるし。ほら見てよ、まだ全然マックスなんですけど。つーかさ、マジで白衣の櫻井先生を保健室で抱くとか、ヤバくないですか?マジで!!」





謎に敬語。それくらいに興奮する。最後だという焦燥感も加味して。





「はぁ……。俺にはお前がやばいとしか思えない」




「ダメなの、翔さん」




「いや、別にダメってわけじゃねーけどさ」




「ほんと!?なら、良いんだよね?」





ダメだと言わない先生に甘えて、乱れた白衣のままため息をついた先生をまた抱いた。










「あ……言い忘れてたけど、卒業おめでとう」




「うん!ありがと!」




「もうお前が保健室に来る事も無いんだな」





すっかり乱れてしまった狭いベッドの上でふたり抱き合いながら、やっぱ寂しいわ、と言った先生が





「やっぱ、もう一回やる?」





そう言って、自分から白衣を脱いだ。








保健室



終わり