保健室 73 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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「珍しいじゃん」




あの日を境に昼休みにも放課後にも保健室に行くのをやめた。




「んー?」




「いや、この時間に帰るの珍しくない?」




「あぁ……」





その事について先生は今日まで何も言ってこない。





「昨日も一昨日もさ、この時間に帰ってなかった?相葉君ぽい人いるなと思ったけどまさかと思って声かけなかったんだけど」




「あー、オレだわそれ」




「まじ?……保健室は?」




こんな風に言われて動揺する。たったこれだけの言葉に。決めたのは自分なのに。




「卒業までのケジメってやつ?で行くのやめた」




はっきりとした言葉では言わなかった。でも先生は分かっていると思う。浴室で抱いた先生の、あの表情も反応も、オレがしようとしているケジメってやつに気付いたからなんだと思っている。




自分だけで決めたこのケジメってやつに後悔はしていないつもりでいる。だけどたった数日で寂しさも恋しさも苦しいほど酷い。何をしていても考えてしまっている。今まで以上に先生の事ばかりを。





「先生に何か言われたの?」



「いや、なんも言われてない」



「親?」



「違うよ」



「じゃ、なんで?」




先生が何か言ってくるのではないかと期待していたわけでは無い。だけど来ない連絡はオレを不安にさせる。不安になりたくて会いにいかないわけじゃないのに。すぐ側にいるのに。





「……なんでだろうね。自分でもわかんないや」




ただただ会えなくて寂しい。自分で決めたのに。どうしようもなく恋しいと思うだけ。






「様子見に行っちゃおっかなー」



「は?」



「あ、なんか急に腹痛が……」




全然痛そうな顔をしないで腹部を押さえながら言う二宮君が冗談で言っているのかそうでは無いのか分からないけど。だけどその言葉は保健室へ行くことを示しているのは明確で。





「嘘つけ」




「嘘じゃないよ」




「全然痛そうに見えないけど?」




「おれはね。でも、痛いんでしょ?痛いとは違う?不調?……だからおれ、相葉君の代わりに行くんだよ、保健室」





あー、痛い痛い、と言いながらもやっぱり痛そうな顔なんて全くしない。だけど手で押えるその位置が腹部ではなく胸の位置に変わった。




「明日は一緒に帰ろーよ。たまにはいいでしょ?あ、登校の時でも良いけど?」




そう言って低い位置で手を振り下駄箱のある玄関に背を向けて校内への戻って行った。








今までのオレなら間違いなく二宮君の背中を追った。理由は一つでは無い。先生に会えるチャンスを逃したくないのと、自分以外の誰かと先生をふたりきりにさせたくなかったから。そんな事は不可能だけど、せめて自分が見える範囲でそれは避けたかった。




だけど今日オレは二宮君を追う事をしなかった。必死でその気持ちを抑え込んだ。今先生の顔を見てしまったら簡単に欲という壁を越えてしまう事が自分で分かっていたから。




こんなに寂しくて恋しいなら会ってしまえば良いのにと思いながら。それでも会うと抱きしめたくなる。それなら会わなければいい。先生が罪悪感を感じないように。




やっぱりそんな事ばかりを考えながら家路に着いた。











会わないことが正解なのか不正解なのか。先生に相談すべきだったのではないか。ふたりで決めるべきだったのではないか。




考えるつもりがなくても先生の事ばかり考える。




今何をしているんだろうとか。飯は食ってんのかな、とか。煙草ばかり吸ってないかな、とか。そんな今迄に考えたことのなかった事まで考えるオレはおかしいのかもしれない。





「……翔……さん」




そして考えれば思い出す。先生を抱いた日の事を。



上気した先生の肌につけた赤い痕も、気持ちよさげに喘ぐ声も、オレを見る甘ったるいくらいの目も。



オレの背中に食い込む爪も。






「ダメかも、オレ……」




明日こそ先生の顔を見に保健室に行ってしまうかもしれない。抱きしめることもキスをする事も出来ないけど。






「はぁ……」




熱くなる体を我慢できない。本当はしたくないのに。この欲の全てを先生に注ぎ込みたいのに。





「……んッ……」




先生の中はこんなんじゃない。オレの全部を包み込んでくれるのに。




「……翔さん……」




自分の手しか知らなかった頃はこれが全てだったのに。







「……入れてぇ……翔さんの中に……」




濡れたティッシュが虚しかった。




「……何やってんだろ、オレ」




上げる下着にすら嫌気が差した。