保健室 72 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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「ダメだな、俺」




腕の中で先生が言うその言葉を微睡みながら聞いた。




「はぁ……」




ため息と一緒にオレの胸元に深く顔を埋め背中に回した手が強く抱き締めるから、微睡みから覚めたオレも先生の事を強く抱いた。







「大丈夫?」




「え?……あぁ、ごめん。起こした」




「大丈夫。ウトウトしちゃったけど寝てないから。翔さんこそ大丈夫?ダメって何が?どうかしたの?」




「え……?」




「翔さん言ってたよ?ダメだなって、自分の事」





微睡みの中確かに聞こえたその声は楽しいものではなさそうだった。体を繋げたあとの今、幸せでいてくれていると思っていたのに。





「いや、俺ってダメだなって思って。ダメだって分かってんのに止められなかった」




まだ顔をオレの胸元に埋めながら、なにやら反省的な話をし始める翔さんが愛おしくてたまらなくなる。あんなにもエロい姿を見せておいて、今更何かしらの反省をされても申し訳無いけど深刻になれないオレ。





「あは!何それ」




「笑い事じゃねぇわ。親御さんに会って決めたのに……。せめて卒業までは手を出さないって」




「ふふ、翔さん可愛い!!」




「だから!笑い事じゃねぇ!!可愛くもねぇ!!」





怒ったようにそう言うけど、情事の後、オレの腕から少しも離れる事なくそんな事を考えるなんて可愛以外の何ものでもないと思うんだけど。





「それなら聞くけど、やった事後悔してんの?」




「……してない」




「ふふ」




「笑うんじゃねぇよ」




「だって可愛すぎるんだもん、翔さん。後悔してないのに反省してるんだもん。すげぇ可愛いよ、ほんとに。それに、めちゃくちゃ気持ちよかったのはオレだけ?オレは後悔も反省もしない。すげぇ幸せだなって、今はそれだけだよ?」





先生だって良かったでしょ?見てたらわかるんだから。決してオレの独りよがりなんかではなくて、同じように先生だって気持ち良く感じてくれてたってこと。





「……風呂入る?」

 


「あ、話しずらした」




「別にそんなんじゃねぇけど」




「じゃあ、翔さんはオレとして気持ちよかった?オレ、翔さんの事気持ちよくしてあげれた?幸せな気持ちにしてあげること、出来た?」




「……お前、分かって言ってんだろ」





この一言だけで十分。あんなに大胆な行為の後、だけどこういうことに物凄く照れる先生のこれが精一杯なんだと分かるから。




「ん。わかって言ってる。翔さんもめちゃくちゃ気持ちよくてめちゃくちゃ幸せだってこと」




「……」




「だから後悔も反省もして欲しくないな」





オレの言葉に腕の中で何度も頷く先生の髪が擽ったくて気持ちいい。さっきまで汗で濡れていた髪はもうサラサラと音が聞こえそうなほど乾いていた。






「シャワー貸してもらっていい?」

 


「ん」




「翔さんも一緒に入る?」




「それはやめとく。帰せなくなるから」





オレが大人だったらきっと、もう少し自由なんだろうな。こんな風に帰りの時間を気にすることも無く、朝まで一緒にいて、一晩中先生の事を抱くことだってできるのに。





「わかった」





だけどオレはまだ学生で。黙認という形の親が家できっと待っている。本屋に行くと言って家を出たオレが先生と会って、恐らく体を繋げていることを承知で。





「じゃ、浴びてくる」





だからシャワーを浴びたら帰る。そしてきっともう会わない。言葉で決めた訳では無い約束をオレたちは今日まで守れなかった。欲を抑え込むことも出来ずに重ねた体は泣ける程に愛しくて。





後悔はしない。反省もしないし先生にもして欲しくないと思ったのは本当。だけど、今日この家を出たら卒業までオレたちは自分達の意思で会うことをしないんだと思う。良心の呵責な訳じゃない。そうしないと先生が先生自身の事を責めてしまうと思うから。







「やっぱ俺も浴びようかな」




「……あ、マジ?浴びる?一緒に?」




「いや、違うよ?時間短縮?ほら、お前送るのにこの体じゃ絶対無理だから」





確かに何度も達した先生の体はその分の体液で汚れた。その度に拭いたけど完全ではない。体の中にも大量にオレのが残っているはずで、少しでも動けば溢れ出るだろう。






「ふふ」




「笑うなよ、お前のせいだぞ」




「ふふ、うん。オレのせいだもんね、翔さんが気持ちよかったのって」





一緒に入ろ、と言って先生から体を離しベッドから出て先生を抱き上げた。先生の足の付け根から滴る液体は見えなかったことにして。







「雅紀」




「ん?」




「早く卒業しろよ……」




「……ん」





強く先生の事を抱きしめながら、何度も何度もキスをして、浴室へ向かった。








「……最後だから」




そう言って、浴室でまた先生を抱いた。少しの抵抗もされなかった。まだ体の中にオレの体液が残ったまま、鏡に手を付かせ後ろからできるだけ優しく先生の事を抱いた。







「好きだよ、雅紀」




少し曇る鏡越しで先生と目があった。




「オレも」




甘くは無い、切ない声だけを浴室に響かせた先生はきっと、最後だと言ったオレの言葉の意味を理解したんだと思った。