「1週間」 木曜日 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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ネクタイとシャツは相葉に借りた。




「サイズ、大丈夫?」



「ん」



「ごめんね?朝まで」



「いや。俺の方こそごめん」






昨日の仕事の後、メールに書かれていた住所に持てるだけ沢山の飲み物や食べ物を買って行った。




詳しい様子も分からないままインターホンを鳴らせば、どうにか開けてくれた玄関で見た相葉の調子は思っていたよりも辛そうだった。




いつもの朗らかでにこやかな笑顔はない。それは相葉の調子の悪さを物語っていて、だから俺なんかが来ない方が良かったのかもしれないと、玄関までの短い距離だけど歩かせてしまったことを後悔した。





『いらっしゃい。ありがと、ごめんね?』





それなのに俺の顔を見た相葉が無理をしてでも笑おうとするから胸が痛くなった。





『喋らなくていい。ごめん、辛いよな。ベッド行こうな』





ベッドへ戻る事を促してから体を支えるように抱き締めれば、めちゃくちゃに熱い相葉の体温に驚いた。













「スーツも貸すのに」





昨晩より調子の良さそうな相葉がベッドから起き上がって自分で選んだネクタイを締めてくれる。どうやらそれができるくらいには元気にはなったらしい。





「さすがにそこまでは悪いし、足の長さが違う事を見せつけられそうで怖いからやめとく」





冗談半分でそう言えば相葉が声を出して笑う。足の長さなんて変わらないでしょ、って言うけれどパッと見ただけでも全然違う。





「少しは良くなったのか?」





笑う相葉に安心する。やっぱりこの笑顔はいいと思う。良くなった顔色も昨晩とは違う食欲も、どれを見ても昨日よりはマシだと思うんけど、無理をしそうな性格だろうから一応。





「うん。お陰様で全然良いよ。大事をとって今日も休む事にはするけど」




「その方が良いな」




「オレより櫻井さんは大丈夫?ちゃんと寝れた?」




痛いところを突いてくる。相葉のあまりの調子の悪さに実はめちゃくちゃ心配で、その内その内と思っているうちに気付けば朝になっていた。





「大丈夫。仮眠はしたから」



「ほんと?ごめんね?来客用の布団とかあれば良かったんだけど」



「独身の男の一人暮らしにそんなの無いだろ」






本当はほとんど寝ていない。でもきっと言えば心配するだろう。だけど魘される相葉を放って眠るなんて俺には出来なかったししたくなかった。






「シャワーも借りたし、スッキリしてるからマジで大丈夫だから」




「……それなら良いけど」




「心配?」




「そりゃ心配だよ」




「はは!逆になってんじゃん。俺が相葉を心配して来たのに俺が心配されてるって変じゃね?」





本末転倒だな、って笑えば、笑い事じゃないよと相葉が怒ったように言う。初めて見るその表情に、笑顔も良いけれど、こんな顔もいいかもしれないなんて思う。





「オレのせいで櫻井さんの調子が悪くなるなんて嫌だもん」





怒った顔はどうやら心配の顔らしい。元々綺麗な顔は魘された翌日の朝の多少の髭面でも男前だな、なんて思うあたりどうかしてるのかもしれないけれど。





「丈夫が取り柄なんで、俺」



「確かに弱そうには見えないけど、さ。でも心配」



「そんなに心配しなくても大丈夫だって。それより相葉は今日もしっかり休めよ?」



「ん」



「またなにか必要なら届けるから連絡して?」




「ん……」





拗ねる子供みたいに怒るんだな。怒るというよりは心配してるんだろうけど。本当にそんなに心配しなくても大丈夫なのに。仕事や付き合いでの徹夜や家でもベッドまでたどり着かずにソファーで仮眠なんてのも良くあるんだから。





「なら試してみようか」



「何を?」



「俺が体調を崩すか崩さないか」





嫌いじゃないと思っていた笑顔はいつの間にか好きになっている。



食の好みが一緒なのも良い。頼んでくれた店でのメニューも社食でのナポリタンもそうだった。




たかが社食での昼食に行けない事に後悔するなんて思わなかったし、可愛いと言われるような女が相葉の事を好きらしいとわかって苛立った。





「何それ。ヤダよ、櫻井さんが体調悪くなるの嫌だし」




体調の悪い相葉を見てどうにかしてあげたくて朝まで居座って。髭面の朝の相葉を見ても綺麗な顔立ちだと思う。





「いいじゃん。試させてよ」




体調が悪いのは自分なのに俺の心配ばかりをするこの男のどこをとっても嫌いなところはひとつもない。





それに気付いてしまった俺はきっと





「うそ、だろ……」





俺からのキスで顔を真っ赤にするこの男の事を好きになっているんだと思う。そういう意味で。