潤が海外に行ってしばらく経った。潤が行った当初食べることさえもままならなかった俺だったけど、雅紀との距離が近づいて以降ちゃんと食っている。
自炊は相変わらず皆無。切って焼くだけの調理すらしていない。だけど冷蔵庫の中は割と充実してると思う。
「翔さん、今日は何食いたい?」
何故って、時々こうやって雅紀が俺んちで手料理を食べさせてくれるようになったから。
「なんでもいい。雅紀の作るご飯ってなんでも美味い」
「ほんと?それなら嬉しいけど」
「マジマジ。めちゃくちゃ俺好み」
「ふふ、翔さんってオレに甘々だよね。弟くんの料理だって好みだったでしょ?」
そう言われて思い出す。潤が作る料理も確かにめちゃくちゃに好みだった。きっとそれは潤の努力。俺の好みを把握をするのに一生懸命だったんだろう。だけど雅紀のはこの短期間の付き合いしかない。だからきっと、そもそもの食の好みが合うんだろうと思っている。
「まぁ……な」
「あ!また遠慮してない?そーゆーの無しでしょ?」
「はは、ごめん。そうだったな」
「弟くんは?元気にしてる?」
「ん。元気にやってるみたいだよ」
「それなら良かった」
雅紀はこうやって時々、弟の事を聞いてきてくれる。俺が自分から弟の話を振る事がなかったのは意識的に。何となく避けてしまったのは雅紀のためか自分のためか。
「そっちは?ママは元気なの?」
「あ?あぁ、姉ちゃん?元気元気。超げんきだよ。最近彼氏が出来たみたいでさ。オレに来るのは惚気の連絡だけ」
「はは、それなら良かったけど。また雅紀の体狙われたらたまんねぇから」
「ほんと。……マジで勘弁だよ。今は大丈夫だけどさ、今後のためにも翔さんの事言っちゃおうかな」
でもそれはそれで面倒な事になるかなぁ、なんて悩む姿を見るのも幸せを感じちゃったりして。
「つーか、もうバレてんじゃん?なんならあの時店にいた客も何かしら気付いたと思うぞ?」
「えーーー?そう?でも姉ちゃんなんも言ってこないよ?」
「んー、あの直前に俺、マジな相談しちゃってるからなぁ。それママが覚えてたら聞けないかもよ?」
あの日久しぶりに行った店がまさか雅紀の姉ちゃんがママだったなんて想像すらできるはずがなくて。あの時結構参っていた俺はママの明るさと優しさに全部をさらけ出しても良いかな、なんて思ったんだっけ。
「何それ?!翔さん、姉ちゃんになんか相談してたの?」
「あぁ……相談って言うか。相談仕掛けたところにお前が入って来たっていうか」
「え!オレ??」
「そ、お前」
そして店で俺見つけた雅紀は、速攻で俺を抱きしめてくれたんだけど。はたして覚えているんだろうか。
「そうだったんだ。それならタイミング良かった。姉ちゃんにでも良いけどさ。あの人そういうのほんと真剣になってくれるから。でもさ、その相談、姉ちゃんじゃなくてオレにしてよ」
そう言った雅紀が、俺を抱きしめてくれたからきっと、あの時の事も覚えてくれているんだろうと思う。