ある朝、5歳児クラスの拓也くんが登園して来ると、私の前へ来て、
ちょっとうつむき加減で、私の目を正視せずに言った。
「ボクは‥、独りでおうちから保育園まで来ないといけないんだ。」
小さな声だが、きっぱりと。
「どうして? おじいちゃん連れて来てくれたじゃない。」
彼はお祖父さんと来ていた。
「でも明日から、独りでおうちから保育園まで、来ないといけないんだっ!」
彼は、目を伏せたまま唇をふるわせて言った。
「どうせ、もう出かけないといけないのに、出かけるお支度してなかったとかで、『もう一人で行け』っておじいちゃんに言われたんでしょ。」
私が笑って言うと、彼は畳み込むように言った。
「支度はできてたっ ただ‥、カッパを着るのが嫌だったんだ。」
「おじいちゃんは、カッパを着なさいって言ったの?」
「うん。」
「でも拓也君は嫌だったの?」
「うん。」
「おじいちゃんは拓也君が濡れないように言ってくれたんじゃない。」
「でも、カッパは着たくなかった ‥ボクは、明日から独りでおうちから保育園まで来ないといけないんだ。」
「道、知ってるの?」
「知らない。」
「じゃあ、おじいちゃんのお話ちゃんと聞いて、一緒に来ないと。」
「ボクは‥明日からおうちから保育園まで独りで来ないといけないんだっ」
彼の心は固まっているようだった。
翌日、彼は保育園をお休みしていた。
ひょっとして、本当に一人で家を出て迷っちゃったか
翌々日は5歳児クラスの遠足の日、私が出勤するともう5歳児さんは出発した後だった。
拓也君は来たのだろうか‥‥?
お昼頃、雨が降り出して、5歳児はカッパを着て保育園に帰って来た。
その仲に、カッパを着た拓也君の姿も見えた。
カッパ‥、 ( ´艸`)
和解したか。
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