去年、本屋で目に飛び込んできたのが『14歳からの啓発禄』。また14歳からのシリ~ズ本か…と思ったのですが、帯の「14歳の時の5つの誓い」を二度見して、思わず手に取って、ペラペラめくってみてしまいました。

 

 

これは橋本左内が14歳の時に書いたものを、死の一年前に親友に序文を書いてもらって浄写して弟と愛弟子に贈ったものだといいます。時代が違うとはいえ、その文章はもちろん内容にいたるまで、あまりにも成熟しており素晴らしく驚愕してしまって即購入してきました。

 

これを読んでふと思い出したのが、中学生の時に『アンネの日記』を読んで、自分の日記との違いに愕然としたことです。その頃、アンネに負けないように一生懸命真面目なことを書いていたものでした。しかし、それとも比較にならない橋本佐内の成熟さには、時代性以上のものが感じられると同時に、14歳でここまで人生というものが見えていた橋本左内少年の見識の鋭さに圧倒されました。そしてこういう本こそ、同年代の中学生が読むべきではないか、私も読みたかったと考えました。しかし、今からでも遅くはない、こうした言葉を知って良かったと思ったのでした。

 

橋本左内は、天保五年三月十一日に生まれ(1834年4月19日)ですから、幕末明治の志士を多く輩出した天保六年と同時代の生まれです。橋本左内が満年齢19歳の時に浦賀にペリーが来航していますが、その後江戸に遊学した左内は、父の後を継いで医学を勉強していました。しかし江戸での多くの人との交流と時勢の中で、医学から離れたくなり安政二年(1855年)に藩医を解かれ御書院番に転じた後、藩主の松平春嶽の側近として登用されます。その頃14代将軍を巡る将軍継嗣問題で、春嶽を助け一橋慶喜擁立運動を展開しましたが、安政五年(1858年)井伊直弼が大老になり、将軍も家茂が継ぐと、井伊大老は一橋派の粛清(安政の大獄)に乗り出し、春嶽は隠居謹慎となり、左内も親戚宅に幽閉されました。そして翌年死罪となり満25歳で没しています。

 

左内は「いずれ世界には国際連盟というものができ、その中心となるのはイギリスやロシアといった力の強い国になるだろう。この厳しい国際社会の競争を生きていくには開国してそのどちらかの強国と連盟を結ばなければならない」と語っていたといいます。これは当時の世界を見渡してもここまで見通していた人はいなかっただろう考えです。それを開国前の日本で考えていたほど先見の明があったのです。そしてだからこそ、その才能を見込まれて春嶽が若い左内を側近としていたのでしょう。

 

日本とイギリスが同盟を結んだのはそれから44年後の1902年、国際連盟ができたのは62年後の1920年のことです。

 

あの西郷隆盛は「自分は先輩として藤田東湖に敬服し、同僚では橋本左内に敬服している。この二人の学才、才器、見識は到底自分の及ぶところではない」と言わしめたといいます。

 

井伊直弼は、その才能を恐れたともいわれていますが、才能を恐れるなどということがいかに大きな損失を生むかを物語るのかが、橋本左内の人生です。

 

本書は瀬戸謙介氏が、原文と口語訳に解説も加えた内容となっています。また瀬戸氏の空手道場で本書に刺激を受けた14歳の言葉も記載されています。以下HPより↓

 

幕末の英傑・橋本左内が満14歳の時、自らに対する誓いを記した『啓発録』。

【1】 稚心を去れ
【2】 気を振い立たせよ
【3】 志を立てよ
【4】 学問に励め
【5】 友を選べ

の5項目から成り、一人前の大人になるために、どのような心掛けで日々を過ごすか、という覚悟や決意が綴られています。

本書は、武士道などの講義も通じて人間教育を行う空手道場「瀬戸塾」の師範である著者が、現代に生きる14歳に向け、その内容を意訳した一冊です。

同塾では2009年から、14歳を対象に自分の人生に対して自覚を促し、志を確立させるための「立志式」を行っています。

「立志式」までの3か月間、毎週『啓発録』に学ぶ立志者が、どのように変化・成長していくのか。

「14年間僕を大事に育てて下った両親に親孝行し、身体を張って育ててきたかいがあったと思ってもらえるような人間になるために努力していきたいと思います」
(中学2年・男子)

「橋本左内さんが立てられた5つの誓いは、今の僕に足りないものばかりでした」
(中学2年・男子)

本書を手に取る14歳の少年少女が、橋本左内のように志を立て、力強くこれからの人生を歩んでもらいたいと
切に願います。


 

『啓発録』は私が今まで全く知らなかっただけで、他にもいくつもの紹介本があり、よく知られていた本です。なぜ今まで全く知らなかったのだろう、と思いますし、この内容を読んでいい歳になってもまだ左内少年には敵わないし、なぜここまで老成していたのだろう、とこの歳だから考えることもありました。

 

良書は、どんな年齢にも響くのです。本書はその内容もさることながら、5つの志がそれぞれ補完する内容であり、また繋ぎにもなっているという文章の巧みさにも驚かされます。そして思い浮かべるのは野球の大谷翔平さんです。大谷さんは高校時代に将来のための計画を立てたことが知られています。何かをなり遂げる人は、十代のうちに、そうしたことを行うものなんだと思うと、私は何をやっていたんだ~と恥ずかしい限りです。

 

岡倉天心は、左内の親戚だった乳母から左内のことを聞きながら育ち、多大な影響を受けたそうです。それはまさしく左内が『啓発録』で書いている内容そのものです。

 

いかに、こうしたこと、あるいはこうした人物を早く知ることが重要なことであるか、ということではないでしょうか。

 

本日は旧暦三月十一日ですから、190年前の本日が橋本左内の誕生日でした。

 

左内の他の書も収録してあるこちらもお薦め↓

 

 

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才能を恐れ、消し去ることは、十七条憲法でいう妬みではなかったか?

 

 

 

 

 

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