続日本紀の養老四年(720年)五月二十一日の記事にこうあります。

「是より先、一本舎人親王(いっぽんとねりのみこ)、詔を奉じて日本紀を修(あ)む。是に至り功成りて奏上す。紀三十巻、系図一巻。」
神社検定テキスト「神話のおへそ『日本書記』編」より

 


この日本紀とは、日本書記のこと。本日は旧暦では5月21日です。つまり1302年前の本日、日本書記が時の天皇である元正天皇へ奏上されたのです。暦は何度も改暦されているので単純に旧暦にあてはめてます。2年前は、日本書紀編纂1300年という記念すべき年だったわけです。

 

本来であれば、東京五輪と重なる年のはずでした。最近の五輪では、が開催国の成り立ちを開会式で演出することが多いことや、野村萬斎さんが演出に関わっていたことからきっと日本書紀1300年関連の演出がされると期待していました。古事記編纂1300年の年に盛り上がったのは一部だったように感じられたので、日本書紀1300年という日本にとって意味のある年に五輪が開催されることで、もしかしたら五輪を機に古事記のときよりも盛り上がるのではないかと密かに期待し、深い意味を感じていました。しかし、コロナ禍により開催年が1年ずれ、野村萬斎さんは降りてしまい、中途半端な演出になってしまったのはご存知の通りです。実際の所、野村萬斎さんがどのような演出をされる予定だったのか、日本書紀に関するものがあったのか、今でも知りたいなあと思っています。

 

さて、舎人親王は天武天皇の皇子でその天武天皇の発案で、記紀の編纂は始まりました。舎人親王はその王子の大炊王が後に天皇に即位(淳仁天皇)したことから、崇道皇帝と追号されており、日本で唯一皇帝号を持つ人物でもあります。

 

日本書記には天武天皇10年(681年)3月17日に、天皇が川島皇子以下12人に対し「帝紀及び上古の諸事」を記録するように命じ、中臣連大嶋と平群臣子首が執筆したことが記されていて、これが日本書紀編纂のスタートであったと考えられています。

 

天武天皇はその五年後に崩御されますが、その後も編纂は続けられ、39年後にやっと編纂が終了したわけです。

 

この間、天皇は持統天皇、文武天皇、元明天皇、元正天皇と御代が変わっており、世代でみると元正天皇は天武天皇と持統天皇の皇子である草壁皇子の皇女ですから孫の世代となっていました。

 

天武天皇晩年に誕生した皇子の舎人親王もこの時既に44歳です。

 

日本書記は国家事業として公式に編纂された歴史書といいます。

 

その意図は天武天皇の同母の兄天智天皇の時代に白村江戦で負けたことから、古事記と同様「稽古照今」、古を稽みて今を照らすものとして、指標となるものを学ぶためと、日本の歴史を内外に示すためといわれています。
 

一般に、古事記は国内用、日本書記は国外用と言われていますが、日本書記も平安貴族が歴史を学ぶために活用したことが知られています。

 

自国の歴史を振り返って、誇りと自信とを回復し、さらには日本という国のあり方を対外的にアピールすることにも力がそそがれた、その結晶が日本書記の編纂事業だったわけですが、外にアピールすることにより内にもアピールできることは今も変わらない姿でもあります。

 

日本書記は、皇室を中心として発展してきた日本国家の歴史と理想を内外に示す国民意識の源泉としての書となっているのです。

 

これは歴史を知ることが確固たる人となり、そうした人がいてこそ確固たる国となるという基本教育のためであったといえるかと思います。歴史教育は国だけのためではなく、その人自身も強化する教育です。


また古事記も日本書記も神話から始まっていますが、これも大事なことです。神話というのは神話となるぐらい昔から続いてきたことを物語るものだからです。長く続いてきたことは、そこになんらかの続いてきたことの意味や理由があります。そうしたことを学べるのが神話であり、そこには民族の特性が現れています。神話を学ぶことはとても重要なことであり、古今東西スパイがまず最初に研究することはその国の神話であると云われる所以です。


イギリスの著名な歴史学者、アーノルドJトィンビーの言葉「12~13歳までにその民族の神話を学ばなかった民族は例外なく100年後滅んでいる」と語っています。神話は各国の歴史の始まりとしてあったもので、どの国も神話から始まるのは古来普通でした。ところが現在神話から続く国で現存している国は一つしかありません。つまり、民族の神話を学ばなくなって滅びてしまったのです。ギリシャ神話も、ローマ神話も、エジプトや他の国々の神話も今ある国とは繋がっていません。

 

我国、日本は世界中でただ一つ神話から繋がる国で現存している唯一の国です。だからこそ、その神話から始まる我国の歴史書である古事記や日本書記が大事です。記紀は同じように記載されている所や記載が違う所などがありますが、それもまた歴史でもあります。切り口や編纂する人により、これほど変わってしまうという事実でもあるということです。だから、我が国の基本として、記紀を学ぶことがとても大切となります。

 

 

 

日本書紀入門書として、「ねずさんの世界に誇る覚醒と繁栄を解く日本書紀」は読みやすい一冊。本書には、古事記は「天皇の統治はいかにあるべきか」をまとめたもので、日本書紀は「民衆が豊かに安全に安心して暮らせる国を築くには何が必要なのか」まとめた書であると書かれています。そして日本書紀30巻のうち、代表的な個所をピックアップして取り上げながら、全体の構成もわかるように紹介してます。また、その解説も他の解説本には書かれていないことが記されており、注目です。

 

 

「FULL POWER」には、歴史を知る人ほど有能であり、家族や創業史などどんな形であれ組織が自分達の起源の物語と繋がっているときに、最もうまくいくと書かれています。人は自分の原点である歴史を忘れてはならないということです。日本の場合、その原点は古事記であり日本書紀である、ということになります。なぜ、戦後ウオーギルドインフォメーションプログラムで、日本の歴史教育がズタズタにされたのか?それは、歴史教育、神話教育が国を強くすることが世界の常識であるからです。神話は歴史の一部です。
 

 

「敗戦復興の千年史」は天智天皇、天武天皇の時代が理解しやすくなると同時に昭和の戦後復興についても考えさせる本。戦後復興はまだ全然終わっていない。なお、記紀編纂は、当時の戦後復興の一部です。
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「日本文明の真価」には、神道についてこう書かれています。

それは自然と一体となる思想で、自然をあるがままに受け止め、畏敬し、感謝し、自然に溶け込もうとする考えである、神道は他宗教のように聖人賢者が上から押し付け与えたものでなく、民族の発生と同時に生まれた「民族の体質」や「民族の志向性」が、そのまま信仰になったものである。それは日本の豊かな風土と生活環境に育まれてきたもので、日本人の体質そのものと言ってよい。教祖を持つ宗教は、絶対の唯一神に絶対の価値を置き、それ以外を否定する排他性を帯びやすい。これに対して神道は、多宗教と比べて、きわめて寛容性、包容性に富み、争うことはない。

 

現在多くの人たちは神道について教わらなくなっていますが、こうしたことは日本神話によって始まる記紀、古事記や日本書紀を読むことによって多くの日本人が理解しやすくなるのではないかと思います。そしてそうすれば、現在世界中で起きている暴動やテロがなぜ日本人からすると奇異に映るのかも理解しやすくなるかと思います。つまり根本的な考え方が違うということです。

 

また記紀を知ると、地域の神社との結びつきにも気づかされるのではないかと思います。

 

2年前、徳島の大御和神社の境内の八割が売却され大半の御神木が伐採されようとして、住民の反対により押しとどめたということがありました。ここは文武天皇の時代から続く歴史があり、それだけ長い間ご先祖様が守られ来た地域の神社だといいます。そうした神社が地域との何の相談もなくいきなり、八割なくなるというのは大きな損失となりますし、そうした売却をいきなり進めることができてしまう宮司や総代というのにも違和感があります。

こうしたことが起きるというのは、全て繋がっているように感じられます。氏子が減り神社の維持が難しい時代となっており、大小にかかわらず多くの神社がその維持のための工夫をしています。しかしこの神社の問題は、たんに氏子が減ったというだけでなく、多くの人たちの神社との関わりが減り無関心であるということがあるように感じられますし、そうしてしまったのは戦後神社や神道との関わりを断絶するようにされてしまったことが大きいのではないかと思うのです。

だからこそ、こうした機会に日本書紀を知ることで、少しでも多くの人が日本を知り、日本を知ることで神社に興味を持つ人が増えることで少しづつでも日本人と神社の関わり方が戻っていけばいいと考えています。

 

ただ、そうしたじわじわとした変化が起きる前に、どれだけの神社が失われてしまうか?とも考えるのですが。少しでも維持ができればいいのですが、失われてしまえば二度と元には戻りません。各神社に残されている祭祀、独特なお祭りはなくなってしまえば元に戻すことはできませんし、地域の杜としての存在がなくなることは潜在的な地域との結びつきの破壊となることでしょう。神社は、神職だけのもの、存在ではないのです。

 

日本=天皇であり、日本は神社文明の国であると考えています。そうした日本を、日本独自のものを護ることができるのは日本人だけです。

 

 

 

 

 

 

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