こんにちは。
今回は数少ないマセラティの思い出を二つお話ししましょうか。
東京でデザイン事務所をしていた頃のお話です。
バブルは崩壊していましたが、バブルとあまり関係のないいつでも景気の良さそうな会社の専務と知り合いになりました。
彼は「親父(社長)が考えた社名があんまり好きじゃないから、社名とマークを変えて欲しいんだよね」と言うのです。
その会社では印刷物や制服や看板や物流用のクルマのラッピングなど、デザインに関わる作業が多くありざっと見積らさせていただいたところ、300万円ほどの見積もりになりました。
その見積もりを見た専務は「オッケー!お願いしますよ!」と二つ返事で了解をしてくださり、僕は早速作業に取り掛かりました。
作業中は幾度となく専務にプレゼンを行うために会社を訪れるのですが、その度に「チャリーモくん、この後ヒマ?」と人懐こい笑顔で飲みに誘われるのです。
僕は銀座や六本木の高級バーにこの専務と初めて行きましたし、一般人は入ることができない会員制のバーにも顔が覚えられるまで連れて行かれましたし、カウンターの寿司屋でも何度も酒を酌み交わしました。
「ここは僕が」と支払いをできるようなお店は一軒もありませんでしたし、その当時僕はまだ20代だったので、いつも専務の言葉に甘えてご馳走になりっぱなしでした。
とある晩の一軒のクラブでのお支払金額は60万円と言うこともありました。
払いたくても払えませんよね。
練馬区にあった会社なのですが(今もありますよ)、銀座や六本木までどう言う風に移動したのか?
はい、マセラッティですよ。
専務のマイカーはマセラッティのスパイダー・ザガートでした。
スパイダー・ザガートで男二人で練馬から六本木まで飛ばします。
で、二人とも呑んだくれます。
クルマはどーなるの?って思いますよね?
それが正しい反応です。
実は、スパイダー・ザガートと並走してメルセデスのS500(だったと思う)が付いてくるのです。
そこにはボディガードのような見た目の屈強なブラックスーツのおじさんが数人乗っていて、専務のあらゆるオーダーに答えるのです。
専務が「今晩は飲みに行くから」と言えば、ブラックスーツはクルマに待機します。
専務はバーの前の路上にスパイダー・ザガートを乗り捨てて店内に入ってしまいます。するとSクラスからブラックスーツが降りてきて、スパイダー・ザガートをパーキングに移動したり、ドライバーズシートに座って駐車違反を回避したり、とケースバイケースで立ち回るのです。
あの人たちは多分会社の経費で働いていたんだよなぁ。会社の人たちは文句言わないのかなぁ。
今考えるとヒヤリとしますね。
前述のように景気のいい会社だったから、みんなに等しく分配していて、誰も文句もなかったのかもしれませんよね。
そう言うことにしよう。
スパイダー・ザガートが脇役になっていますけれど、そんなお話です。
それまでに僕もイタリア車は何台か乗っていましたが、マセラッティはちょっと別格でしたね。
走りはもちろんですが、匂いの濃厚さが違う。
専務は大概幌を閉じていましたので、車内に入るたびに、クラクラする匂いがしていました。
オープンにすると盛大に風を巻き込みながら疾走するワイルドな直線マシーンに変貌するのでした。
しかし、当時の僕は「スパイダー・ザガートには所有したい」と言う魅力は感じていませんでした。
車体が一体いくらするのかも知りませんでしたし、僕とは別次元の暮らしをする専務が所有するクルマを僕が維持できるとも思いませんでした。
そんな「デザインと寿司と酒の日々」にも終わりの時がやってきます。
いよいよ完成したデザインを全て納品して、お支払いをしていただく時がやってきました。
忘れかけていましたが、そのために働いていたわけですからね。
その時に専務が言った言葉を僕は忘れることができません。
「チャリーモくん、ギャラはマセラッティじゃダメかな?」
一瞬、ほんの一瞬だけ「あ、いいかも」と思ったことを白状しますが、次の瞬間には「専務~、それはダメですよ~」と言っている真面目な僕がいました。
全くこれと同じ仕様でしたね。
「ちょっと言ってみただけだよ。チャリーモくんクルマ好きだから喜ぶかな~?と思ってさ!」
お金に困っているわけでもない専務のことですから、本当にそう言うつもりで言ったのだと思います。
無事に現金でのお支払いをいただいた後、カーセンサーなどで「スパイダー・ザガート」の価格が暴落したのです。
今では価値を再発見されて、スパイダー・ザガートの価格はかなり高騰していますが、当時は「現金でいただいておいて良かった!」と本気で思いましたね。
本日もクルマの紹介まで文字数が回りませんでした。
明日はご紹介できるかな?
冒頭で「マセラッティの思い出話を二つ」と書いていますが、一つしか書いてないですね。
明日はそれを書くから、クルマのご紹介は明後日になってしまうかもしれませんね。
では、また!