電車での移動中、あざりはずっと不機嫌だった。
自分で勝手に失敗して、勝手に落ち込んで、勝手に真冬の隣で不機嫌になる。昔と何にも変わっていない。あざりはやっぱり、あざりのままだな、と真冬は思う。
「ここで降りるよ」
真冬はあざりの手を引いている。あざりは黙ったままで、でも抵抗はしない。真冬に自分の体の動きを任せていた。
あざりの頭の中では今、きっと真冬では理解できないような複雑な感情が渦巻いているのだろう。女の子は男の子よりも繊細で複雑なんだと子供のころにあざり本人がそう言っていたことを真冬は思い出す。
水族館で笑ってくれたから、機嫌が直ったのかな、と思ったのだけど全然甘かった。ずっと一緒にいてくれる僕にとって奇跡のような存在であるあざりのことですらこうなのだから、僕はきっと女の子という生き物を一生理解することはできないんだろうな、と真冬は考え苦笑いをした。
あざりが真冬のコートを引っ張った。
「どうしたの?」
真冬が聞く。
「………おしっこ。トイレよりたい」
あざりは言う。
真冬は迷路のように複雑な駅の中で女性用トイレの場所を探すため、大きな柱にくっついている地図を見てその場所を確認した。そのあとで何度か道に迷いながらも真冬はあざりをトイレに連れて行くことに成功する。
あざりは繋いでいた手を離すと、無言のままトイレの中に入っていった。
一人になった真冬は通行の邪魔にならないよう通路の壁際に移動して、そこであざりを待つことにした。
その間、人の流れは絶えることがなく、数え切れないくらいたくさんの人たちが真冬の前を通過して行った。真冬はそんな光景をぼんやりと眺めている。
……水族館、楽しかったな、と真冬は思う。
思っていた以上に面白かった。貴重な体験だったし、たくさんの新しい発見があったし……、それにあざりがいてくれた。
楽しいと感じた一番の理由は、悔しいけどたぶんそれかな。
そんなことを思う自分が何だがおかしくて、真冬は珍しくふふっと笑った。
「何笑っているの?」
声をかけられ隣を見ると、そこにはあざりが立っていた。頬が膨らんでいるから、機嫌はまだなおってはいないようだ。
「いや、別に何も」と真冬は言う。
あざりは黙っている。
真冬はそんなあざりの手を握ると、先ほどと同じように目的の出口に向かって歩き出した。するとあざりもさっきまでと同じように真冬のあとについて歩き出す。
二人が駅の外に出ると、雪の勢いは少し弱くなっていた。