「涙はどうなの?」
ぼくは涙の顔を見る。
「どうって何が?」
涙もぼくの顔を見る。
「さっきからぼくのことや真冬のことだかりじゃないか。涙はどうなの?将来はどんな風になりたいの?」
涙のことだから、きっと何にも考えてないんだろうなとぼくは予想していた。しかし、それはどうやら間違いだったようだ。涙は意味ありげな顔をしてぼくを見つめる。
「ちゃんと考えてるよ」
「え?本当?」
「うん」
「それって何?涙は将来、何になるの?」
涙はふふっと笑う。
「お嫁さん」
「え?」
「わたし、将来、真冬のお嫁さんになるの。それが、わたしの将来の夢なの」
ぼくの胸がズキンと傷んだ。
「あざり、どうかしたの?」
「え?いや、なんでもないよ」
ぼくは頑張って笑顔を作ろうと努力する。でも、どうやら涙の表情から判断すると、ぼくの努力は失敗に終わったようだ。
「あざり?」
そのとき、ドンドン、とドアを叩くことがした。
「涙、あざり。そこにいるの?いたら返事してくれない?」
真冬の声が聞こえる。
ぼくの予想通り、真冬は涙を助けに一階までやってきたようだ。
怖がりのくせに。
「あざり。真冬が来てくれたみたいだよ」
「うん。これでようやくこの部屋から出られるね」
ぼくと涙は立ち上がってドアの方に歩いていく。
手が震える。
足がもたついている。
だらしない。
本当にだらしないな、ぼくは。
涙がドア越しに真冬と何か会話をしている。
どうやら涙はこの部屋を真冬に見られたくないらしく、真冬をドア越しに説得しているようだった。
その間、ぼくは意識を自分の内側に集中する。
もうすぐ、真冬がドアを開けてぼくたちの前にやってくる。
そのときまでに、ぼくは、いつものぼくに戻っていないといけないんだ。
ぼくは視界を部屋の内側に向けた。
そうやって、なるべく涙や真冬の存在を一時的にぼくの世界から遮断する。
すると、ぼくの目が床の上の魔法陣を捉えた。
いや、魔法陣がぼくの目を捉えたのかもしれない。
ぼくは魔法陣を見て驚いた。
本が、開いている?
いつの間にか、床の上で本が両開きになっている。あの、ぐるぐる巻きにされたリボンは、どこにも見当たらない。
ぼくの目は、どうしても、その本の開かれたページから、目をそらすことができなくなってしまった。
そして、ぼくの前にとても深い闇がその姿を現した。
ぼくはその闇の中に落ちていく。
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