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「おしゃべりって何についておしゃべりするの?」

「そうだな。今、ここには私とあざりしかいないんだから、真冬の話をしようか?」

 ぼくは少し迷ってから涙の提案を断ろうと思った。何となく『本とは違った意味で』嫌な感じがしたからだ。

「あざりは、真冬のことどう思っているの?」

 しかし、それは間に合わなかった。

 涙はとても楽しそうな顔をして、真冬の話を始めてしまう。しかも、いきなり、一番聞かれたくないことをズバリ聞かれてしまった。

「どうって、友達だと思ってるよ」

 ぼくは涙の顔を見ないようにしながら、そう答えた。

「それだけ?」

「それだけだよ」

「ふーん」

 ぼくは頭の中で何か話題を探した。とりあえず、この話題でなければ何でもいい。

「あざりは将来のこと考えたりしてるの?」

 涙はまるでぼくの苦手な話題をわざと話しているのかと思うくらい、ピンポイントでぼくの聞かれたくないことを聞いてくる。

「考えてない」

「あざりの夢は何?将来はどんな職業に就くつもりなの?」

「それも、考えてない」

「嘘」

 ぼくは涙の顔を見る。

「あざり、わたしに嘘ついてる。でもダメ。わたしにはあざりの嘘がわかるもの」

 ぼくは涙に何も言わない。それは、涙の言ってることが本当のことだったからだ。

「あざりのご両親は二人とも学校の教師なんでしょ?やっぱりあざりも教師になるの?」

「いや、ぼくは」

 教師にだけはならないよ、と言いかけてやめる。

「ぼくは、何?」

「なんでもない」

 ぼくは天井を見る。そこにはチカチカと裸電球の明かりが灯っている。

「真冬のご両親がどんな仕事をしてるか、あざり、知ってる?」

「知らない」

 それは嘘ではなく本当のことだった。ぼくは『そう言った話』は真冬とはできるだけしないようにしていた。それは真冬も同じで涙はぼくの両親が教師だと知っているけど、真冬はそれを知らないはずだ。

「真冬のご両親はね、二人とも帝国大学の教授なんだよ。お父様もお母様も数学の博士なの。すごいよね。やっぱり真冬も、将来は数学の世界で生きてくのかな?」

 それはない。

 真冬はきっと『数学の世界』にだけは関わりを持たない人生を選ぶだろう。

「真冬の成績なら、どんな世界だって生きていけるよ」

 ぼくは真冬の将来を想像してみる。

 すると、大人になった真冬はどこか遠い異国のような場所にいた。姿形は真冬のままだが、背が大きくなり、少し体もがっちりしているように思える。服装は旅姿。

 そうか、大人になった真冬は自由に世界を旅しているんだ。

 真冬らしいな。