98(本の記述 森のルール) | amesekaiのブログ

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 この辺で少し、森のルールについて補足しておこうと思う。

 まず、森の中に入るということは、外の世界を捨てるということである。森の中で人は本来の名前を失い、無名の人になる。名前を失うことで人はその記憶を失う。記憶を失った人は自分の形を失う。

 そうやって森の中では誰もがみんな平等になる。そこに社会はなく、人を縛る家もなく、得るべき富も、失う名誉もない。ただ、森が存在するだけだ。森は本当に素晴らしい世界なのである。

 森の中は自由がある。そこで暮らす人は何をしてもいいし、何もしなくてもいい。
 
 その代わり、森にはいくつか簡単なルールがある。

 それは法ではなく、あくまでルール。たとえそれを故意に破ったとしても、その人が罰を受けることはないし、森から追放される心配もない。

 ルールとはつまり『契約』であり『約束』のことだ。

 約束を守るのは当たり前のことである。そして、たとえそれを破ったものがいたとしても、それを許すのが友達なのだ。決してその人の存在を無視してはいけないのである。

 森は『人に罰を与えるため』に生み出されたのではない。『人を許すため』に生み出された世界なのだ。

 森の中ではみんなが自分の力だけで暮らさなければならない。集団を抜けてこの森にやってきたものはみんな個人なのである。だから人とのつながりを求めてはならない。森で暮らすものはみんな、暗い穴なのである。人の形をした穴。ぽっかりと空いた空間。人として社会の中で暮らすことを諦め、手を離し、その結果できた穴。それが森で暮らす人の正体である。

 それを自覚することが大切だ。でないと名前を取り戻し、記憶を取り戻し、人の形を取り戻してしまう。

 そうなってしまったら、もしかしたらその人は森の敵になるかもしれない。そのときは、森は自らの存在を守るため、その人を追放する可能性がある。それはとても恐ろしいことだ。だから森で暮らすものはみんな、森から追放されることだけを恐れている。

 ぼくたちは家を捨てた。だから森を追放されたら、家を持たないぼくたちには帰るべき場所がないのだ。そうなればその人は森と世界の狭間の暗闇の中を彷徨い続けることになる。

 そうなったものを助けることはできない。狭間の闇はとても深くて冷たい。その深淵を覗き込むことは何人にもできないことだからだ。

 だから森で暮らすものは家の温もりを求めてはならない。それが森のルールなのだ。

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