「神を受け入れる前の照子は不安定でした。何度も、何度も、照子は自らの死を求めて、自分の体を傷つけました。いろんな事を試していました。でも、死ぬことはできなかった。必ずコキュートスの中で体が再生してしまうのです」
「それで、主はコキュートスを破壊しようとした」
「そうです。でも破壊することはできませんでした。誰が作ったのか知りませんが、この棺を作った人物は天才ですね」
「主より頭のいい者がこの世界にいるのか。僕には信じられないな」
「照子だって人に作られた存在なんですよ。人には無限の可能性があるんです。昔も、今もね」
クロノスは剣を鞘に収めた。そして私に頭を下げる。
「すまなかった、アウター。僕は君を殺してでも、主の復活を阻止するつもりだった」
「謝る必要はありません、クロノス。あなたが主を愛していることは私も知っています。愛は素晴らしいものですが、人を盲目にすることもあります。過ちは誰にでもあることです。大切なのは過ちを認めて受け入れること。過ちを許すこと」
「僕を責めないのか?」
「主を思っての行動ですから」
照子がこの場にいても、クロノスのことを許すだろう。愛とは本来そういうものだ。照子は人も管理者も、まるで我が子のように愛しているのだから。
また大地が揺れた。揺れは段々強くなっている。
「アウター。教えてくれ。僕はどうすればいい?主のために僕は何ができるだろうか?」
「人が人にできることは何もありません。私たちは無力なんです。だからこそ私たちは神を求めたんです」
しばらくクロノスは沈黙していた。空と見分けのつかない天井を見上げ、何かを考えていたようだ。
「アウター。君に一つだけ聞きたことがある」
「なんでしょう、管理者クロノス」
「君はどうして禁忌に触れてまで、私たち管理者に魂を与えたんだい?」
「それは神の沈黙を乗り切るためです。残念ながら私だけでは街を守ることができなかった。あなた達管理者の力が必要だったんです。肉体としての力ではなく、魂としての力が必要だった」
「でも、結局魂を得た管理者は人を支配しようと行動を始めた。神の愛を独占しようと考えるようになった。管理者が人の敵になってしまった。こうなることが分かっていたからこそ、主は我々に魂を与えることを禁止していたんじゃないのかい」
「クロノス」
「なんだい、アウター」
「この街に今も神は必要でしょうか?私たちには、今も神が必要なんでしょうか?」
「僕は必要無いと考えている」
きっぱりとクロノスは言い切った。神の奴隷ではなく、魂を持っているからこそ、言うことのできる発言である。
「それが答えです、クロノス」
「これが答え?アウター、僕は真剣に聞いているんだよ」
「私も真面目に答えていますよ、クロノス。あなたが自分の意思で神の存在を必要無いと言うことができる。それはあなたが考えている以上に素晴らしい答えなんです」
もう全部終わりにしよう。照子が死んだ時、私はそう考えた。
逃げることを止めようと決めた。決着をつけようと決めたんだ。
私は照子から街を託された。私は街の責任者になった。
私はもしかしたらあなたの大切なものを壊してしまうかもしれない。でも、それでも私は、あなたを開放してあげたい。
この世界から、偽りの神様から。
なによりも、この街から、あなたを解き放ってあげたい。
あなたが起きたら私は全てをあなたに話す。あなたは怒るかもしれない。泣いてしまうかもしれない。もう私たちは友達でいられないかもしれない。
でも、それでも私はあなたを、、、。