飢餓海峡 | 記憶のための映画メモ

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こんにちは!
大好きな映画も数日で忘れてしまう我が記憶力。
ユルユルの脳味噌に喝を入れるための映画ブログです。


飢餓海峡


1965年/日本/183分
監督:内田吐夢
出演:三國連太郎、左幸子、伴淳三郎、風見章子、高倉健、藤田進、最上逸馬、安藤三男、他
おすすめ度(5点中) → 4.3


――― あらすじ ―――――――
昭和22年に青函連絡船沈没事故と北海道岩内での大規模火災が同時に起きる。火災は質屋の店主を殺害し金品を奪った犯人による放火と判明。そして転覆した連絡船からは二人の身元不明死体が見つかった。それは質屋に押し入った三人組強盗のうちの二人であることが分かる。函館警察の弓坂刑事は、事件の夜に姿を消した犬飼多吉という男を追って下北半島へ赴く。(allcinemaより)


―――  感想  ―――――――

午前十時の映画祭で鑑賞。どよーんと重たい気分になってしまいました。


映画は三部構成になっていて

①台風が吹き荒れ青函連絡船が沈没。同じタイミングで北海道の岩内では大きな火災が起きていた。火元は質屋から発生。質屋の人間は殺され金品は強奪されたうえで放火されたものだと判明する。どうやら三人の強盗が犯したものだと分かるが、はたして内二人は転覆した青函連絡船から出た身元不明の死体として発見される。残った一人は犬飼多吉という人物であり、捜査にあたった弓坂刑事はこの男を追いかける。そして当の犬飼多吉は青森の大湊に流れ着き、花屋(売春宿)で働く杉戸八重と出会う。犬飼は杉戸八重の借金を返済できるだけのお金を渡してその場を去る。

②杉戸八重が上京。彼女は戦後間もない東京で必死に働きながらも恩人である犬飼のことを思い続ける。そして10年後、彼女は新聞で舞鶴の実業家・樽見京一郎なる人物の写真を見てビックリする。それは犬飼その人だったのだ。そして彼女は舞鶴へと行くのだった。

③杉戸八重と男の死体が海岸で発見される。男は樽見京一郎のところで働く書生のものだった。警察は杉戸八重の衣類からある新聞の切り抜きを発見。それは樽見京一郎の記事だった。警察は樽見京一郎を事件の重要人物としてマークするのだが…。


って感じの183分です。個人的には、一部と二部のじっくり作られた感じが好きなのですが、三部に入ると警察の取り調べが続きそれがけっこうスピーディーなもんで、なんか軽い印象になっている気がしてしまいました。



▲序盤、岩内で強盗&殺人&放火をした三人は北海道から本州へ逃げようとする。ちょうど函館では台風で青函連絡船が沈没してパニックになっていたので、彼らはどさくさに紛れて救命ボートに乗り込むのだが、後日二人は遺体となって海岸に。


▲一人生き延びた犬飼多吉は青森の大湊へ。彼は途中列車で一緒になった杉戸八重を訪ねていたのだが、彼女は花屋(売春宿)で働いていた。彼女は犬飼の訪問を喜びとても親切に対応するんだけど、僕は演じた左幸子に魅了されっぱなしでした。人懐っこくて、ちょっとエロくて、ええ人やなーと(´∀`)。そして犬飼は彼女が抱える借金を返済するのに十分な金を渡してその場を去ります。


▲一方、犬飼を追いかけていた弓坂刑事は杉戸八重に接触するも、彼女は恩人である犬飼をかばい知らぬ存ぜぬを貫きとおすのだった。


▲上京した杉戸八重が心の支えに犬飼の爪をずっと持っているのが、あまりにも感動的。希望や思い出のかけらを手放せずにいる人間描写に僕は弱いのです(笑)。そして杉戸八重はこの爪で妄想愛撫をするんだけど、その描写にはゾクゾクしてしまいました。素晴らしいシーンだったと思います。


▲彼女が働いている東京の売春街も、味がありましたな。

上京後最初は小料理屋で働いていた杉戸八重が、結局売春宿に流れ着くのも何とも言えないものがありました。で面白いのは小料理屋の人は冷たいけれど、売春宿にいる人たちの方が親切なんですね。もう同情して同情して、書いているだけで涙が出てきそうです。


▲杉戸八重が舞鶴であった樽見京一郎。

犬飼とはまったく違う人間を演じ分ける三國連太郎が凄すぎます。

樽見京一郎は「犬飼など知らない、あなたのことも知らない」と言うけど、雷鳴が轟き窓(またはカーテン)を閉めに行った樽見京一郎の親指を見て、杉戸八重は一発で嘘を見抜くんですね。「あっやっぱり犬飼さんだ」と。犬飼の親指はトロッコで轢かれた傷があり、爪切りをしたことがある杉戸八重はその親指のことを覚えているんですね。素晴らしい伏線回収。


▲そして「犬飼さん犬飼さん」と、10年思い続けた恩人に近寄る杉戸八重ですが、当の樽見京一郎=犬飼多吉は彼女の首の骨を折って殺してしまいます。


その後の捜査はポンポンと話が進んで何だか重みがなかったですなー。


▲追い詰められた犬飼はもう一度北海道へ行きたいと申し出て、船に乗るんですが…。


この映画はサスペンス性をもった展開も魅力ですが、それよりも必死に生きようとする貧困経験者の生きざまに強く心打たれてしまいます。あと重要なテーマとして相互理解の欠如というものが潜んでいますね。


後半、犬飼が真実を話すと言っても一向に警察から信用してもらえないことに顕著ですが、誰も犬飼のどん底人生を知らないんです。同じように、犬飼は10年間思い続けてきた杉戸八重の思いを受け止めることができない。杉戸八重は秘密を共有できたであろうに。前半、弓坂刑事は犯人三名が救命ボートを燃やすシーンを想像していますが、あえてミスリードするよう映像化しています。誰かが誰かの行動を考える際のズレをここでも描こうとしていると感じてしまうのですが、それは考えすぎでしょうかね。結局、細部まで明らかにせずに終幕しているのは、相互理解の欠如を描きたかったからだと思います。