五月二十八日は、薄ぐもりの暖かい日でした。
ピピの寝箱を居間の軒下に置いて、中の毛布をかわかしています。
わたしが居間のサッシごしに見おろすと、その寝箱にいつのまにかピピが入り込み、眠っていました。
(あらまあ、なんという堂々とした眠りっぷり・・)
はい。
ピピのその眠りっぷりは、からだがまるっきりの裏がえしです。
両目は毛布のひだの下にかくれているから、あたりを見ようにも見えないし、耳穴も、頭と毛布の間でつぶれるようにふさがれています。
(目も耳もふさいで、なんという無防備な・・)
そして、あごから首、胸からおなかはというと、だらだらな曲線をえがいて伸びきり、両脚はパカッと全開で、そこだけ見たら、滑空中のモモンガを下から見上げているみたいです。
でも、このモモンガのしろい両腕は力がぬけ、人間でいうとひじのところと手首のところでジグザグに折れて、ちょこん・ちょこんと幽霊みたいに胸のわきに浮かんでいるのでした。
(・・そおっ・・・・)
わたしはカメラをつかむと、静かに庭へ出て、ピピに忍びよりました。
「カシャッ、カシャッ・・」
無防備モモンガ犬、撮りっ!
でも、その鋭いシャッターの音にも、ピピはめざめません。
(あら・・・)
わたしはかがみこみ、ひろげた右の手のひらでそうっと、ピピをなでました。
・・ふかい雪山のようにふかふかの、厚く高い、まっしろな胸。
くぼんだみぞおちのあたりで雪は浅くなり、地面のブチもようがうっすら透けています。
そこではしろい毛の流れがあつまって、大きな蝶々のようなかたちをつくっています。
その蝶々をさらに下ると、ちいさなお乳がたくさん並び、薄桃いろの肌にアンズいろのもようが、薄桃海とアンズ大陸の地図のようにえがかれています。
わたしがそこまでなで終えたところで、ピピはようやく、気がつきました。