馬走りとパジャマの残骸 | 4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

アメリカ暮らし漫画と昔の日本での愛犬物語です。

 九月二日。
仕事から帰ったわたしは、二階の着替えの部屋へ上がり、タンスの引き出しを開けて、古いTシャツを取り出しました。
そして、いきなりそれを、ハサミでちょきちょき切りはじめたのです。

 

はい。

これは、ピピのパジャマをつくるためでした。
Tシャツの布は伸び縮みするから、ピピが動きやすいと思ったのです。


四畳半の着替え部屋には西日が射し、熱がこもっていました。
わたしは汗だくになって

ちょきちょき ちょきちょき ちょきちょき ふきふき

汗をぬぐいながら、Tシャツを切りました。

着替え用のもつくったので、わたしのTシャツが二枚、ピピのパジャマになりました。

ピピは、このあたらしいパジャマも、すぐに泥で汚して暮らしました。


 そして九月五日。
パジャマは、ピピが歩きまわったり、寝ころんだり、おしっこがついてしまったりで、茶いろく汚れてしまっていました。
いかにも「ぼろ」を垂れた、暑苦しい姿です・・

 

パジャマを着ているように動物病院のお医者にいわれた日にちは、もうすぎていました。

わたしは、草原の道を歩きながら

きりっ

と、決意を固めた顔をしました。


そして、ピピの背中へ手をのばすと、パジャマのひもを解き、布をはずしたのです。

ピピはもう、なにも着ていません。
そのことがとてもうれしいらしく、ピピはニカニカの笑顔になりました。
だうっ! だうっ! だうっ!!
まるで馬みたいに、足裏で地面を鳴らして走ります。

 

記念すべき、喜びのこの日、九月五日。

草原で、ピピはついにパジャマを完全に脱ぎさったのです。


いっぽう、わたしは脱がせたパジャマを
ぶらぶら ぶらぶら ぶらぶら・・・・
手にさげて歩きました。

そうして西南の角までやってきたとき、ほんとはいけないことなのですが、深い草むらの中に

ぴゅいっ!
と、捨ててしまいました。

 

ですから、今でもそこを探せば、くちゃくちゃになって得体(えたい)のしれない、奇妙なちいさな木綿の布きれの残骸が見つかるかもしれません。