こねこたちは、わたしにしつこくまとわりつきました。
後ろ足で立ちあがり、わたしの薄い夏用パンツに両手の爪を立て、しがみついてきます。
”・・・ニンゲンは、タベモノをもっている・・・”
そのことを、知っている。
ということは、これまで人間に飼われていたか、食べものをもらったことがあるのでしょう。
でも、その必死の懇願と、薄い布をとおして伝わってくる爪の鋭さが、わたしには気味悪いのでした。
いっぽうピピは、どうして自分だけ仲間はずれになるのか、わかりません。
わたしとこねこたちがグルグルちいさく回りながら集まっている場所から少し離れたところで、途方に暮れています。
その時わたしは、鉄工所の前にジュースの自動販売機があるのを思い出しました。
車にもどり、お金をとりだして、歩いていきます。
販売機には、炭酸系のしゅわしゅわする飲み物が並んでいました。
ねこは、炭酸を飲むのでしょうか・・
あ、「ミルクセーキ」がありました。これなら猫が好きそうです。
わたしがその「ミルクセーキ」を買ってもどると、こねこたちとピピは、緊張感でいっぱいのまま、向かい合って立っていました。
「はい、ミルクセーキどうぞ」
わたしは缶のふたを開けました。
でも、その缶の中身は、なにかがおかしいのです。
どろり・・・
と固まっているし、なんだか酸っぱいにおいもします。
わたしはおそるおそる、一口すすってみて、顔をしかめました。
「くさってる」
鉄工所の人たちは、きっとずいぶん長い間、ミルクセーキを飲まないのです。
自動販売機の中でじっと座ったままのミルクセーキは、その長い間に古くなり、ついに腐ってしまったのでしょう。
というわけで、こねこたちへのごちそうは、おじゃんになってしまいました。
そしてピピはというと、ついにこねこたちに認めてもらえませんでした。
翌日、わたしたちはまた、この草原にやってきました。
が、かれらはどこにもいなかったのです。
トンビかカラスに、やられてしまったのでしょうか。
それとも、人間に拾われたのでしょうか。
わたしには、わかりません。
でも、ピピにはわかったのかもしれません。
なぜなら、犬たちはその黒いおおきな鼻で、何がそこにいたか、誰がそこに来たか、わたしたち人間には見えない過去を、くっきりとつかまえることができるからです。