第5章 3月・きみは、おんなのこなんだよ?
「マーチ・ヘア」という英語を知っていますかピピ。
「マーチ」は3月、「ヘア」は野うさぎ。
ピピのずっとずっとご先祖のビーグルは、イギリスで生まれたウサギの専門家です。
昔、イギリスのお坊さんや殿様たちが野ウサギ狩りをするとき、たくさんのビーグルたちと出かけたそうなのです。
そして、この野ウサギに「3月」がついたら、「きちがい」という意味。
なぜなら、3月になるとウサギが発情してくるったようになるからなんですって。
その3月になったとたんの一日目。
ピピは、きちっと3月ウサギになりました。
わたしの左うでに、いきなり両うでをまわします。
(ぎゅっ)
としがみつき
(ふんふんふんふん!)
おしりをふります。
その時のピピはせなかを丸め、顔は真剣でせつないのです。
ピピは、わたしの優位にたちたいのでしょうか?
強い犬は、じぶんより弱い犬のせなかにまたがり、じぶんが「上」だと確認します。
ピピはそれとも、わたしが「好き」なのでしょうか?
そのせつないひょうじょうは、あとのほうみたいに思えてしまいます。
でもね、ピピ・・・ きみは、女の子なんだよ?
というわけで、女の子のピピへ、ある日わたしは
「うなちゃん、くちべに、つけてみる?」
(「うな」というのはピピの異称です。ピピはたくさんの名前をもっていますね!)
と言って、ピピのとがった口先に、あざやかなバラいろのくちべにをさし出しました。
ピピは
「??・・・・」
においをかごうと、顔をつき出してきます。
そこへすかさず
(ぽぽぽっ!)
スティックを押しあてました。
「わ! ちょんちゃんたら、おちょぼぐち」
ピピはしばらく、そのおちょぼぐちデザインの顔でたかたかと歩きまわっています・・・
でも、そのうちに長い舌でなめとって、もとのおおきなビーグル口の素顔にもどってしまいました。