ソヴィエト連邦のスターリン(1878-1953)の暴虐は歴史で知り、

話に聞いてきた。しかし私の知識は、主に反政府的思想や言論、

政敵に対する抑圧、大粛清だった。こんな酷いことがあったのに…。

ホロドモールは、1932~33年に、スターリンの工業優先の政策によって
穀倉地帯ウクライナから穀物が輸出用に収奪されて起きた大飢饉。

なんと1450万人が死亡。

これは実話。ガレス・ジョーンズというジャーナリスト、
彼の真実を求める姿、対する新聞界、権威等、今の問題を感じさせる。


赤い闇 スターリンの冷たい大地で」  ★4.5

 

http://www.akaiyami.com/

ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン、若草物語のMr,ブルック)は、
世界恐慌の中で、なぜソ連経済だけが好況なのかと、疑問を抱く。

一時期、英首相ロイド・ジョージの外務顧問であったことを利用し、

1933年、スターリンのインタビューを口実にモスクワに飛ぶ。

外国人記者にはソ連当局がぴたりと張り付いて監視を続け、
ジョーンズが電話し、頼りにしていた先輩記者は前日に殺されていた。

記者クラブのエイダ(ヴァネッサ・カービー)は、小さな声で一言、
「ウクライナ」とささやき、ジョーンズは工場見学を名目にウクライナへ。

見張りをまいて乗り換えた列車の中で、ジョーンズが食べるパンには、
人々の視線が突き刺さり、捨てたオレンジの皮に飛びついて食べる。

雪の覆うウクライナの地でジョーンズが見た光景、触れた人々の悲惨。
親や兄を亡くし、幼い子供だけが残った家でのシーンには言葉を失う。

ジョーンズの記事が若造扱いで信頼されず、NYタイムズモスクワ支局長の
ウォルター・デュランティ(ピーター・サースガード)が模範農場の取材等で
ピューリッツア賞を得た話は、ジャーナリズムのあり方を鋭く突きつける。

ジョージ・オーウェルが、農場主を追放した動物たちが

理想の共和国を目指すが、独裁者と化した豚の恐怖政治に陥る

『動物農場』(1945年)を描く姿も描かれる。

原題はポーランドでは Obywatel Jones(市民ジョーンズ)、そして

ウクライナではЦіна правди(真実の代償)。

英語ではMr. Jones。

歴史の真実、独裁の恐怖、ジャーナリズムの問題等、今に通じる。
ソ連やスターリンの恐怖政治を少し知っている方が、理解しやすいが、
実話だけに切実で、底冷えするスリルが満ち満ちている。お勧めです。


オマケね。

1)ガレス・ジョーンズについてのwiki
後日だけど、彼は本当に命を賭けてしまったのだった。享年29歳。
https://en.wikipedia.org/wiki/Gareth_Jones_(journalist)

2)ポーランドのアグニェシュカ・ホラント監督。「ソハの地下水道」を見ていた。

https://ameblo.jp/ameoyoyo/entry-11376542257.html

3) ウクライナのドキュメンタリー「The Living」。
20分くらいからスターリン、24分くらいにガレス・ジョーンズが出てきます。
https://www.garethjones.org/bukovsky_living_kyiv_premiere.htm