前回の記事『雨を描く➀そんな表現があったのか!』でご紹介した通り、西洋画ではあまり描写されない雨を線で表現した浮世絵

 

ゴッホも真似するほどにインパクトがありました。

 

 

今回は具体的にどんな工夫がされていたかを紹介していきます!

 

描かれている人々のユーモアあふれる姿とともにお楽しみください。

 

 

 

二種類の線を用いる 

前回に紹介した歌川広重の『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』

 

隅田川にかかる「大はし(新大橋)」を、急な夕立に驚いた人々が急いで渡っています。

 

名所江戸百景 大はしあたけの夕立》歌川広重

《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》歌川広重 メトロポリタン美術館蔵

 

拡大してみると

 

黒く垂直な線細くて薄い線がありますね。

 

角度と墨の色の違う二種類の線を用いて雨の激しさを物語っています。

 

川の向こう岸にあたる「あたけ(安宅)」の地域をシルエットで描くことにより、見通しのきかない雨の激しさを物語っています。

 

空の部分は摺師によって漆黒にぼかすことで雨雲を表現しています。ぼかしにはいくつか種類がありますが、この画では「当てなしぼかし」が用いられています。ぼかす部分の版木を濡らして絵具を含ませ、印をつけずに見当のみで摺ると、当てがなく偶然の形に滲んでぼかしが生じることから名づけられたようです。そのため、一枚ごとに異なる仕上がりになります。

 

これらの技術は雨の版画によく用いられます。

 

 

密に書く 

雨の激しさの表現は他にもあります。

 

まずは喜多川歌麿の絵本四季花。

《絵本四季花》喜多川歌麿

《絵本四季花》喜多川歌麿 メトロポリタン美術館蔵

 

画全体に均一に緻密に線が描かれています。

 

子供が母親に泣きつき、女性が耳をふさいで蚊帳に逃げ込んでいるところから遠くでは雷鳴が轟いているのでしょう。

 

続いては、近江八景之内 唐崎夜露。

《栄久堂板 近江八景之内 唐崎夜雨》歌川広重

《栄久堂板 近江八景之内 唐崎夜雨》歌川広重 メトロポリタン美術館蔵

 

線の幅を変えたり疎密を繰り返しています。

 

大きな松のシルエットが臨場感を増しています。上部には黒くぼかしを入れて雨天が表現されていますが、水平でまっすぐな一文字ぼかしというものです。空を表現していることから天ぼかしとも呼ばれます。

 

次の作品も歌川広重です。彼は雨を描いた作品が多いですね。

《東海道五拾三次之内 庄野 白雨》歌川広重

《東海道五拾三次之内 庄野 白雨》歌川広重 メトロポリタン美術館蔵

 

白雨(はくう)とは白日(昼間)の激しい夕立のことです。この作品も一文字ぼかしから下りる力強い線に粗密が用いられ、よく見てみるとその傾きが違っています。

 

背景の竹やぶは方向・濃淡の異なるシルエットも用いて三層に描かれており、竹やぶの深さやそれをざわざわ揺する風の強さが表現されています。

 

急な夕立に慌てているのでしょう。最初の『大はしあたけの夕立』と同様に人々が背を向けあって各々の方向へと道を急いでいます。背景が暗いため、明るい色で描かれた人々に躍動感がありますね!

 

よく見てみると右端の人が持つ傘には「竹のうち」「五十三次」と書かれています。この「竹のうち」とは、版元(出版社)である保永堂の主人、竹之内孫八を指しています。つまり宣伝です!


 

 

帯状に書く 

ここからは表現が全く変わってきます。

 

《名勝八景 大山夜雨 従前不動頂上之図》二代目歌川豊国

《名勝八景 大山夜雨 従前不動頂上之図》二代目歌川豊国 メトロポリタン美術館蔵

 

雨が傾きの違う直線で描かれていますが、それに合わせて帯状に色が付けられており、雨の激しさを際立たせて奥行きを持たせています。「雨降山」とも呼ばれた大山の石尊大権現のご利益の強さを物語っています。遠くには富士が見えますね。

 

《六十余州名所図会  美作 山伏谷》 歌川広重

《六十余州名所図会  美作 山伏谷》 歌川広重 シカゴ美術館蔵

 

白く帯状に強風を伴った横殴りの雨を表現しています。紙の余白と同じ色であるため、何も塗らないことで描いているのでしょう。真ん中の人が傘を飛ばされている様子が滑稽でありつつ風の激しさを醸し出します。

 

 

どんな色を使う? 

ここまでに挙げた作品は墨で黒く描かれていました。他にはどのようなものがあるでしょうか?

 

《江戸八景 吉原の夜雨》溪斎英泉

《江戸八景 吉原の夜雨》溪斎英泉 パブリックドメインのものを使用しています。

 

こちらは藍色です。藍色を用いた雨の浮世絵は少ないです。

 

《五月雨の景》歌川国貞

《五月雨の景》歌川国貞 メトロポリタン美術館蔵

 

国貞の『五月雨の景』では雨だけでなく水面の波紋まで藍色が用いられています。

 

《忠臣蔵八景 五段目の夜の雨》歌川豊国

《忠臣蔵八景 五段目の夜の雨》歌川豊国 国立国会図書館デジタルコレクションより

 

定九郎老人から金を奪おうとする場面。雨は白色で描かれています。

 

《新板浮絵忠臣蔵 第五段目》葛飾北斎

《新板浮絵忠臣蔵 第五段目》葛飾北斎 パブリックドメインのものを使用しています。

 

同じ場面で同じく白色ですが、余白と見比べてみると同じ色をしています。これまでのように雨の部分を掘り残すのではなく、雨の線を掘ったのですね!下は同じ場面の歌川広重の作品ですが、白色の方が夜の雨の冷たさ場面の恐ろしさが伝わってきます。

 

《忠臣蔵 五段目》歌川広重 メトロポリタン美術館蔵

 

 

さいごに 次のテーマ 

ここまでいかがだったでしょうか

 

線と一言で言っても様々な工夫が見られます。

 

次回は線以外にどのような表現の工夫があったのか深掘りしていきます!

 

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