この世には、本人の意思に反して、国家によって、何らかの行為を強制されると、「政府に、〇〇を強制された。金銭で償え」と叫ぶ人が、少なからず存在する。
個人と個人でさえ、当事者として契約を結んだにも関わらず債務を履行しなければ、何らかの行為を強制される。例えば、民法414条1項の出だしには、「債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる」と、書かれている。
また、所得税を、一定の期日までに納付しなければ、政府は、国税通則法40条に基づき、滞納者の財産を強制的に取得する。
もちろん、全ての条文に強制力がある訳ではないが、法令や条約は、単なる"お題目"の寄せ集めではなく、言わば、強制力の束である。法律や条約に強制力がないのなら、存在する意義がない。
事実だけを淡々と書かせていただくなら、日本は、条約に基づいて、朝鮮半島を統治し、1938(昭和13)年4月1日公布の国家総動員法4条によって、「勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民ヲ徴用シテ総動員業務ニ従事セシムルコトヲ」得た。
「政府に、〇〇を強制された。金銭で償え」と叫ぶ人は、法令に基づき強制されることと、法令に基づかずに強制されることの違いが、全く理解できない人である。
半島の鉄道も、南樺太の鉄道も、台湾の鉄道も、元は、日本が初期投資をし整備したものである。その原資の大半は、日本人の税金である。来月に発効60周年を迎えるあの条約によって、それらを含め多くを、日本人は強制的に放棄させられた。
日本人は、条約に署名をすることの意味を理解しているので、今になって「納めた税金を返せ」などと叫ぶ人は、一人もいない。
神奈川県横須賀市にて
佐藤 政則