人は、生まれて死ぬまでの間、様々な問題に直面し、困窮する。問題に直面し、現に困窮している人、それから、早晩、困窮しそうな人を、国が救う。社会保障を短く申し上げれば、そういうことになる。
現に困窮している人を救うことを、救貧と呼び、早晩、困窮しそうな人がそうならないよう予防することを、防貧と呼ぶ。
日本では、地縁集団の中での助け合いと、血縁集団の中での助け合いが補い合って、様々な問題に対処してきた。なので、社会保障の仕組みが導入されたのは、西欧諸国と比べて、ずっと後である。
以前、書きました通り、内務省から分離独立させて厚生省が設置されたのは、1938(昭和13)年であり、厚生年金保険の前身である労働者年金保険の根拠法が施行されたのは、1942(昭和17)年である。
この世において避けることができない苦を、生老病死という。生老病死に深く関係する問題、つまり、病気やけが、失業、障害、老齢、高齢時の介護、死亡などに対処するために、各種の社会保険がある。子育ては、この世において避けることのできない苦ではないので、社会保険の対象になっていない。
現に困っている人を救う場合、社会保険制度は使わず、生活保護法に基づき、必要な物やサービスや金銭を支給する。
早晩、困りそうな人がそうならないよう予防する場合、社会保険制度に基づき、必要な物やサービスや金銭を支給する。
子育ては、大変である。子育て中である、現に困っている人を救うための救貧制度は、既にある。生活保護法に基づく生活扶助や教育扶助などである。子育ては社会保険の対象ではないが、家族の扶養を支援するために、所得税に扶養控除という制度が、既にある。にもかかわらず、子ども手当、児童手当という名目で金銭を支給する。
この国の財政は、現在、そういう愚策の実行を見過ごせるような状態ではない。