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ゆめのおはなし

ゆるゆるな不定期更新ブログです。

西園寺玲子はホストの世界では有名な社長令嬢で、気の強そうないかにもお嬢様って雰囲気の女性だった。

その西園寺玲子は、NO.1ではなくてなんと俺を指名した。ホストになって初めてのビックチャンスが訪れた。

オーナーにも声をかけられ気合を入れて席についた。

「聖夜一樹です。ご指名ありがとうございます」

玲子さんは、ケースからタバコを取り出すと口にくわえた。すかさずライターを取り出しタバコに火をつける。

「安っぽいライター使っているわね。このライターあげるから使って」

見るからに高そうなライターをテーブルの上に置いた。

「ありがとうございます。何をお飲みになりますか?」

彼女のオーラに圧倒され少し緊張気味に聞いた。

「この店で一番高いお酒を三本ちょうだい」

玲子さんはあたり前のように頼んだ。

「は、はい」

月に一本出るかという高級ボトルを三本も注文するなんてスケールが違うな、俺はますます圧倒された。

ボーイを呼んで注文すると店のホスト全員が集まりコールで盛り上げると全員で乾杯をした。

玲子さんは、ニコリともせずお酒を飲んでいた。

ヤバイなんか盛り上げないと……。

「物まねします」

「戦場、カメラマンの、渡部、陽一です」

俺は、最近覚えた物まねを披露した。店内は静まりかえり、外したと思った。

「あはははは。」

笑い声が聞こえた。

「知っているわ、テレビで見たことある」

玲子さんは手を叩いて喜んでいた。

「久しぶりに笑ったわ」

よかった。何とか気に入ってもらえたようだ。

その後、高級シャンパンも入れてもらい、玲子さんを外まで見送ると上機嫌で帰っていった。

その後ヘルプに任せっぱなしにしていた千鶴の所にもどると、気分が悪くなったらしくしばらく前に帰ったあとだった。

俺はその日、お店の最高売り上げを記録した。

次の日も千鶴はお店にきた。

「昨日、具合が悪くなったって聞いたけど」

俺は、棒読みの台詞のように感情のこもらない口調で聞いた。

「うん、もう平気」

「そうなんだ。シャンパンでいいよね」

高級シャンパンを頼むとヘルプに任せて席をたった。千鶴はいつもの寂しそうな顔になった。

またあの顔だ。こっちまで気が滅入ってくる。

しばらくして、玲子さんが来店した。

「また、お会いできてうれしいです。玲子さん」

「今日も笑わせてちょうだい」

そう言うと玲子さんは、今日も一番高いボトルを三本入れてくれた。

学生のときやっていたギャグを披露すると玲子さんに挨拶をして千鶴の席に着いた。数分も経たないうちに玲子さんの席に戻ると玲子さんは、露骨に嫌な顔をした。

「なにあの辛気臭い娘」

「私の指名客です」

「一輝も私についているなら、お客は選ばないと」

玲子さんは、千鶴に聞こえるように大声で言った。

いたたまれなくなった千鶴は、お金を置いて泣きながらお店を出て行ってしまった。

それから毎日来ていた千鶴は、ぱったりと来なくなった。あれだけ冷たくすれば、無理もないか。むしろ長続きしたほうだと思った。

ホストの仕事は絶好調で相変わらず指名も入るし、玲子さんも時々来ては高級ボトルをいれてくれる。

忙しさに追われて、千鶴のことは気にもとめていなかったが、それから一週間ほどして千夏という女が店に来た。

「一樹さんご指名です」

千夏は、やさしそうな顔立ちで髪はストレートの黒髪のセミロング、初めてあったと思うがどこかで見たことがあるような気がした。彼女は千鶴の妹だった。

「どうしたんですか? 千鶴さんも急にこなくなったし、騙されたとかそんな話じゃないでしょうね。ホストって言うのはですね……」

「そんなんじゃありません。ただここではちょっと」

俺が声を荒げながら話始めると千夏は、話をさえぎるかのように大声を出した。しかし、なんだかはっきりしない。

実際、面倒くさいなと思ったが少し気になったので「じゃあなんですか?」と大声で怒鳴った。

仕方ないと思ったのか彼女はゆっくりと話を始めた。

千鶴と俺が初めてあった日、昔から身体が弱かった千鶴は余命一ヶ月だった。酔っ払いにからまれているところを俺に助けてもらい初めてホストクラブに行ったことを千鶴はうれしそうに彼女に話してくれたという。

それから今まで貯めた貯金をはたいて毎日ホストクラブに通っていたと言うことだ。

「なんで俺なんかのためにそこまで?」

俺は、千夏に尋ねと「初めて男の人に優しくしてもらってとてもうれしかった」と千鶴は言っていたという。

そして彼女は、自分の代わりに千鶴の貯金でホストクラブに通って私を指名してほしいと頼まれたそうだ。

私はいつしか涙が溢れて止まらなくなっていた。

「今、千鶴さんはどこに……どこにいるんですか?」

涙を拭いながら訪ねると

「姉は一週間前に急に具合が悪くなって病院に入院して3日前に亡くなりました」

千夏はハンカチで目を押さえながら答えた。

「俺なんかに会わなければ彼女はもっと違った幸せな最後が送れたかもしれない。

ちゃんと話してくれれば……。話してくれれば、彼女にもっと優しくしてあげられたのに」

いや違う、俺は余命一ヵ月のことは知らないが、だんだん元気がなくなっていく千鶴に気がついていたはずだ。気がついて、俺は見て見ぬふりをした。

俺は人目もはばからず大声で泣いた。

なんで俺を助けてくれた彼女にもっとやさしくできなかったのか。

自分の命を削ってまでホストに通い続けてくれた千鶴に気付いて上げられなかったのか。

俺はいつからこんな冷たい人間になってしまったのだろう。

俺はいつからこんな嫌な人間になってしまったのだろう。

後悔の気持ちが後から後から溢れてきて溢れてくる涙を止めることは出来なかった。騒がしいはずの店内に俺の泣きき声だけが響いていた。

私は、しばらくしてホストの仕事を辞めた。もう一度、昔なりたかった医者を目指すためだ。