「民間大水滸」解宝、蛇を斬る 9~16 まとめ読み | 水滸伝ざんまい

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中国四大名著の水滸伝について語るブログです。
原典メインのため、北方および幻想はありません。
悪しからずご了承ください。

 

三人の孫たちは、いちばん年上が金竜、

次男は金虎、末っ子は金豹といった。

「貧乏な家の子供は早くから家のあるじになる」と、

よく言われるように、三人ともまだほんの幼いうちから、

生きていくために大変な苦労をしていた。

皆、十才過ぎの子供のころから、湖で魚を捕ったり、

金山で柴を刈ったり、羊の番人をしたが、

それでも暮らしはひどく貧しく、

日々の食べ物にも困るありさまだった。

 

長男の金竜は十六七ほどの年頃で、

金山の上で羊の番人をしていた。

子供のころから気性が激しく、学問や武芸を一心に学んでいた。

また背が高く立派な体つきをしており、十六七にもかかわらず

二十代半ばの青年のように見えたため、

いつしか金山一帯の子供たちの頭分となっていた。

 

村の大人たちは、金竜について、

「いつかきっと、祖父と父の血の負債を取り立てるために、

役人どもに立ち向かうことだろう」と、

いつもささやきあっていた。

 

金竜自身も、放牧した羊たちが草を食べているとき、

ほかの羊番の子供たちを周囲に散開させて、

羊が逃げないよう見張らせ、そのあいだに、

誰にも相談できない自分の身の上について

あれこれ思い悩んでいた。

 

ところで、この金山の裏側には龍泉洞という洞窟があった。

穴の高さは三丈を超え、長さは十丈以上もあったので、

地元では巨大な洞窟として、その名を知られていた。

 

洞窟の中にはいくつもの泉があり、豊かな水が湧き出していた。

泉の水はまるで甘露のように清らかで、

喉がからからに乾いていても、

その水をほんの一口飲むだけで渇きはすぐに治まり、

炎天下に出ても全身くまなく爽快なままでいられた。

 

また洞窟内は、夏は涼しく冬は暖かかったので、

近所の子供たちにとっては絶好の遊び場所となっていた。

 

しかしほんの数日前に、三男の金豹と

十四五才の遊び仲間たちの姿が見えなくなり、

この事件を調べているうち、金豹もほかの子供たちも、

全員が龍泉洞に立ち寄った後で行方不明になったという事実が

わかったのである。

 

そのため最近は、あえてこの洞窟に遊びに行こうとする

勇気のある子供は誰ひとりとしていなくなってしまった。

 

 

その年の六月はひどく暑かった。

昼過ぎになり、子供たちは支度が終わるとそれぞれ、

羊の番や湖での魚捕りや柴刈り、

また水浴びなどに出かけていった。

 

金竜は、龍泉洞で涼みながら昼寝をしようと、

洞窟の奥へと入っていった。

平たい大きな岩の真ん中に体を横たえると、

そこは爽やかで寝心地がよかったので、

ほんの少しのつもりで眠りについた。

 

ゆったり昼寝をしていると、突然頭がぼんやりして

雲に乗ったような気分になり、体がふわふわと浮き上がった。

金竜は痛快な夢だと思い、興奮しながら大声で、

「おれは神仙の力を得たぞ!」と叫んだ。

そのとたん、本当に体が中空から落ちたので、

かれは怖くなって目がさめた。

 

金竜は自分の身の上に起きたことを奇妙に感じ、

なぜこんな夢を見たのか考えた。

そこで、もう一度目を閉じて眠りにつき、

そっと調べてみることにした。

 

しばらくすると、かれの体はそのまま浮き上がり、

当たり前のように地面から上に昇っていき、

また頭がぼんやりとして雲に乗ったような気分になってきた。

金竜はひどく恐ろしくなり、大きな悲鳴をあげると、

ふたたび体は岩の上に落ちてきた。

 

仲間の子供たちはかれの悲鳴を聞きつけて、

われ先に洞窟の中に駆けこんできては、

「どうしたの?」とか「なんで叫んだのさ」

と口々にたずねたので、

金竜は、今しがた寝ていたときに起きた空中浮遊の出来事を、

最初から最後までくわしく話した。

 

すると、子供のひとりが

「金竜兄ちゃん、下に落っこちないようにすれば、

きっと神仙になれるんだ!

さもなきゃ普段から何度も練習してれば、

きっと出来るようになるんだよ」と言い出したが、

金竜はただ首を横に振って断るだけだった。

 

 

この事件の話は、だんだんと尾ひれがついて広まっていき、

幼い子供たちの幾人かは、

自分たちも空中浮遊の不思議な体験をしたいと、

夢想するようになった。

 

どの子もみな、誰にも言わずにこっそり洞窟の中に入りこんでは、

身をかくしながら平たい岩の上によじ登るものの、

目をつぶるとまもなく、

当たり前のように体が持ち上がっていくので、

怖くなって大声で泣き出し、岩から飛びおりて逃げ出すのだった。

 

そんな様子が数日のあいだ続き、

末っ子の金豹は、ほかの子供たちも体が浮く気分を試したのなら、

自分も同じことをやってみようと思いついた。

 

その日の昼すぎ、金豹は誰にも言わずにそっと龍泉洞に入り、

長兄の金竜のまねをして、横になって目をつぶると、

すぐにぐっすり眠りこんでしまった。

これが大きな禍をまねくことになると、誰が知っていただろうか。

 

ただ金豹の体が洞窟の上に昇っていくのが見えただけで、

最後に、しゅっという音が

洞窟の天井にある丸い窪みの底からこだました。

それきり、もう二度と金豹の姿を見ることはできなかった。

 

 

それから二、三日のあいだに、金山周辺では、

金豹をはじめ十五六才の元気な男の子ばかりが次々と、

足跡ひとつ残さず姿を消していった。

 

金豹が行方不明になって三日が過ぎ、

祖母は村人たちに頼みこんで、

山の中や湖をくまなく探してもらったが、

金豹の姿は影も形も見当たらなかった。

 

金竜は、悪しきものが自分たちに害をおよぼしたのかと怖れ、

祖母と居合わせた大人たちに向かって、

自分が体験したことを詳しく話した。

話を聞いた村人たちは皆ひとりのこらず、

龍泉洞には化け物が住み着いたのだと、

恐ろしさにふるえあがった。

こうして、洞窟に遊びに行こうとする子供は

誰ひとりとしていなくなってしまった。

 

金竜の祖母は、末の孫を失って嘆き悲しみ、

それからは毎日欠かさず、金山の頂上まで登っていった。

そして山頂で神の加護をねがい、

一刻も早く妖怪を退治してほしい、孫の仇を討ってほしいと、

大声で泣きながら祈りをささげ、

天が答えてくれるのを待ちつづけた。

 

老婆は、ここで解宝に出会えたのはまさしく天のお導きだと信じ、

これまでのいきさつをひとつ残らず話して聞かせた。

解宝は、だまって老婆の話を聞いているうちに、

人に害をなすものへの怒りが腹の底からわきあがり、

虎のような大きな眼をかっと見ひらくと、

老婆をいたわりながら、

「話はわかった。

おばあさん、おれがあんたの代わりに孫の仇を討ってやるよ。

妖怪とやらを退治してやる」と約束した。

 

 

次々いなくなる子供たちと、怪しい出来事が起こる魔の洞窟。

老婆の願いをかなえるため、

いよいよ解宝が妖怪退治に出かけます。

この続きは、また次回で。