暴れん坊街道 | 俺の命はウルトラ・アイ

暴れん坊街道

『暴れん坊街道』
 映画 トーキー 95分 白黒
 昭和三十二年(1957年)二月十九日公開
 製作国 日本
 製作 東映京都
 
 企画 玉木潤一郎
 原作 近松門左衛門 『丹波与作待夜小室節』
 脚本 依田義賢
 撮影 吉田貞次
 音楽 深井史郎
 美術 鈴木孝俊
 照明 和多田弘
 録音 中山茂二
 
 出演 
  
 佐野周二(丹波の与作)
 
 植木基晴(三吉)
 千原しのぶ(小まん)
 丘さとみ(玉枝)
 
 松浦築枝(稲葉昌子)
 毛利菊枝(おこう)
 藤井珠美(調姫)
 
 
 高松錦之助(庄作)
 岡嶋艶子(若菜)
 吉田義夫(佐治兵衛)
 有馬宏治(由留木家門番)
 植村直次郎(馬方 甲)
 陽田重利(馬方 乙)
 不二和子(馬に乗ろうとする母)
 片岡千恵太郎(馬に乗ろうとする母の子)
 香月涼二(共の侍 甲)
 藤木錦之助(共の侍 乙)
 島田秀雄(共の侍 丙)
 美山れい子(腰元)
 梅村浪路(女中)
 堀正夫(入江の家老)
 
 薄田研二(稲葉幸太夫)
 高堂国典(本田弥左衛門)
 進藤英太郎(平助)
 
 山田五十鈴(重野)
 
 監督 内田吐夢
 
 ☆
 岡嶋艶子=岡島つや子=岡島艶子
 
 薄田研二=高山徳右衛門
 ☆
 平成十二年(2000年)四月二十一日
 京都文化博物館映像ホールにて鑑賞
 ☆
 丹波の国において奥小姓与作と行儀見習い
をしていた娘重野は愛し合い、二人の間に与之
助という男の子が誕生した。だが、二人の関係
は不義として糾弾され、与作は追放され、与之
助は里子に出された。重野の父稲葉幸太夫は
家老職に在った。主家の姫君の乳母となれた重
野は難を逃れ、重の井と呼ばれる存在となって
行く。
 十数年の月日が経ち与作は我が子与之助を
探し求めた。
 
 街道で三吉という元気いっぱいの少年と出会い、
与作は彼と意気投合するが、なんと三吉少年こそ
我が子与之助であった。与作は父と名乗りたいが
中々名乗れず、我が子と共に旅をする。
 美しい飯盛り女小まんは、三吉にとって姉貴分
の存在で彼女も加わって、男二人女一人の旅が
始まる。
 
 与之助は小まんのお尻を叩いたりして、彼女に
対し恋心を抱き始めたようだ。小まんも嫌ったりせ
ず、彼と共に三吉を守る。
 
  丹波由留木家の行列が宿場に通りかかり、調
姫のご機嫌が良くない中、三吉は道中双六でご機
嫌を直す。
 
 重の井こと重野は三吉の守り袋から生き別れた
息子と知って驚愕する。だが、乳母の身で三吉少
年に母と名乗れない。
 奴が呼んだ言葉により、三吉は重の井が実母と
分かるが三吉は出て行ってしまう。
 小まんの父正作は水吞百姓で年貢の金子五両
に苦しみ、娘に相談する。与作と小まんの苦境を
見た三吉は何とかしたいと思い行動を開始する。
 
 近松門左衛門作『丹波与作待夜小室節』(たん
ばのよさくまつよのこむろぶし)の映画化である。
 『丹波与作待夜小室節』は宝永四年(1704年)
大坂竹本座で初演されている。改作された、『恋
女房染分手綱』「重の井子別れ」が現代歌舞伎
においてよく上演されている。
 
 内田吐夢は亜細亜太平洋戦争終戦後満州に
残ったが、ラジオから日本の寄席の三味線の音
に懐かしさを実感したという。役者でもあった吐
夢は文楽・歌舞伎に精通していた。
 
 帰国し映画監督として復帰した吐夢は古典芸
能四名作の映像化を為した。第一作が本作で、
第二作は昭和三十四年に近松門左衛門の『冥
途の飛脚』を映画化した『浪花の恋の物語』で
ある。昭和三十五年には三世河竹新七作『籠
釣瓶花街酔醒』の映像化である『妖刀物語 花
の吉原百人斬り』を発表する。昭和三十七年に
は竹田出雲作『蘆屋道満大内鑑』を『恋や恋な
すな恋』として映画化した。
 
 
 古典芸能四部作には吐夢の重厚な演出が
光っていて深い傑作となっているが、四本全て
に一途に直向きに生きる生き方が確かめられ
語られている。
 痛ましい結末を語る『妖刀物語 花の吉原百
人斬り』においても物語の根本に純粋で真面目
な主人公の命の在り方がある。『浪花の恋の物
語』『恋や恋なすな恋』においては、文楽三和会
の協力を得て、三代目豊竹つばめ太夫後の四
代目竹本越路太夫の語りを撮り、浄瑠璃の情
の暖かさを映像世界に刻んだ。
 
 本作『暴れん坊街道』は古典芸能四部作の第
一作なのだが、佐野周二の与作と植木基晴の
三吉の道中が暖かい。実の父子なのだが、与作
は中々名乗れず父であることを隠しながら息子
と心と心で絆を深める。
 佐野周二が繊細で直向きな男の情を深い演技
で勤める。
 
    一九五七年、東映京都撮影所、所謂仕出し
    と云われる大部屋俳優やエキストラにまじ
    って、カツラ姿が今一つしっくりこない俳優
    が内田組「暴れん坊街道」のステージに入
    った。「お早うございます。宜しくお願い致し
    ます。」キョトキョトと、そして自信のなさそう
    な歩き方、佐野周二、時代劇初出演である。
    (内田有作稿「内田吐夢、キャスティングの
     妙」 平成十二年四月京都文化博物館プ
     ログラム所収) 
 
 平成十二年(2000年)四月京都文化博物館の特
集「内田吐夢ー人と作品」に吐夢の息子有作が特
別寄稿で一文を記し、父吐夢の配役・キャスティン
グの鮮やかさについて触れている。
 
 松竹現代劇のスタア佐野周二を時代劇役者とし
て迎え、繊細で優しい父親像を打ち出し、佐野の
時代劇名演を引き出した。与作の名演が、伊藤大
輔監督の大傑作『反逆児』の徳川家康の名演に繋
がったのではないか?
 
 植木基晴の三吉少年は生き生きとしていて、可
愛くて輝いている。
 
 千原しのぶの小まんは綺麗・妖艶で光っていた。
 
 山田五十鈴の重の井こと重野の母の悲しみは
観客の胸に迫ってくる。
 
 吐夢映画の凄まじさは配役の妙味も大きい。
 
 五十鈴が少女時代に悲劇のヒロインを演じた
無声映画『仇討選手』は出演シーンのフィルム
が現存しておらず、本作は吐夢映画における
名演を記録した貴重なフィルムでもある。
 
 与作・三吉・小まんの三者の道中はロケで自然
を映し出すが、情の表現が素晴らしく。観客の胸
を暖めてくれる。
 
 本作の大詰は悲しいが、ラストには情が溢れる。
 
 ☆
 八月七日発表記事『『宮本武蔵 巌流島の決斗』
(十一)「剣は武器か」』、八日映画レビュー公式記事
ランキング十七位を賜りました。
  八日発表記事『多十郎殉愛記』、十日映画レビュー
公式記事ランキング十六位を賜りました。
 
 光栄に存じます。ありがとうございます。
 
 

宮本武蔵 巌流島の決斗(九)果たし状

 

 

宮本武蔵 巌流島の決斗 内田吐夢監督作品(十)櫂

 

  『宮本武蔵 巌流島の決斗』の感想記事第九章・

第十章です。沢庵・武蔵の師弟交流、決戦前の浜辺

のお通の涙の懇願は、じっくり考察し書き加えたい点

が多かったので、加筆し再編しました。

 

 内田吐夢映画には、暖かい心が溢れている。

 

 

                            合掌