妖刀物語 花の吉原百人斬り | 俺の命はウルトラ・アイ

妖刀物語 花の吉原百人斬り

『妖刀物語 花の吉原百人斬り』

 

映画 トーキー 109分 カラー

昭和三十五年(1960年)九月四日公開

製作国 日本

製作  東映京都

 

企画 玉木潤一郎

 

作 三世河竹新七

『籠釣瓶花街酔醒』

 

脚本 依田義賢

撮影 吉田貞次

照明  中山治雄

録音 佐々木稔郎

美術 鈴木孝俊

音楽 中本敏生

編集 宮本信太郎

 

出演

 

片岡千恵蔵(佐野次郎左衛門)

 

水谷良重(玉鶴後の二代目八ツ橋)

 

木村功(繁山栄之丞)

山東昭子(お咲)

千原しのぶ(八重垣)

沢村貞子(お源)

花柳小菊(岩橋)

三島雅夫(太郎兵衛)

 

原健策(越後屋丹兵衛)

星十郎(清助)

片岡栄二郎(治六)

阿部九州男(三浦屋四郎兵衛)

千秋実(文助)

高橋とよ(おきの)

岡村文子(お安)

利根はる恵(おまん)

八汐路佳子(見合いの娘)

松浦築枝(おせい)

高松錦之助(弥助)

北竜二(三浦屋四郎左衛門)

水野浩(次兵衛)

中村時之助(妓夫由造)

尾形伸之助(地廻り)

加藤浩(役人)

橘兵介(佐野屋の手代)

尾上華丈(佐野屋の番頭)

有馬宏治(茂七)

松風利栄子(お玉)

霧島八千代(小車)

鳳衣子(結髪)

飛鳥井かほり(さつき)

桜川忠七

松廼家喜久平(吉原・一龍)

大崎史郎(旅籠の亭主)

源八郎(海老屋)

浪花五郎(一文字屋)

村居京之輔(相模屋)

堀広太郎(大黒屋)

疋田圀男(男衆)

中村幸吉(江戸屋善兵衛)

矢奈木邦二郎(信濃屋忠七)

滝千恵子(織娘)

熊谷武(機屋)

野村鬼笑(機屋)

島田秀雄(幇間)

宮地隆次(幇間)

京町かほる(仲居)

大浦和子(新宿のおえん)

若葉のり子(新宿のおこま)

江崎ひで子(兵庫屋の少女)

 

 

監督 内田吐夢

 

片岡千恵蔵=片岡千栄蔵

 

水谷良重→二代目水谷八重子

平成十年(1998年)十二月十九日

京都文化博物館にて鑑賞

 男の子の赤ん坊が寺の前に捨てられていた。赤子の顔

に痣があり、一本の守り刀が添えられていた。所は武州

佐野の寺院の出来事である。

 赤子は富裕の機屋佐野屋に拾われた。次郎左衛門と

名づけられた赤子は成長すると働き者の男子となった。

店は繁盛した。三十を越え男盛り・働き盛りの年代となっ

た次郎左衛門だが、痣のある顔の問題もあってか、嫁

に来てくれる女性はいなかった。コンプレックスを抱いて

いる次郎左衛門は、ある日友人に誘われて吉原に遊び

に行った。

 玉鶴という若くて奇麗で逞しい女郎は「心まで痣がある

訳でなはいでしょう」と語る。

 この言葉を聞いた次郎左右衛門は玉鶴に一目惚れし

将来一緒になりたいと望んだ。玉鶴は太夫の位に憧れ

があった。彼女には栄之丞という恋人がいた。やくざ者

の栄之丞は争いで斬られる。

 次郎左衛門は玉鶴に夫婦の約束をした。佐野の桑の

木が雹によって打撃を受けた。資金繰りの困った次郎

左衛門は守り刀を売って金を作って玉鶴と夫婦になって

故郷で暮らしたいと強く望む。困窮した次郎左衛門は披

露を待ってくれと頼むつもりだ。玉鶴は兵庫屋八ツ橋太夫

を襲名することを熱く望んでいる。

 次郎左衛門は襲名されると自身の妻になってもらうこと

は難しくなるので待って欲しいと頼みにいこうとするが、

兵庫屋に着くと玉鶴の襲名は決定事項であった。

 亭主の太郎兵衛や女将の源からの冷たい嘲笑を受け

次郎左衛門の心は傷つく。彼は一度武州に戻り家屋根・

身代を整えて吉原に帰ってきた。

 玉鶴の二代目八ツ橋太夫の襲名が豪華に開催され、

沢山の人々が集まっている。どうしても襲名を為したかっ

た玉鶴にとって、次郎左衛門の財力を利用してでも為し

たいことだったのだ。

 その華麗な襲名に、妖刀を持った次郎左衛門が斬り込

んだ。行列の人々を次々と斬る次郎左衛門。太郎兵衛・

源も刃を受けた。

 次郎左衛門の怒りの剣は怯え逃げる玉鶴こと二代目八ツ

橋に向かう。

 

 ☆愛から怒りへ☆

 

 佐野次郎左衛門が、玉鶴への恋に生き甲斐を感じ、彼女と

の婚儀に夢を熱くするが、財産を吸い取られて利用され、怒り

を燃やして愛する玉鶴に刀を向ける。切なく悲しい物語に胸

が熱くなる。

 

  玉鶴が「心まで痣がある訳ではないでしょう」と語った言葉

はその時嘘だったのではないと思う。だが、彼女は苦労を重ね

ている身として立身と飛躍の為に、「二代目八ツ橋」になりたい

という大望があった。その為にはどうしても金と力が必要であっ

た。

 

 中年という世代で痣に劣等感を持つ男次郎左衛門にとって、

若く綺麗な女性玉鶴との恋は一生の喜びを咲かせるものであ

ったろう。どんな苦労をしてでも妻にしたいという気持ちに全て

を賭けていた。しかし、その純情と大夢は利用されてしまった。

 

 内田吐夢は次郎左衛門の純情から殺意への道と玉鶴の大望

の歩みの両者を否定することなく、共に苦闘する人間の在り方

と確かめている。

 

  片岡千恵蔵の純情一途の佐野次郎左衛門と水谷良重後の

二代目水谷八重子の若く華やかで逞しい玉鶴は、当たり役で主

演二人の熱演によって男女の愛の悲劇が銀幕に燃え上がった。

 

 

 三世河竹新七の歌舞伎劇『籠釣瓶花街酔醒』(かごつるべさ

と のえいざめ)は明治二十一年(1888年)五月一日東京千歳座

で 初上演された。  

 

 あばた面の豪商佐野次郎左衛門は吉原で微笑む八ツ橋に一 

目惚れして彼女に貢ぎ夫婦になって欲しいと望むが、八ツ橋は 

情夫繁山栄之丞の指令で次郎左衛門に愛想尽かしをする。 満

座で恥をかき、失恋の痛手を受けた次郎左衛門は恨みを抱き、

妖刀で八ツ橋を斬り、「籠釣瓶はよく斬れるなあ」 と切れ味に感

嘆する。 

  原作の八ツ橋の「次郎左衛門振り」は、やむを得ず為してし

まうことで、圧力によって冷たく当たってしまったこ とだ。結果的

に斬られてしまう彼女は悲劇のヒロインである。

 

  『妖刀物語 花の吉原百人斬り』の八ツ橋は自分を貫いて 

歩み突き進んで次郎左衛門に斬られる。 

 悲劇の人ではあるが、逞しさと力強さがある。

 

  『籠釣瓶花街酔醒』における次郎左衛門の激怒は自身を 

振った八ツ橋に向けられるが、『妖刀物語 花の吉原百人斬

り』における次郎左衛門の憎悪は二代目八ツ橋だけでなく、

太郎兵衛やお源も許さぬ激しさである。 

 

 吐夢は八ツ橋の行列に斬り込む次郎左衛門を描くこと 

で、純情一途の恋を踏みにじられた男の遊里全体への

怒りとして確かめた。愛する女を裏切った者として斬殺す

る次郎左衛門。だが、その惨い凶行の根底には愛があっ

た。加害者の次郎左衛門・被害者の玉鶴後の八ツ橋。共

に遊 里の人間関係の犠牲者である。大詰において刀を

手に斬りかかる千恵蔵の次郎左衛門と逃げる良重の八

ツ橋に絢爛たる悲劇美を感じた。惚れて惚 れて惚れ抜

いた人が裏切ったことを理由に斬ってしまう次郎左衛門。

 愛が何故殺意に変わるのか?この重い問いが心にの

しかかる。  

 

 片岡千恵蔵の次郎左衛門と水谷良重の玉鶴後の八ツ

橋は、 男と女の愛憎劇流の深き世界を教えてくれた。               

 

 

                              合掌