大江戸五人男(十七)「男一匹の言葉だ」 | 俺の命はウルトラ・アイ

大江戸五人男(十七)「男一匹の言葉だ」

『大江戸五人男』

映画 132分 トーキー 白黒

昭和二十六年(1951年)十一月二十二日公開

製作国      日本

製作        松竹

総指揮      大谷隆三

 

製作        月森仙之助

 

制作補      小倉浩一郎

構成        火口会同人

脚本        八尋不二

           柳川真一

           依田義賢

撮影        石本秀雄

照明        寺田重雄

録音        福家雅春

美術        角井平吉

音楽        深井史郎

助監督       渡邊實

           的井邦雄

時代考証     甲斐荘楠音
茶事指導     井口海仙

進行担当     久保友次

録音技術     佐々木秀孝

装置        大野松治

装飾        小谷角三郎

衣裳        中村つま

床山        井上力三

結髪        木村よし子

記録        小林繁

整理        野村政七

電飾        武村政夫

宣伝写真     三浦専蔵

撮影事務     藤岡正一

和楽        稀音家三郎

製作助手     岸本吟一

監督助手     永塩良輔

撮影助手     梨木友太郎

照明助手     汐瀬茂

録音助手     奥村泰士

美術助手     武田殷一

進行助手     渡邊壽男

 

出演

 

阪東妻三郎(幡隋院長兵衛)

 

 

市川右太衛門(水野十郎左衛門)

 

 

山田五十鈴(お兼)


 

高峰三枝子(おきぬ)

 

月形龍之介(魚屋宗五郎)

高橋貞二(白井権八)

高田浩吉(高見備中守)

 

河原崎権三郎(水木あやめ)

水月冴子(妙姫)

花柳小菊(小紫)

 

進藤英太郎(唐犬権太郎)

三島雅夫(近藤登之助)

山本礼三郎(大久保彦左衛門)

市川小太夫(松平伊豆守)

三井弘次(佛の小平)

 

大友柳太朗(石谷将監)

海江田譲二(成瀬)

阿部九州男(市郎兵衛)

永田光男(清兵衛)

若杉曜子(はつ)

鮎川十糸子(かつ)

 

毛利菊枝(お岸)

草島競子(お萬)

六条奈見子(千草)

月宮乙女(お米)

石本昭子(たより)

石本靖子(みどり)

山路義人(渡邊調右衛門)

尾上栄五郎(卜部季太郎)

保瀬英次郎(碓井貞八)

天野刃一(坂田金平)

加賀邦男(五十嵐)

笹川冨士夫(錦織)

光妙寺三郎(羽柴)

水上杢太郎(酒井)

澤村アキオ(数馬)

 

本松一成(伊太郎)

小堀明男(四郎兵衛)

青山宏(正八)

田中謙三(弥之)

中田耕二(十三)

ヤサカ俊夫(宇吉)

葉山富之輔(山村佐兵衛)

高松錦之助(冨輔)

伊庭駿(茶羅八)

加藤貫一(陀羅助)

大谷富右衛門(萬野)

椿三四郎(露木)

小林立義(朋田)

静山繁男(有坂)

岡田健二(和泉)

宇野健之助(喜内)

井上晴夫(小助)

宮島安芸男(秋平)

毛利二郎(盛平)

玉島愛造(倉田)

三島清志(ひげ奴)

高岡成計(ひげ奴)

宮武要(ひげ奴)

若修作(くも助)

松井光三郎(くも助)

加藤秀樹(くも助)

池田實(かごや)

春日昇(かごや)

間宮淳吉(幇間)

青山正雄(幇間)

土佐竜児(男衆)

岡田和子(ため)

林喜美江(百代)

大和久乃(須磨)

村上記代(さま)

鏡淳子(腰元)

河上君栄(腰元)

荒木久子(きいたか坊主)

小松美鈴(きいたか坊主)

橘一枝(きいたか坊主)

 

劇中劇「播州皿屋敷」

河原崎権十郎(青山鉄山)

河原崎権三郎(お菊)

坂東蓑三郎(忠太)

 

浄瑠璃  豊竹壽太夫

三味線  豊澤竹之助


 

監督 伊藤大輔

 

☆☆☆

 

河原崎権三郎→三代目河原崎権十郎

市川小太夫=二代目市川小太夫

澤村アキオ→長門裕之

河原崎権十郎=二代目河原崎権十郎

☆☆☆
 演出の考察・シークエンスへの言及・台詞

の引用は研究・学習の為です。


松竹様におかれましては、お許しと御理解

を賜りますようお願い申し上げます。

 

 感想文では結末に言及します。未見の方

 

はご注意下さい。
☆☆☆

昭和六十三年(1988年)十月二十七日

京都文化博物館映像ホールにて鑑賞。

この機会以外にも鑑賞している。

☆☆☆

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 伊藤大輔監督作品』

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   幡隋院長兵衛は『播州皿屋敷』が大当

 

 

たりを呼んだのは、武士に虐められてい

る町人たちの怒りと恨みだと痛烈に指摘

する。

 

 水野十郎左衛門と近藤登之助は怒った。

 


  水野「黙れ。黙れ。武士は士農工商の

      頭に立つ者。素町人の分際で武

      門の意地が忖度出来るか」

 

 長兵衛は「武門の意地」と申されることは

刀は御禁制の吉原で大刀を帯して押し回ら

れ、内にいる手向かい出来ぬ者を弱いもの

を「痛めつけるということでございますか?」

と問うた。

    近藤「下司下郎の分際で」

 

 近藤は刀を手にした。

 

  長兵衛「ほら二言目には意地だ、面目だ。

       斬りなせえ。もとより斬られる覚

       悟の俺だ。斬られる前に一言聞

       いてもらいてえことがある。」

 

 長兵衛は命に賭けて身内の子分達に恐惶

 

一切腕立てさせぬと約束したことを伝える。

       
  水野「何!腕立てさせぬ」

  長兵衛「男を一匹の言葉だ。その代わり、

       町人共を人間並みに扱ってやっ

       て下さいませんか?不憫をかけ

       て、可愛がって噛みつく犬はあり

       ません。その代わり、長兵衛が

       最期の願い。叶えてやって頂け

       ませんか?」

  水野「負けた」

 

 感動した水野は夜を徹して長兵衛と語り

 

合いたいと思い、男どうしで風呂に入って

文字通り裸になってこれまでの対立の垢を

落とし、言葉と言葉で心の交流を図りたい

と望んだ。

 

 近藤が水野を呼ぶ。水野は長兵衛に先

 

に風呂に入るように勧めた。あやめは一瞬

危険を感じた。長兵衛は水野がわかってく

れたことに感動しあやめに微笑み悠々と風

呂に向かった。

 

 近藤と仲間達は風呂で身に寸鉄も帯びぬ

 

風呂で長兵衛を斬るべしと提案する。水野が

「貴公たちは先程の長兵衛の言葉に」心を動

かされなかったのかと問う。

  近藤「恥を知れ、水野。老中の手が回っ

      て怖じ気付いたと見える。町人一

      人成敗出来ぬ者を頭領とも思わん、

      同志とも思わん」

 

 近藤は白柄組を出ると言いだし、彼の仲間達

 

が次々と水野から離反する。近藤とその仲間達

は長兵衛暗殺を企てる。水野は旗本達を止める。


  あやめ「お殿様」

  水野「あやめ、是非に及ばず」

 

 水野は、敵意剥き出しの仲間の旗本達に斬殺

 

させるよりも、自身の手で尊敬する長兵衛を刺

殺すべきだと考えて、風呂に走った。

 

 長兵衛は湯殿において浴衣姿であった。水野

 

が槍を持って現れた。



  水野「長兵衛覚悟」

  長兵衛「騙し討ちとは卑怯」

  水野「助からぬ命。水野がてにかけるのだ」

  長兵衛「武門の意地だ、面目だのとこれが

       侍の正体か」
 

 長兵衛は柄杓で水野の槍を防ぎ水野の額に

傷をつけるが、水野の攻撃は凄まじく、長兵衛

を刺した。

 

 

 

  長兵衛「馬鹿め!とどめ」

 

 長兵衛は胸を開き、水野に刺されて、傷は致

 

命傷になり死ぬ。

 

 水野は友長兵衛の死を悲しむ。

 

 

 数馬が幡随院一家が玄関先に現れ、唐犬

 

以下子分衆は棺桶を持ち神妙にしていると

伝える。

 

 お兼・市松は長兵衛の遺体を引き取る。

 

 

 幕府からの使者は、水野ら白柄組の旗本

 

衆に知行没収・家名断絶の上に切腹の処置を

伝える。


 お兼が町内を回り、「ご町内の皆様に申し

上げます。提灯に灯りをお入れください。」

と語りかけ、喧嘩騒動がないことを、「幡随

院長兵衛が御約束申し上げます」と確言す

る。

 

 父の死を理解しているのかどうかわから

ないが、佛の小平に抱かれた市松も「提灯

に灯りをお入れください。」と語る。

 

 魚屋宗五郎がお兼に語る。


  宗五郎「姉さん」

  お兼「もう何も仰らないで」

 

 

 権八が自分の入れ知恵で始まった芝居に

 

よって、長兵衛が殺されたことを思い、男泣き

に「親分」と泣く。

   お兼「権八さん泣かないで。町が段々

      明るくなっていく。親分もきっと喜

      んでいて下さる」


   市松「どうぞ。提灯に火をお入れ下さい」

 町に提灯の灯りが入り、祭が起こりつつあ

った。

 

  お兼と市松は歩みを進める。
 

 

 

☆☆☆「男一匹の言葉」として長兵衛が語る

 

和の願い☆☆☆

 

 幡随院長兵衛が「町人を人間並みに扱って

 

やって頂けませんか」という平等の願いは、水

野十郎左衛門の心を打った。水野は、感動し

負けを潔く認め、男どうしで風呂に入って、語り

合いたいと望む。

 

 問答は、阪東妻三郎と市川右太衛門の二大

 

スタアの激突で緊張感が溢れる。

 

 長兵衛が「命に賭け」た「男一匹の言葉」とし

 

て、例え殺されても「腕立て」という報復をせず

に、和を貫くという在り方に、伊藤大輔が願う

平和希求の精神が投影されている。

 

 近藤登之助らの反発で白柄組は分裂の危機

 

を迎えたうえに、近藤一党は湯殿の長兵衛の

暗殺を企てる。

 

 三島雅夫が憎たらしさと嫌らしさを粘る強く見

 

せる。

 

 水野は、憎悪に燃える旗本の朋輩達の手で

 

嬲り殺しに遭うよりかは、友である自身の手で

刺殺するほうが、長兵衛に対する友誼と考え、

あやめの悲しみを振り切って湯殿に向かう。

 

 湯殿で長兵衛と水野は、柄杓と槍で激突す

 

る。

 

 わかってくれたと思った水野が槍を持って刺客

 

となったことは、一度死を決意したとはいえ、長

兵衛にとってショックであり、「騙し討ちとは卑怯」

と糾弾する。

 

 水野は「助からぬ命」を「水野が手で」始末する

 

という在り方を語る。

 

 長兵衛の平和主義と四民平等の願いに感激し

 

たことを受けて、他の誰でもなく自己自身の手で

暗殺しようとする水野。友情と敬意故に暗殺しよ

うとする心に胸が熱くなる。

 

    「武門の意地だ、面目だのとこれが

 

    侍の正体か」

 

 意地や面目の為に殺人を為す侍の在り方を、長

 

兵衛は糾弾し問う。水野は痛いところを突かれなが

た槍を振るう。

 

 柄杓で槍を受ける長兵衛の殺陣に阪妻の芸が

 

光る。額を斬られた水野が長兵衛を槍で刺す。

 

    「馬鹿め。とどめ」

 

 

 

 長兵衛は怒りつつも、友水野に介錯を頼む。

 

 

 

 阪東妻三郎が長兵衛の激痛を熱演する。

 

 

 水野は長兵衛を刺殺し、自身の犯した罪を悲し

 

み、長兵衛の大いなる愛に敬意を示す。二人の

友情は、長兵衛の死によって、最も熱い時を迎え

る。

 

 ここにも、敗北の美学を探求している伊藤大輔

 

の道が光っている。

 

 長兵衛の遺言とも言うべき教えにより、唐犬権

 

兵衛以下子分衆は神妙に控え、柩に長兵衛の

遺体を引き取り、一切の抵抗や腕立てをしなかっ

た。

 

 水野ら白柄組の旗本衆が切腹を言い渡される

 

シーンも哀しい。

 

 右太衛門の無言の演技が重い。

 

 

 お兼が八百八町の人々に「提灯に灯をお入れ

 

下さい」と語る。「守り本尊」と改めて仰がれる故

長兵衛の姐さんお兼によって、江戸の祭が守ら

れる。

 

 山田五十鈴の風格が大きい。

 

 

 坊やの市松も「提灯に灯をお入れ下さい」と語

 

り、観客の心に涙を呼ぶ。

 

 宗五郎や権八の長兵衛追悼の思いを聞きつつ、

 

お兼は夫の生前の願いに従って、江戸の町に祭

が再開することを守り、灯が灯ったことを確かめ、

「親分も喜んでいて下さる」ことと亡き夫の心を

想う。

 

 夫が遺した心を妻が継ぐ。

 

 

 伊藤大輔の愛の表現に深く心を打たれた。

 

 

 月形龍之介の宗五郎の暖かさ、高橋貞二の権

 

八の悔恨の涙も印象的だ。

 

 市松の可愛い声に切なさが極まる。

 

 

 町に祭が復活しつつあり、長兵衛の命を賭け、

 

命を捨てての呼びかけが、実を結んだことを、観

客は学ぶ。

 

 

 伊藤大輔は、複数の歌舞伎脚本を鮮やかに

 

 

構成した。『極付幡随院長兵衛』に始まり、 『浮

世柄比翼稲妻』『新皿屋敷月雨傘』『番町皿屋敷』

『播州皿屋敷』を見せて、最後に。『極付幡随院

長兵衛』に戻って総纏めを為す歌舞伎脚本劇化

の見事さに感嘆する。

 

 歌舞伎に精通した大輔監督なればこそ為し得た

 

構成演出であろう。

 

 歌舞伎の魅力を伝えつつ、フィルムにその重厚

 

さを伝え映像劇にするところにも、大輔監督の芸

の大きさがある。

 

 伊藤大輔と阪東妻三郎のチームは、松竹三十

 

年記念映画の本作が最後になったが、二人が

演出と演技によって探求した、「命を賭け」で非

暴力を貫き、報復の「腕立て」をせず、あらゆる

人が人間らしく生きる世を願うという絶対平和主

義・平等主義は、幡随院長兵衛の「男一匹の言

葉」に光り輝き明かされることとなった。

 

 

 

                   文中一部敬称略

 

 

 

 

 

 

                         合掌

 

 

 

 

 

                     南無阿弥陀仏

 

 

 

 

                         セブン