このブログで「公的家賃補助と、良質な公的賃貸住宅の充実を望む」(2021年10月21日投稿)、「再度、公的家賃補助と、良質な公的賃貸住宅の充実を望む」(2022年4月20日投稿)、続いて「日本の富裕層の総金融資産に占める割合が上昇している 悪化する格差 所得の再分配の改善が必要だ」(2023年1月28日投稿)を投稿してきた。

 住宅を自己所有することに日本社会は慣れてきた。それは、戦後の政府による持ち家政策の結果だ。それは今も続いている。住宅ローン減税制度はあっても家賃補助制度はない。

 しかし、以下に述べるように、持ち家を取得するには相当のコストを要する。

 良質の賃貸住宅の整備が必要である。今回は東京都内に絞って考えた。



<東京都23区内の2023年1月から6月の新築分譲マンションの平均価格が1億円を突破>
 最近の報道で、東京都23区内の2023年1月から6月の新築分譲マンションの平均価格がついに1億円を突破したとのことだ(「マンション1億円台に 東京23区平均 1年で6割高」日本経済新聞、2023年7月21日)。6月の報道では、「5月の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の新築マンションの1戸あたりの平均販売価格は、前年同月比32.5%高い8068万円」、「東京23区では販売された物件の4割弱が1億円以上で、富裕層を狙った高額物件が増えている」とのことであった(「首都圏の新築マンション8068万円 5月、単月で過去最高」(同紙、6月19日))。

図1 「マンション1億円台に・・・」(日本経済新聞、2023年7月21日)


 お金持ちしか買えない首都圏のマンションがさらに手の届かないところに行ってしまったということだ。

<空き家>
 一方で、空き家は2018年現在、東京都10.6%、千葉県12.6%、神奈川県10.8%、埼玉県10.2%である(「空き家率、山梨が21% 1都3県は10~12% データで読む地域再生 関東・山梨」(日本経済新聞、2021年5月28日)。

図2 「空き家率、山梨が21% 1都3県は10~12%・・・」(日本経済新聞、2021年5月28日)


<都営住宅>(2022年3月31日現在)(出所:「都営住宅団地一覧」)
 都営住宅は、2022年3月末現在、約25.1万戸が存在する。23区内に約16万戸、23区以外に約9万戸である。
 世帯人数を2人として単純計算すると、約50.2万人に住居が提供されていることになる。東京都の人口は2023年1月現在、約1,400万人である。都営住宅の人口カバー率は3.6%程度である。このことは世帯人数を現実にはあり得ない4人として計算しても、7%程度だ。
 次に、建設年を見てみよう。建設年は、昭和期が約16万戸、平成期以降が約10万戸である。23区内では、建設から50年超(1973年以前)は約6.5万戸で全体の約40%、23区以外では約1.5万戸で全体の約17%である。
 23区内は古い住宅が多い。東京都は順次建て替えを進めているとのことだが、快適な住宅を供給するには、ほかのインフラ・ストラクチャー(道路、橋、上水道、下水道など)と同様、楽観視はできない。ちなみに、東京都の「水道管路の耐震化」のページに、都の「令和4年被害想定」では、断水率が2020(令和2)年度末で26%、2030(令和12)年度末で19%としている。断水率とは断水が想定される給水人口の割合のことである。
 
1)戸数
 約251,000戸。
(1)23区内 約161,000戸
 うち、1988年以前の建設 約105,000戸、1989年以降の建設 約56,000戸
(2)23区以外 約90,000戸
 うち、1988年以前の建設 約46,000戸、1989年以降の建設 約44,000戸

2)分布
 図3のとおり、足立区、江東区、江戸川区、葛飾区、板橋区、練馬区、八王子市に1万戸以上所在している。

図3 都営住宅の分布(2014年3月末現在)


図4 都営住宅の建設年度別ストック(2014年3月末現在)

図3、図4は、「平成27年度 第1回 東京都住宅政策審議会企画部会(平成27年4月28日)における資料及び主な意見の概要」での「資料-6 都営住宅の現状と公営住宅における取組事例(資料集)」から引用。

<UR賃貸住宅>
 UR都市機構が提供する賃貸住宅を見てみよう。URは旧日本住宅公団である。年配の方には「公団住宅」、「公団」という言葉になじみがあるだろう。
 UR賃貸住宅は、2022年3月末現在、都内に約15.9万戸が存在する。23区内に約9.6万戸、23区以外に約6.3万戸である。
 建設年で見てみよう。23区内では建設から50年超(1973年以前)は約3.5万戸で全体の約36%、23区以外で約3万戸で約48%である。
 都営住宅と同様、古い住宅が多い。都営住宅に比べてとくに23区以外の地域で古い住宅が多い。

都内の戸数 約159,000戸
 23区内  約96,000戸
 23区以外 約63,000戸

UR賃貸住宅ストック個別団地類型(案)一覧」から作成したのが図5である。市区町村ごとの戸数を降順順に並べ、全体の8割をこえるまでを図にしたものである。
 江東区内には約16,000戸が所在するが、そのうち1973年以前(50年超)の建築が約7,000戸である。同様に足立区内では約12,000戸のうち約7,000戸が、町田市内では約8,600戸のうち約7,800戸が、多摩市内では約6,000戸のうち約3,700戸が1973年以前(50年超)の建築である。

図5 UR賃貸住宅戸数(東京都内、2023年3月末現在)(一部)


<非課税制度>
 お金を持っている人には様々な税制上の特例が存在する。以下に掲げるのはその一部だが、すべてを同時に適用しての「節税」も可能である。
 ブログ記事「日本の富裕層の総金融資産に占める割合が上昇している 悪化する格差 所得の再分配の改善が必要だ」(2023年1月28日投稿)で書いたように、金融資産の2極化が進んでいる。お金持ちにはこのような節税が可能で、子に対して多くのお金や不動産をコストを少なくしつつ残すことができる。

 そもそもお金を持っていない層には、無関係な制度だ。

1)贈与に関わる非課税制度
贈与税の計算と税率(暦年課税)
 年間に110万円までの贈与について非課税とするルール。
 15年にわたって贈与するとして、1,650万円を非課税で子や孫に贈与できる。

2)直系尊属からの贈与に関する非課税制度
(1)「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」制度
 1,500万円までの贈与について非課税とするルール。
 なお、契約期間中に贈与者が死亡した場合には、清算をして、その贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなす(ある部分に課税される)。

(2)「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」制度
 1,000万円までの贈与について非課税とするルール。
 なお、契約期間中に贈与者が死亡した場合には、すでに支出した金額を勘案して、その贈与者から相続等により取得したものとみなす(ある部分に課税される)。

 
<参考 全国の借家の世帯数>
 「2018(平成30)年住宅・土地調査統計」(総務省統計局)から借家世帯の数を取り出して図6、図7を作成した。
 図6で、いかに公営、URなどの公的住宅が少ないことがわかるだろう。借家世帯全体の14%に過ぎない。約1,900万世帯のうち約270万世帯に過ぎないのである。
 図7は所得別の借家世帯数である。所得300万円未満の世帯では公的住宅に住まう世帯が約170万世帯あるが、約620万世帯は民営の借家住まいである。300万円から700万円未満の世帯の約640万世帯が民営借家である。

図6 借家の世帯数(全国)


図7 年間所得別の借家世帯数(全国)


 なお、持ち家に関するデータは、ブログ記事「再度、公的家賃補助と、良質な公的賃貸住宅の充実を望む」(2022年4月20日投稿)を参照していただきたい。