2023年1月26日の日本経済新聞に「ネット証券、富裕層に照準 マネックス、専業会社を設立 SBIは銀行と共同店舗」と題する記事が掲載された。
  なお、以下で引用するウェブサイトの情報はいずれも2023年1月28日に閲覧した。

 記事は増加する日本の富裕層向けに、証券会社がどのような商品やサービスを準備して攻勢をかけているかというものだ。

 記事には次のグラフとともに、「保有する金融資産がおおむね1億円を超える日本の富裕層人口は世界で2番目に多く、資産額は10年間で7割増えた」、「野村総合研究所の試算では、負債を除いた純金融資産を1億円以上持つ富裕層の資産所有額(19年時点)は333兆円と10年前に比べて7割増えた」(注1)、「仏コンサルティング会社キャップジェミニによると、投資可能な金融資産を100万ドル(約1億3000万円)以上持つ富裕層は21年時点で365万人いる。ドイツ(163万人)や中国(153万人)を引き離し、米国(746万人)に次ぐ世界2番目の規模だ」とある(以下の「グラフ1」、「グラフ2」を参照(いずれも日経記事から引用)。

  注1: 野村総合研究所の試算とは、2022年12月21日付けで公表した「日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計」レポートと推測する。ほぼ2年ごとに「日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模」として調査し、推計値を発表している。野村総研のレポートでは、富裕層とは純金融資産を1億円以上5億円未満、超富裕層とは5億円以上を所有している世帯とのことである。
 なお、このレポートの世帯数を合計すると5,402.3万世帯で、厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査の概況」(2019年6月6日現在)にある5,178.5万世帯とは差がある。


<グラフ1 国別の富裕層人口>


<グラフ2 富裕層の純金融資産は増加>

 

 上記の野村総合研究所「日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計」レポートには次の図が掲げられている。

<図1 純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数>
純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数(2019年)(野村総合研究所)

 図1をもとに富裕層の資産の占有の度合いを以下のように表すことができる。

 2019年について、超富裕層(5億円以上)、富裕層(1億円から5億円未満)、準富裕層(5千万円以上1億円未満)が全世帯数の約7.0%(約342万世帯)を占め、日本全体の金融資産の約37.9%(約588兆円)を保有している。また、超富裕層、富裕層が全世帯数の約2.5%を占め、金融資産の約21.4%を保有していることがわかる。
 図1から私が作成した次のグラフを見ていただければ視覚的におわかりいただけるだろう。

<グラフ3 純金融資産保有の占有割合と階層別にみた世帯数割合(2019年)>

出所:野村総合研究所「日本の富裕層は133万世帯、純金融資産総額は333兆円と推計」レポート

 経年変化を見るために同研究所の2000年調査(注2)と比較してみたのが次のグラフ4である。

<グラフ4 純金融資産保有の占有割合(2000年,2019年)>

  注2: 野村総合研究所の試算とは、2018年12月18日付けで公表した2017年の調査「日本の富裕層は127万世帯、純金融資産総額は299兆円と推計」に2000年調査を含め過去の調査結果が掲載されている。


 いかがであろうか。

 超富裕層、富裕層、つまり金融資産1億円以上を保有する層については、それぞれ、約20年間に2ポイント以上資産の占有割合が増している。一方、マス層は、6ポイント以上減少している。準富裕層、アッパーマス層は、現状を維持している(なんとか維持している)。

 これは、いわゆる「分断」が進んでいるひとつの表れである。富裕層以上の階層は、おそらく、不動産も保有している可能性が高く、総資産で比較するとマス層との差はさらに開くことであろう。両極化が鮮明になっているわけではないが、その兆候はこの調査/推計で明らかだ。

 税、社会保障などによる再分配制度の改善が必要だ。


 これまで投稿した以下の記事もご覧ください。

 「公的家賃補助と、良質な公的賃貸住宅の充実を望む

 「再度、公的家賃補助と、良質な公的賃貸住宅の充実を望む

 「現金10万円給付よりバウチャー制度で現物、サービス給付を