2024一橋ロー憲法再現答案 | Takaの司法試験やるよやるよブログ

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小問1

1 XはY市に対し、Xの井戸の設置の申請に対して下された、本件条例による井戸の設置不許可処分(以下、「本件処分」)の取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)を提起する。

 Xは取消事由として、Y市長の裁量権の行使の逸脱・濫用を主張する(行政事件訴訟法30条)。具体的には、Y市長には許可をするか否かについて要件裁量が認められるところ、Xの井戸の設置は「特に必要と認めるとき」にあたり、許可をしないことは裁量の逸脱・濫用にあたるという主張をする。

2 憲法29条1項は、私有財産制を保障するだけではなく、個々人の個別の財産権も保障する趣旨である。また、民法207条によれば、地下水は土地の構成部分であるので、地下水にも土地の所有権が及ぶ。そして、Xの所有する本件土地の地下水にもXの土地に対する所有権が及ぶ。よって、Xは本件土地の下にある地下水にも所有権を有しているというべきであり、Xの当該所有権は29条1項で保障される。

 しかし、本件処分は、Xの本件土地での井戸の設置を不許可としており、Xが井戸の設置により地下水を取水できなくなるというXの上記所有権の行使を不可能としており、Xの上記所有権に対する制約が認められる。

3 29条は1項で財産権を保障するとともに、3項で「公共の福祉」による制約を認めている。そして、財産権の種類も多種多様なものがあり、それに対する制約も色々なものがある。そこで、財産権に対する制約の審査基準は、制約の目的、権利の重要性、制約の態様等の諸般の事情を考慮して定立するのが妥当である。

 本件処分の目的は、本件条例と同じであると考えられ、地下水を涵養し、水量を保全することで市民の健康と生活環境を守ることにある(本件条例1条)。このような目的は、財産権の行使を自由とすることにより発生する弊害を防止するための目的であるので、消極目的といえ、裁判所の審査になじむものである。また、財産権は生活の糧を得るために必要な権利であるし、本件では所有権というとても重要な権利が問題となっている。よって、権利は重要である。そして、本件処分は一切の例外を認めずXの上記所有権の行使を全く不可能にしているので、制約の態様は強い。

 よって、本件処分が合憲であるためには、目的が重要で、手段と目的の間に実質的関連性が認められることが必要である。

4(1) 本件処分の目的は上記のとおりであり、ビル用水法や工業用水法の理念を条例に表現したものである。また、井戸の取水を限定なく認めると、地盤沈下が起きて、高潮や出水による災害が発生すると国民の身体生命や生活環境が害されるおそれがある。そして、このような国民の身体生命や生活環境に関する利益は法律上の保護に値するものである。よって、目的は重要である。

(2) しかし、手段に実質的関連性が認められない。

 すなわち、Xの井戸の設置によるX一家の生活に必要な取水量は限られており、少量の取水にしかならない。Xの上記所有権の行使を認めないことは市全体として見れば、災害の発生に及ぼす影響は極めて限定的といえ、Xの取水を認めないことが目的達成に資するとはいえない。

 また、Xが本件土地に水道の工事をする代金は1400万円にも及ぶため、そのようなXの大きな不利益を考慮して、Xの取水の上限を定めるなど条件を付けて許可をすることでも目的を達成することはできる。よって、他に選び得るより制約の小さい手段があるといえる。

5 以上より、本件処分にはY市長の裁量の逸脱・濫用が認められるので、違法であり、違憲であるので、取り消されるべきである。

 また、上記の主張が認められない場合は、損失補償(29条3項)がされるべきである。

小問2

1 Y市の反論

(1) 本件処分の目的は積極目的であり、市の裁量が広く認められる。また、確かに所有権は重要な権利であるが、他者の身体・生命や生活環境に損害を与えるような場合にまで所有権の行使が認められるものではない。そして、Xの問題は金銭により解決可能なので、制約の態様は強いとはいえない。よって、本件処分は、目的が正当で、手段が著しく合理性を欠くものでないかぎり合憲である。

(2) 本件処分の目的は正当である。また、本件処分もY市長の裁量の範囲内の行為であって、著しく合理性を欠くとはいえない。よって、本件処分は合憲である。

 また、損失補償は不要である。

2 私見

(1) 本件処分の目的は、無制限な井戸の設置による地盤沈下等の水害を防ぐという目的であり、消極目的であるので、裁判所の審査になじむものである。また、本件で問題になっているのは所有権という物権の中でも特に重要な権利である。そして、X個人が本件土地で取水をしたとしても、環境に与える影響は限定的である。よって、権利は重要である。くわえて、Xの井戸の設置には1400万円もの多額の費用が掛かるのであり、現実的にみて、Xの井戸の設置による取水を不能とするものであるから、制約の態様は強い。

 よって、本件処分の合憲性を判断するには、Xの定立した基準によるべきである。

(2)ア 本件処分の目的はXが主張するように重要である。

イ もっとも、手段に実質的関連性が認められない。

 確かに、X一家の個体としての取水量は、Y市全体からみると、とても少量である。しかし、他に本件土地のような土地を有する者がすべて取水を希望し、これに対して許可を与えるとなると、取水の全体量は大きくなることが想定され、Y市全体としての治水の安全性を脅かすものとなり得る。そうすると、そのような者に対し井戸の設置をして取水をすることを認めないことは、地盤沈下が起きて、高潮や出水による災害が発生することにより、国民の身体生命や生活環境が害されることを防止できるといえ、Xに井戸の設置を認めないことも目的達成に資する。

 しかし、水道を引いたときと井戸を設置したときでは、Xに発生する費用は1150万円もの大きな差がある。Xとしては、1400万円もの金銭を負担して水道を引くことは現実的ではなく、井戸が設置できないことによるXの不利益はとても大きい。そのようなXの不利益を考慮すると、井戸の設置を許可し、取水量の制限という条件を付すことも妥当である。そして、適切な取水制限をすることにより、目的が防止しようとしている弊害も起こりにくいと考える。よって、他に選び得るより制約の小さい手段が存在する。

(3) 以上より、Y市長は条件を付けてXに許可処分をすることが適当だったのであり、井戸の設置を不許可とする本件処分は、考慮すべき事項を十分に考慮しておらず、Y市長の裁量の逸脱・濫用が認められる。よって、本件処分は違法であり、違憲であるので、取り消されるべきである。Xの訴えは認められる。

                                        以上

 

参考:62行(1枚2項)しかない。

アガルートのは誤情報だった。

被告の反論で、「権利の埒外」というワードを使おうかとも思ったけど、

保障の話になってしまうかと思い、紙面が足りなくなりそうだったので、

権利の重要性のところで論じた。

最後の行の端まで書いた。