諸田玲子「波止場浪漫 上」~ 小学唱歌「船子(ふなこ)」~ 新作唱歌「早春賦」 | 愛唱会ジャーナル

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諸田玲子「波止場浪漫 上・下」(文春文庫 2018.05)の上巻を読んだ。博徒の親分・清水の次郎長の娘“けん”の伝記のような小説だ。

 

“けん”が波止場で歌を口ずさむ場面がある:

 

やよ ふな子 漕げ船を 漕げよこげよ 漕げよこげよ やよ ふな子

汐満ちて 風凪ぬ 漕げよこげよ 漕げよこげよ やよ ふな子

 

聞いたことも無い歌だ。小説のこの部分の時代設定は明治24年となっている。ネット検索で、「船子(ふなこ)」、小学唱歌集/三編(明治17年03月)初出、里見義作詞と判った。

 

メロディーは(アメリカの)ライトとするサイトがあったが、その原曲“Row Your Boat”(1881年)に関わるEliphalet Oram Lyte  なる人物は作曲者か編曲者かなど詳しいことは不明のようである。

 

「船子(ふなこ)」初出の明治17年は西暦1884年で、随分迅速に取り込まれたものだ。

 

ちなみに、原詞の一例は次の通り:

 

Row, row, row your boat
Gently down the stream
Merrily, merrily, merrily, merrily
Life is but a dream

 

 

「船子(ふなこ)」譜例では、ニ長調、6/8拍子となっている。

 

この小説にもう1曲、「早春賦」も登場する。社会の底辺をはい回るような不幸な遊女が≪唄というより念仏のような、かすれて、今しも消え入りそうな声で≫口ずさむ場面は、発表の3年後、大正5年の設定である。

 

季節感溢れる名歌曲にこのような効果的な使い方もあり得るかと、妙に感じ入った。

 

蛇足ながら、作詞者吉丸一昌(1873~1916)の没年は大正5年。