コロナ禍の閑中、図書館本を乱読中だ。非生産的な毎日を忸怩たる思いで過ごしながらも、読み始めれば寝る間も惜しい。駄本に当たった時は飛ばし読みで時を稼ぐ。面白かった本の一つで
ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(早川書房, 2020.3 友廣純/訳)
その面白かった本筋とは無関係だが、場面を修飾する形で言及された次の三つの歌を記録したくなった:
p.222 『シェナンドー』古い船乗りの歌
p.248 『漕げよマイケル』 1860年代にサウス・カロライナのシー諸島から大陸に向かってボートを漕いだ奴隷たちが歌った
p.280 『モリー・マローン』哀愁を帯びた魚売り娘の歌
“いまは彼女の幽霊が手押し車を押し、広い通りや狭い通りを歩いていく。ザルガイにムール貝はいかが、新鮮です!と呼びながら”
『シェナンドー』は当方がまだ青年だったアメリカ留学時代の思い出の歌で、当ブログにも何回か取り上げた。船乗りの歌という認識は無かった。広大なアメリカ大陸を舞台にした旅人の郷愁を何となく感じていた。
『漕げよマイケル』は黒人霊歌の類いだろうから、奴隷たちが歌ったというのは尤もだ。≪1860年代にサウス・カロライナのシー諸島から大陸に向かってボートを漕いだ≫と時空を明示されると印象が変わる。背景を知りたくなる。
『モリー・マローン』については初見、初聞きのようでありながら、既視感も覚えた。ウィキペディアなどを参照して“モリー・マローン(英 Molly Malone, known also as『Cockles and Mussels』) 非公式なダブリン市の歌として、広く親しまれている”と知り、確信した。
当ブログ内検索で≪コクルズとマスルズ~美味しい貝類~(非公認)ダブリン市歌 2011-08-30 21:33:40≫を再発見した。記憶を失うに十分な時が過ぎている。次のような解説を付していた:
コクルズ あさりの一種、小ぶりの赤貝(ブラッドコクルズ )
cockle( 貝類ザルガイの総称(トリガイを含む))
マスルズ ムール貝
mussel(イガイ(イシガイ,カラスガイを含む))
モリー・マローンは“魚売り娘”の名ということになるが、売っているのは貝類だ。魚介というくらいだから、魚売りが貝を売っていてもおかしくは無い。しかし、日本語では“魚売り”といえば、文字通り“魚”を想定する。とは言うものの、“貝売り”なる用語にもあまり馴染みが無い。難しいところだ。“しじみ売り”“あさり売り”は違和感が無い。
『モリー・マローン』は“あさり売り娘の歌”で良さそうに思われる。
蛇足:英語では、貝は shellfosh ,クラゲは jellyfish, タコはdevilfish, などのように、水産物一般に fish を付ける。
Delia Owens, Where the Crawdads Sing, 14 August 2018