実物を見ると、それほどの代物ではないという印象であった。現に、都内のある公立図書館の廃棄本を古書業者が入手し、店頭で販売したものであることが図書館印や業者附箋で明らかである。
通覧したところ、特に有用な記述は無いようであったが、第19章「女工の會話と合唱」のタイトルに引っ掛かった。
長い前口上を要約すると、
労働者の教養として読書が推奨されているが、(組合)活動に走ったり、ストライキをしたりと、有害な影響もある(バチルス?)ので、書物、著者も選ばなければならない。精神修養の糧となる良書を読むべきである。
というような會話の後に、
女工が「眞玉」の一曲を合唱した。
“昔の昔 その昔、、、、遠き唐土 荊山の みにくき石の璞玉を、、、 卞和 ( べんくわ )氏が拾ひて 王に献じけり 王は怪しみ、、、、怒りを為し、、、
不届者め!」と、獄に下し、、、
次の王立ちけるが、、、ふびんに思し其の男を、、、「さらば」と言ひて
琢かせければ たぐひなき 美玉の光 はなちつつ
由来、天下に傳はりて 世の珍寶となりにけり、、、
我が皇国にも 明石潟 千尋の底の白玉を 命にかへて 採り得つつ
時の御門にさゝげける 海士の男狭磯の例あり、、、”
ずいぶん長い歌詞で、結論は、玉も磨かなければ石、‘労働の汗・膏にも輝きを失わない心の眞玉ほど尊いものは無い’との精神訓話である。
ネタは「韓非子」(楚人卞和、得玉璞、、、)であることがページの上部欄外に明記されている。
この「読本」自体が懸賞募集作品を基にした編集で、物語部分は創作である。したがって、上記「合唱」された歌も新作であり、当時の「女工」さん達が実際に歌っていたものではないと思われる。
「合唱」の文字に釣られて随分時間を食ってしまった。
末尾に、「内容細目」として各章の趣旨が書かれている。
第19章「女工の會話と合唱」については、團體分子の素質上より要求する個人の修養 その三 身の健全と心の健全 バチルス 掃除 八時間労働 遊びのくさぐさ 心意の食物 などとなっている。