複数の公用語を持つ国のサッカーリーグ名称 ベルギー : Jupiler Pro League(英語) ベルギーリーグの正式名称は英語名のジュピラー・プロ・リーグ(ジュピラーはスポンサー)。
ベルギーは複数の公用語がある国で、オランダ語話者が約60%、フランス語話者が約30%いるそうです。
18世紀のオーストリア領ネーデルラント時代は言語間の対立などなく、また1830年にベルギーが独立しても唯一の公用語がフランス語であり、フランス語が上位、オランダ語が下位なのが自然の摂理でした。
しかし、19世紀後半にオランダ語が公的な地位を得るようになると、言語戦争といわれる状況が発生します。
言語問題は国防にも影響が出ました。ベルギーがドイツに占領された第一次世界大戦時、イゼル戦線ではオランダ語を話す兵士とフランス語を話す将校の意思疎通に困難が生じます。
オランダ語圏のフランデレン地域では、急進派ベルギー人とドイツ軍が手を結び、オランダ語圏のベルギーからの独立が宣言されてしまいました。
1895年の全国選手権創設以来、ベルギーでは約100年間もオランダ語圏・フランス語圏でリーグ名称が異なっていました。
19世紀後半から続いた言語問題は、1960年代にひときわ大きな社会問題となりましたが、1970年からの憲法改正で地域分権化が進み、1993年に完全連邦化が行われました。
そしてその1993年、ようやくリーグ名称も統一されたのです。
参考:小川秀樹「言語戦争」『ベルギー ヨーロッパが見える国』(新潮選書)新潮社、1994年
参考:ジョルジュ=アンリ・デュモン『ベルギー史』(文庫クセジュ)村上直久訳、白水社、1997年
スイス : Raiffeisen Super League(英語) スイスリーグの正式名称は英語名のライファイゼン・スーパーリーグ(ライファイゼンはスポンサー)。
スイスも複数の公用語がある国で、ドイツ語話者が約60%、フランス語話者が約20%、イタリア語話者が約10%いるそうです。
1897年から1929年まではセリエAで統一されていました。手持ちのドイツ語・フランス語・イタリア語辞書で「serie」を引いてみると、三辞書それぞれに項目があります。
英語の「series」に相当する単語なのは同じですが、ドイツ語辞書(三修社の独和広辞典)のみ「階級」「ランク」といった意味が記されていません。
ドイツ語圏で「階級」という意味で「serie」を使って通じないことはないと思うのですが、「階級」「ランク」を指す時に優先的に使用される単語ではないのでしょうか。
1929年にリーグ名称が各言語で異なるようになった理由はわかりませんが、多数派のドイツ語圏の住民の、ドイツに対するナショナリティが理由となったのかもしれません。
カナダ : Canadian Soccer League(英語) カナディアン・サッカーリーグはカナダの全国リーグとして扱われていますが、実質的にはオンタリオ州(英語圏)リーグであり、モントリオールなどケベック州(フランス語圏)のクラブは1クラブも参戦してしません。
このリーグが名実ともにカナダの全国リーグとなった場合、どんな名称を採用するのか興味があります。1993年までのポルトガル、2003年までのスイスのように各言語圏で異なる名称を採用するのだろうと思いますが、Canada Football Division などとすれば、言語間で表記を変える必要がないです。
※国名は二言語で表記が異なる形容詞ではなく名詞とする
※英語・フランス語それぞれでサッカーはfootball
※英語・フランス語それぞれでディビジョンはdivision
フィンランド : Veikkausliiga(フィンランド語) フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語の二言語ですが、フィンランドではフィンランド語話者が圧倒的多数のため、リーグ名称はフィンランド語のヴェイッカウスリーガ。リーグ公式サイトトップページを見渡しても、スウェーデン語版へのリンクが見当たりませんでした。
自国・自地域の言語に対する誇り ベルギーとスイスにおいて、英語が世界共通語になって久しい1990年代・2000年代にようやく改称が実現したことからは、自国・自地域の言語に対する誇りのようなものを感じます。
ベルギーにしてもスイスにしても、ゲルマンとラテンの言語境界線は西ヨーロッパ世界が成立してから1500年間も変化がないそうです。
私は大会名称にスポンサー名を冠するのにはやや否定的で、特にポルトガルなんか数年ごとに名称が変更されてややこしくて仕方ないのですが、ベルギーとスイスに限ってはスポンサー名称が複数の言語圏の仲を取り持つ役割を果たしているのかな、と思います。