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ほんだながわり

「読んだり、観たり、行ったり」だけは、何だかやりっぱなしじゃいけないような気がしたもので…。

2020年に創業した小さな出版社、水鈴社から出された医療の現場を舞台とした小説。著者は『神様のカルテ』でも有名な現役医師だ。ちなみにこの版元の社長は『13歳のハローワーク』の編集者だったそう。全体的にはわかりやすい話なのだけれど、ときどき顔をのぞかせる、生きるとか幸せとかについての問いが、なかなかに絶妙で、何度か思わず、うるっときてしまった。あとは矢来餅、阿闍梨餅、長五郎餅をはじめとする京都の銘菓がいたるところに登場するのも心憎い。村上開新堂のマドレーヌに、亀屋友永の松露、パティスリーカランの西加茂チーズ…あとはなんだっけ。そうそう、緑寿庵清水の金平糖もメモしておかないといけないな。
 

 

芥川賞を受賞した山岳小説…といってもエベレストを登るわけでもなければ、富士山を登る話でもない。描かれているのは、神戸の六甲山を登る、建装会社の社員たちの姿だ。一般の登山道ではない険しい道にわざわざ分け入っていくことをバリエーションルートと呼ぶのだそう。人生を山登りに例えるのはまあよくあることだけど、設定や描き方が新鮮で割と楽しめた。

 

 

読みやすいし面白いし、思わずウルっとしたりもしたのだけれど、多様性やら優しさやらの「今っぽさ」がちょっとだけオーバースペックかも。全然、悪いとかではないです。

 

 

元編集者で、ラジオパーソナリティとしても活躍するライター、武田砂鉄氏による、時代批評。いつもの武田節に、幼少期の想い出がたりが続き、心地よくも悪くもなく読み進めていたが、実はもともと、橋本治の絶筆論考『「近未来」としての平成』の続きとして依頼された連載だったという話が出てきて、なぜか急に背筋を正してしまった。これが何をどう感じての反応なのか自分でもよくわからないが、読んでよかったという思いが少しだけ増した気がする。決して、悪い意味ではなく。

 

 

哲学者、永井玲衣さんによるエッセイ。哲学とはどんなものかがするりするりと身体に入ってくるような前作での読者体験を期待したのだけれど、毎回、そうはいかないみたい。もちろんそれは本書のせいではなく、こちらの問題なのかもしれない。面白くないとかでもなくて。