ちょうど論文も書き終わりひと段落したある日、
私は研究室の学生からこのようなものをもらった。
「教授!この眼鏡おもしろいですよ!今度の研究に使おうと思っているのですがどうでしょうか?」
と。
「松本くん、コレは何?人間の頭の上に数字見たいのが出てきたけど?単位はkg?」
「おもしろい眼鏡ですよ!先日開発者である祖父にいくつかもらったのですがかけてみてください」
「・・・何の変哲もない眼鏡だけど・・・?」
「実は、コレ今度売り出そうと思っているのですが発売するためにはどなたか信用のある教授のサインがいるらしいんです。協力してもらえませんか?」
「う~ん?ただの眼鏡にサインがいるのかい?それに変なものは賛否できないよ」
「いえ、秘密があるんですよ。後で、私がバイトしている小学校の塾に来てもらえますか?塾の人には許可もらってありますから」
「わかったよ。じゃ後でね」
そんな経路で私はあの眼鏡を持って
彼女がバイトしているという塾へ向かっていった。
中はわいわいがやがやしていて流石は小学生という感じだ。
だが、先生がやってきて
授業が始まるや否や音はぴたっと止み、勉強に勤しんでいる。
どのこも、見た目はいまどきの小学生という感じで普通だ。
流石、名門ってことはある。私の子どももかつてこの系列に入れたのだから間違いない。
「教授、早速眼鏡をかけてみてください」
「あぁ・・・。」
眼鏡をかけたとたん中の様子は一変した。
中には脂肪肝の疑いのある子もいる。
・・・といういかみんなそんな感じだ。
肥満児。肥満児。肥満児。
肥満児の大群だ。
「・・・コレは?」
「おもしろい眼鏡でしょう?」
「どうして、このように写るんだい?」
「これはですね。やせている人でも肥満に見える眼鏡なんです!」
「そりゃ見ればわかるよ。どうして子ども達だけ?それとこの数字・・・?」
「おじいちゃんが言うには『何か』を比喩してそう見えるようになるらしいんです」
「けっこう引っ張るね?『何か』って?」
「子どもたちを見ればよく分かりますよ」
ふと、先生が黒板に字を書き始め解説が始まった。
すると、その文字や言葉がお菓子やジュースとなって
彼らの口へと運ばれていくではないか。
しかもその菓子を食した子どもたちの数値が上がった。
「まさか、これは・・・。」
「えぇ、そうです。受けた教育が目に見える眼鏡なんです。」
「仕組みはわからないが、すごいものだね。ってことはこの数字は『学力』か・・・。」
「あの、これ卒業研究のテーマに使ってもいいですか?テーマは『肥満教育』」
「あぁ、ぜひ研究してみておくれおもしろいから今いる研究室全員でチームで組んでコレをしよう。
ちょうど、みんなテーマが決まっていなかったからね。それとぜひサインさせてもらうよ。」
「本当ですか?良かった。おじいちゃんよろこびます。それと、実はひとりでは大変そうだから『みんな』でって言うのもお願いしようと思っていたんです。」
こうして彼女らの卒業研究がはじまった。
彼らは学生だけあって、いろんな場所で協力を願い、調査ができた。
以前バイトしていた塾やボランティアの学校など。
「こまめに研究成果はまとめて提出しなよ?」
半分興味本位もあったが
研究の成果のアドバイスをするためには必要な事だった。
研究チームは5人のメンバーで構成されていて
それぞれの担当する年齢などは違う。
研究チーフもちろんこれは松本の役だ。全体を把握する役割だ。
ひとりは幼稚園、小学校担当。
ひとりは中学、高校。
後の2人には当てがなかった。
そのうち片方は
「俺、当てがありますから」
等と言い。勝手に始めてしまった。
まぁ、言いといえば言いのだが・・・。
数日後電話がかかってきた。
「~少年院ですが・・・。こういう研究しているのは本当ですか?」
・・・まさか、ヤツが少年院を当てにしているとは・・・。
まぁ、おもしろいからよしとしよう。
流石に彼は元ヤンというだけある。
メンバーや、お世話になった施設を研究したいと思うのは
彼の心が仲間達を認めているからだと思う。
もうひとりには
知り合いのペアレントの紹介で
青少年のために運営されているユースホステルに行ってもらうことにした。
・・・・・・・
「教授!できました!」
彼らの途中経過の報告書を読んでいると感じる事がある
最近何かと話題になっているメタボリック症候群。
眼鏡をかけると子どもたちが肥満に見えるのだから仕方ないのだが
それと酷似しているのだ。
いや~、アレはヤバイよ!ヤバイよ!
どこかの芸能人の言いそうなセリフが研究室からよく聞こえる。
教育の研究というよりも肥満の研究をしているに近い。
報告書を読んでいると・・・
スナック菓子を食べ、ジュースを飲み、家でゲーム三昧
そんなメタボリックな子どもたちの生活習慣が読んで取れる。
頼むから・・・別の言葉に直してくれ。
眼鏡をかけた時、普段と体系が変わる学生は何人もいる。
ウチの学生にもこの肥満はよくいる。
ガリガリな生徒もいる。私の担当する部屋はガリガリな者の方が多い。
この肥満児達の特徴は成績がとても良い。
そりゃそうだ。
肥満は『学力』に繋がっているのだから。ガリガリはダメだ。
ガリガリな奴ら、カンニングばかりしている。全く・・・。
見てわかりやすいからこの眼鏡、推薦に使える!
だが、不思議だ。
そんなに太っているわけでもないのに成績が良い学生もいる。
夏になった頃、
肥満学生に異変が起きた。
大学を辞めた。
成績が悪かったわけでも、
友人がいなかったわけでもなさそうだ。
松本たちの中間報告書がまた届く。
『現代っ子の生活習慣は少し油断すればすぐに肥満へと繋がる。』
なんだか、雑誌の見出しみたいになっているが
とりあえず報告書を読んでみた。
前回、データがないと人々には納得してもらえないと諸注意を促しておいた。
彼女らは役割分担しアンケート形式やベッタリ生活に密着するようなカタチでで調査を行ったようだ。
小学生の調査では87.67%の子どもがそのような傾向があるようだ。
男子で93.24%、女子で82.1%と傾向がある。
女児の方がやや肥満の傾向が少ないが
中学生になるとそれはほぼ均一を保つようになる。
・・・が、しかし
高校生になると全体で約42%と激変する。
だが、男子は31%に対し、女子は53%だ。
変わりにガリガリな学生が出てくるというのだ。
そう言えば、塾通いの子どもたちの母親はガリガリな者が多いらしい。
しかも、そのほとんどが食事を受け付けないくらいの細さだ。
中には生きていて不思議なくらいの骸骨もいるそうだ。
何ともおもしろい結果ではないか。
確かに、大人になると教育を受けにくい。
そういえば
この問題は肥満と酷似していると報告書にはあった。
肥満というものは標準体重よりも
何%重いのかを示す肥満度を目安にしている。
健康かどうかを指数によって示すのだ。
まさか、この眼鏡によって見える肥満とは・・・?
いや、そんなはずがない。
報告書の続きを読んでみる・・・。
『塾に協力を願い、私の支持する肥満生徒42人に調査を依頼した。』
塾に行っていますか?
母親は好きですか
あなたが社会に思う主張を簡潔に書いてみてください。
・・・などなど全20項目のものだ。
「塾にいるものに塾を。。という項目は削除だな・・・」
そうつぶやきながら読んだ。
この肥満生徒達は
肥満と成績が比例している。
眼鏡の示す体重と学力はほぼ均一なのだ。
だが、全てのものが成績にふさわしくない回答を寄せている。
2択以外の答えは、わからない、
微妙など、言葉足らずな表現が多い。
年齢もまだ子どもだから仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
小、中、高と報告書を一読する。
そういえば、少年院の方はどうなっただろう・・・?
入所当時はどうやら、ガリガリなものと、肥満な者が多いらしい。
だが出所時は普通。なんだそうだ。
ユースの方も同様の結果報告が取れた。
松本がまとめてある。
肥満と学力は必ずしも比例しない・・・と。
むしろ、肥満児は危険なのだと。
それからはダイエットについて書かれている、
この肥満解消は普段の肥満解消とは少し訳が違うらしい。
最近巷で話題の過激なダイエットをすれば
よいというわけでもなく、別の思考を植えつけれれば良いわけでもない。
幼い子どもなら与えれば返って混乱する。
子どもは少しづつ成長するのだ。
その間に教育は消化されてゆく。
と言うことでまとめてあった。
「何を言っているんだ?知識を入れたほうが言いに決まっているではないか?」
それから
私は家に帰り、あの眼鏡で
自分の顔を眺めてみた。
見るも無残な肥満体系がそこに写っているのだろう
と、思い鏡を見てみると・・・
骨だ。
骸骨がいる。
「私が・・・学力不足だと?私がか?コレは壊れているのではないか?」
「そうだ!息子は?息子はどうだ?幼い頃より英才教育を施してきた息子。いつも成績はトップで自慢の息子だ。どれだけ重いものになっているだろう?」
「おい!息子!」
私は愕然とした。
高校生にもなるというわが子は・・・骨となっている。
ウチの学生でも細いものほど、学力が乏しくカンニングをよくしていた。
「お、お前・・・。今までの成績はどうしたんだ?カンニングしていたのか?」
「やめて、父さんやめてよ、どうして俺がカンニングしないといけないんだ?」
「うるさい黙れ!何だ!その姿は?」
・・・・・。
それから数ヵ月後・・・
最終報告書が届く。
最終報告書
教育の消化不良。
それがこの眼鏡の見えるものの正体だ。
消化されきれない教育が肥満となって現れる。
この肥満への取り組み
それは生活の改善、子育ての見直し、自己意識の変化にある・・・
が、アドバイスを消化することのできない人間に何を言っても無駄だろう。
松本美代子