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すぐにマールはアリーナわきで倒れていたニコスに駆け寄った。

「ニコス!ニコス!大丈夫かい?」

「・・・ん、あぁ。大丈夫。だけど。」

「だけど?」

ニコスが手にしていた剣が音も言わず崩れ去った。

「こいつはもう使えなくなったな。」

「せっかく、マスターからの贈り物だ

ったのにな。」
 
「うん。でも、無事でよかったよ。」

マールはとりあえずほっとした。

「そうだ!王は?」

「あそこで空を見ているよ。」

「・・・空?あっ!」

彼らの眺める空に浮かぶ水辺が真っ黒に染まっていた。

「王様、水が・・・。」

「・・・うむ。おそらく奴らの狙いはこれじゃったのだろうな。」

「あれってもしかして・・・。」

「そうじゃ、我々が代々守ってきた神鳥の水の源流じゃ。」

空に浮かぶ、水辺が?

「王様。あの魔法について御存知ですか?クロガネルさん、様子がおかしかったのですが。」

ニコスが王に訪ねた。

すると王が重く口を開く。

「シャドーマンか。憎いという感情に支配され、相手の思うがままになってしまう魔法じゃな。あいつは厄介なことにドラゴンが消滅すると同時に発動するようにしておったのじゃろう。」

「それは見ただけで分かるものなのですか?」

「真っ黒じゃったろ?本来スカルドラゴンは砂漠に生息する白い竜のはずなのにな。奴も知っておっただろうに。」

「あの・・・。」

「なんじゃね?マール君。」

「アグマって何なんですか?クロガネルさんが倒したって聞いてたのに。」

「奴は死なんよ。ただ、一時期足止めしておいただけじゃな。」

「・・・死なない?」

マールは思うところをぶつけた。

「彼がなぜ、世界最高の賢者だと言われているのか知らないのかね?」

「・・・。」

「輪廻と転生、そして不死。それがアグマの賢者と言われる所以じゃ。たとえ肉体が滅びても再びどこかで再生する。どこで再生するのか誰も知らんのだよ。」

「だったらなんであんなことするんですか?」

「おそらく、奴はアグマであってアグマではない。あの黒いフードの者はどこかで術をかけられマリオとなっておるのあろうな。アグマを復活させるために。」

「その人もみんなも元に戻せるんですか?」

王は空を見上げた。

「難しい質問じゃな。すべての毒を癒し、人を正気に戻すありがたい水があの姿じゃな。」

「つまり、神鳥の水を飲ませることができれば元に戻るんですね?」

マールは王に背を向けた。

「ま、待つのじゃ。」

王は2人を呼び止めた。

「今、残った兵士で編隊を組み向かわせる。君たちはそこで・・・。」

すると、ニコスは言い出す。

「いいえ、王様。兵士は残っていまっせん。ここにいたものは全員連れてかれてます。」

確かに周囲を見渡しても立っている人は3人しか人はいない。
 
「俺たちが行かないと。それにアグマの呪いを解こうと言う俺たちにとってアグマとの戦いは避けられません。」
 
しばらく黙り込んで王は答えた。

「いくら、キミが賢者の弟子であるとしても、わが国にはセバスがそうであるように今の君よりも強い兵士は何人もいるのだよ。」

「何とかなりますよ。それに、やられっぱなしは嫌ですからね。絶対にみんな元に戻してきます。」

王はため息をつき言った。

「仕方がない。良いかね?相手の兵士を倒すことじゃない。相手に気づかれずに神鳥の水を手に入れ元に戻すことだ。見つかってはいけないよ。」
 
「分かりました。」

「ところで、マール君。キミは魔法が使えるのね?」

ニコスもマールも首を振った。

「僕は全然。」

「彼も、使える魔法が限られているだろう?猫又は年齢を重ねないと魔法が使えないらしいからのう。」
 
そう王が言うと、ニコスは黙って聞いていた。

「本は受け取ったかね?」
「あの、魔法の基礎本ですか?」

おしゃべりな兵士さんからもらった本を取り出した

「そうじゃ。魔法を使う方法は大きく分けて3つ存在する。」

「・・・3つ。」

「1つ目は己の身体的エネルギーを魔法へと変換させるものじゃ。ちょうど、ニコス君の変身がそうじゃな。」

「2つ目。道具を介して理解したスペルを唱えること。試験中にも炎の戦士が使っていたじゃろ?」

確かに、と試合のことを思い出していたが、マールには使えそうもない。

「3つ目じゃ。それは、魔法を使うことのできる他の生物を召喚する。じゃな。」

「召喚?」

「アグマがやっておっただろう?魔力を付加した生物を呼び出すことを。」

「それ、僕にできるのですか?」

「何を言っておる?そこにいるではないか。」

そう、王が指差したのは。
 
「リリー?でも、あれは魔法の絵本に挟まっていただけの・・・」

「では、試してごらん。魔法の基礎本を読ませた上で使える魔法の名前を叫べばいい。」

「へ~?リリーって変な指キスだとは思ったけど、絵本の魔法だったんだな。」

ニコスはなにやら納得しているようだ。

「じゃぁ、早速・・・。」
 
すると、魔法の基礎本が書かれた魔道書が青く光だし、見る見る間に文字がリリーへと吸い出されていく。
 
「完了じゃな。」
 
「リリー、頼むよ?」
 
するとリリーが青く光だし青い球体がリリーを包む。マールが手を伸ばすとその青い球体はマールの手のひらの先に止まった。
 
『リリー、頼むよ。ファイア!』
 
ボッと、音が出て小さな小さな炎が飛び出した。
 
「・・・・。」

「・・・。」

「ライター?」
 
その炎はあまりにも小さく、すぐに消えた。初めて使った魔法だったけど、あまりにも実感がわかない。
 
「・・・これって兵士相手には使えないですよね。」

「・・・。」

「生活用の魔法だからな。気合いで強さは変えられるんだろうけど。」
 
ニコスは手を仰向けにしてそう言った。
 
「そうじゃな、その魔道書の中で使えそうな魔法は2、3ほどかのう。おそらく、そのユビキスなら、時に応じて説明してくれるはずじゃ。」

「本当ですか?ありがとうございます。」
「王様、剣を一本借りて行ってもいいですか?さっき折られてしまって・・・。」

ニコスは 王に言った。

「だが、普通の剣でよいのかね?お前たち猫又の扱う剣は全て楽器屋につくらせた特別性じゃぞ?」 

「そうでしたね。う~ん。」

「ねぇ、ニコス?」

「うん?」

「これ、借り行ったらまずいかな。」

マールが指差したのは闘技場に突き刺さったまま放置されたクロガネルの剣だった。

「おぉ、セバスの剣、魔法剣鈴鳴か。」

剣に近づき、手にするニコス。
チリン。チリン。と鈴の音が鳴る。

「これ、俺の剣とそっくりだ。」

手にした剣を二度三度振って見せた。

「その様子じゃと、剣の魔法も使えそうじゃな?よいぞ、持って行くがよい。」

「王様、ありがとう!じゃ、行こうぜ。マール。」
 

「お前たち、これをやろう。2人くらいは正気に戻せるはずじゃ。」

そう言い、王は1本の神鳥の水の入ったビンを取り出した。これはマールが王の部屋で飲んだものと同じものだ。 
ニコスがそのビンを受け取るとニコスはダイヤのトランプを取り出し、その中にビンを収めた。

「では、頼むぞ。」

「はいっ。」

城を出たマールたちは驚いた。

「全然変化がないね。てっきりみん連れてかれていると思ってたのに。」

そこは変わらず、商売に熱心でにぎわう街のままだった。

「あいつ、何で途中で帰ったんだろ。国を滅ぼすつもりなら絶好のチャンスなのに。」

「絶望を集めるだとか、弟子との約束がどうって言ってたよ。」

「弟子?弟子ねぇ・・・。」

首をかしげるニコス。

「うん。考えても仕方ないよね。分からないことが多すぎるもん。」

「そうだな。」

難しい顔をしていた2人だったがこれ以上考ええも仕方がないので話題を変えた。
 
「ところで、ニコスは神鳥の水の源泉の場所知ってるの?」

「え?俺、知らないよ。」

「えぇ?じゃあどうやって行くのさ?」

マールは目をまん丸にしてニコスに言った。

「そりゃ、ジーニーに近くまで送ってもらうつもりだったんだけど。」

「ジーニー?ジーニーってあのやたらと丁寧に話すバスのことかい?そんなことに巻き込んで平気なの?」

「う~ん?頼んでみないと分からないけど、たぶん協力してくれるよ。ダメだったらさ。ガイドブック頼りの徒歩だね。」

こうして2人は人のにぎわう街の入り口の方へと向かった。

「ねぇ、ニコス。この先のほうには行

きたくないんだけど。」

道行く先にはマールから有り金を全て

奪い取ったにわとり鳥のおばさんが商

売している。
 
彼の頭には街に来たばかりの時のこと

がよぎった。

欲しくもないものをたくさん買わされたこと。

また買わされるんじゃないかと心配だった。

すると、ニコスはマールの視線の先を見て言った。

「あの店、なんだか感じ悪いな。俺、鳥ってあんまりなんだよなぁ。」

「そうなの?猫はみんな小鳥が好きなんだと思ってたよ。」

「個人の好みじゃない?」

そのままあの店の人に目を合わせないように進む彼らの目にある人物が目にとまった。

「あっ。」 

「どうした?マール?」

「今、そこにいた人。」


彼の指差す先には紫色のフードをかぶ

った男が鋭い表情をしたシベリアンハスキーのような赤い犬を連れて立っていた。

「良い子だ、フレイ。よく覚えておくんだよ。」

手には赤い本。
その姿はさっき城のみんなをさらって行った者と同じような格好をしている。

犬の耳はぴんと三角に立ちよく聞こえそうだ。
 
「珍しいな。赤い、アイスドックだ。」

「え?」

彼らはそのまま通り過ぎニコスは犬の方を見て答えた。

「寒冷地方でソリを引くのに飼われている犬だよ。それに魔法で氷をはけるからそれで飼い主たちは家を造れるのさ。でも、あの犬は・・・?」

マールは小声で、ニコスに言った。

「あれ、あのアグマに操られている人とかじゃないの?」

すると、ニコスは笑って言った。 

「マール。ここ砂漠だぞ?あぁ言う格好の人は多いんだ。それにあの人は普通の人だよ。だって魔法の臭いが違うから。」

「におい?」

「うん。ほら、アグマの魔法は嫌な臭いがしていたけどあの人は輝いているって言うか、さわやかってそんな匂いがするだろ?」

マールは周囲の匂いを嗅いでみたが周囲の店のおいしそうな匂いしかしない。

「?」

「俺、人間よりは俺は鼻がいいから、マールにはわからないのかもしれないな。」

「うん。でも、なんだか気になって・・・。」

「あの人?」

彼らが振り返ると、その男と犬は姿を消していた。

「う~ん?気のせいじゃない?俺も犬連れの癖にいい匂いがするなってくらいにしか思わなかったけど?」

「そうかなぁ?」

バス停に着いたニコスは、簡単にジーニーに状況を説明した。

「本当に、行くんですか?」

「そうだよ。近くまででいいからさ。」

ジーニーは、困った顔をしている。

「ですが、あの辺は普段から・・・。」

「ジーニーさん?ごめんね。こんなことを頼んで。でも、いいんだよ?嫌だったら。」

すると、彼は深いため息をついて答えた。

「どうせ、行かれるのでしょう?全く、あなたって人は『マスターのお皿を割ったからお前が屋敷に突っ込んでお皿が割れたことにしておいてくれ』だの、『旅のお供に』だの、『試験やだから逃げるの手伝え』だの、『マールを迎えに行くために別世界へ飛べ』だの、私に無茶なお願いばかりをなさる。私もマスターに叱られるのですよ?」

するとマールはニコスの方を見て小声で、そうなの?と聞いた。

「いいじゃないか。昔の話さ。」

迎えや、旅のお供は最近なんだけどな?と、マールは思ったが口には出さなかった。その瞬間ジーニーの扉が開いた。

「忘れ物は、ないですか?では、出発

しましょう。」

「いいの?」

マールは、ジーニーの顔をしげしげと見つめながら聞いた。

「えぇ。」

それから、半分あきらめたかのように目を細めながらニコスに言った。

「ニコス様?私が送らなくてもご自分の足で行かれるおつもりだったのでしょう?」

「さっすが!ジーニーじゃあ頼むよ。神鳥の住まい近くまで!」

マールはジーニーにありがとうと言い乗り込んだ。

バスはぐんぐん砂漠を進む。

空は晴れ渡り、遠くの方まで光り輝いていて当たりがよく見える。

2匹か空を飛ぶ青い鳥も見えた。
 
それに何個も何個も道しるべのようにサボテンが生えている。
 
シートの乗り心地は悪くはなかったが道がでこぼこしているため上下によく揺れた。
 
マールは興奮と緊張で胸が抑えきれなかった。

落ち着かなくドキドキしている。

それに教えてもらった魔法がうまく使えるか心配だった。

「大丈夫かな?ニコス。・・・ニコス?」
 
「・・・ぅぅぅ。」

ニコスの顔色が悪い。
 

「ニコス。大丈夫?もしかして車に・・・?」

そう言いかけたときニコスは顔色が明らかに悪いのに笑っている。
 
違うと言いたそうだ。

「クェェェェ~」

 空からは鳥の鳴き声が聞こえた。

マールが窓から上のほうを覗き込むと悠々と飛んでいる大きな青い鳥を見えた。

さっき街の付近でよりもずっと大きい。

きっとあれは街のみんなのシンボルなんだろうなって思った。

「ねぇ、ジーニー、少し休憩しない?」

そう、マールが言いかけたとき、ニコスがガっと、マールの腕をつかみ、首を振った。

「もう少しでつくから。・・・これは鳥の呪いだ。絶対に鳥の・・・。」

なんだかブツブツ言っているが。

「ほら、手のここら辺をもむと気分が楽になるよ?」

「・・・ぅぅ、ありがとう。」

ニコスはうなるように言った。

「そろそろ、到着しますよ。」

ジーニーが2人にそう言うので、マールは急いで運転席の方に行った。

すると、辺りの景色が少しだけ変化していることに気がついた。

周囲には真っ白な何本もの棒のようなものが突き出ている。

とても頑丈そうに見えた。

「この辺から先に行くと岩場へ出ます。そこの一番奥に神鳥レインバードの巣があるのです。この辺は危険なので一気に突き抜けますよ。お座りになってください。」

と、ジーニーが言った。

「きけん?」

「はい、ここは・・・」

そうジーニーが言いかけたとき運転席から目の前にあった真っ白な棒のようなものが蛇のように動き出した。

「え?」

マールは目を凝らしてその様子をじっと見つめた。

今にも何かが飛び出してきそうだ。

あれは何だ?何だ?しがみつくようにバスの座席をぎゅっとにぎっとた。

どんどん棒の形が見えてくる。

あの形は。

「骨の尻尾?」

「あれは400才くらいの大物ですね。」

と、ジーニーは落ち通いている。

ズトンと大きな音を立て粉塵が舞った。
「グォォォォン。」

「グォォォォォン。」

と、粉塵の先からは怪物の低いうなる

声が聞こえる。


あの音は。

「スカルドラゴン?何で?」

粉塵の先からは見事なスカルドラゴン
が現れた。

その大きさはバスでさえも人のみできそうなくらいだ。

「神鳥の巣近くの砂漠はスカルドラゴンの巣なんです。だから一般の人は王が規制をしなくても誰も巣には近づけなかったんです。飛ばしますよ。しっかりつかまって。」

ジーニーが言った。

「え?」

すると、バスは加速し、ドラゴンの横をすり抜けて、どんどん加速する。

「グォォォォ。グォォォ。」

まだ走る。

まだ走る。

走る。

「グォォォォォォ。」
 
ドシン、ドシン。

と、大きな足音が聞こえる。

ドラゴンとの距離は一向に変わらない。

「ねぇ、アイツ追いかけてくるんだけど?」

すると、ジーニーは冷静な声でこう言った。

「残念ですが・・・。」

残念ですがって何?マールは息を呑んだ。

「ニコス、ニコス。」

マールが叫ぶ。

「ニコス、アイツ、どうしよう。」

「・・・ぅぅう。」

駄目だ。この人。


これだけはやりたくなかったが、他に手があるのだろうか?

マールは目の前で十字を切った。
 
「神様、どうか我々に安らかな眠りを。」

半分、あきらめている。

すると、マールの目の前にリリーが。

「そうだ!」

道の悪さやドラゴンの追いかけてくる衝撃で経っているのがやっとだった。

うまくバランスをとりながらマールは窓を開け後方から追いかけてくるスカルドラゴンの方を向いた。

風が轟々とマールの耳元に鳴る。

「リリー頼むよ。なんかいい魔法。なんかいい魔法。」

「グォォォォォン。」

聞いたこともない叫び声がマールの背筋にまで走る。

手が震えている。

「頼むよ、リリー。ファィア!」

すると、マールの目の前で小さな炎が上がっただけだった。

「グォォォォン。」

牙と牙のこすれあう音が聞こえてくる。
骨だけの姿から鳴り響くその音がさらにドラゴンの力を恐ろしくさせていた。

「・・・ぅぅ、まだいる。」

ニコスがそう言った瞬間、マールほどの大きさの小さなスカルドラゴンが砂の中から一匹又一匹と現れだした。

「駄目だ。どうしよう。使える魔法はないの?リリー。」

「・・・マール。」

小声でニコスが言った。

「マール。こう、唱えるんだ。『嘆きの魔女よ。少しの時間の私に嘆きを与える力を貸したまえ、ウィッチショック』と。」

「ウィッチショック?」

「いいから早く。大丈夫、できるさ。」

ニコスは、冷や汗を流しながら動けそうもない体でそう助言した。

そして、そのまま座席に倒れこんだ。

「・・・ニコス。」

気合いを入れてマールはドラゴンの方を向いた。

「よし、もう一度。」

彼の手はぶるぶる震えている。

その手のひらの上にリリーがそっと舞い降りた。

「頼むよ、リリー。」

頷くかのようにリリーは輝きを増し、丸い丸い光を発した。

「頼むよ、リリー。『嘆きの魔女よ。少しの時間の私に嘆きを与える力を貸したまえ、ウィッチショック』」

すると、突然、リリーの体から黄色い発光体分離し、スカルドラゴンの方へとくるくる回転しながら向い、ドラゴンに当たった。

「グォォォォン。グォォォン。」

と、スカルドラゴンの様子は変わらない。

「・・・?」

マールが失敗したと思った瞬間、

バキッっと、

大きな音を立て、スカルドラゴンがよろよろとスピードを落としたかと思うとそのまま周囲の小さなドラゴンまでを巻き込み大きな音を上げ倒れこんだ。

「おぉ!流石です!」

と、ジーニーが言った。

マールは自分が何の魔法を唱えたのかまだよく分かってない。

自分の手の先にとまっているリリーを見てぼんやりしている。

「・・・ジーニー。」

ニコスが言った。

「早く、ここから離れるんだ。まだいるかも知れない。」

はっとし我に返ったマールはジーニーに向かって言った。

「今度は逃げ切れるかい?ジーニー。」

すると、

「お任せください。」

と言うと、猛スピードでその場を離れていった。

夢を見た。

 

久しぶりに夢を。

 

白く、何もない空間に男が2人いた。

 

1人の男の顔はよく見えない。

 

もう1人は私だった。

 

数秒2人は話し合った後、一人の男がもう一人の男に殴りかかった。

 


罵声。

 

「俺から幸せを奪いやがって!!お前か?あいつの言ってた好きな人は!」

 

顔の見えないその男は

先日、私のもとを去った彼女の新しい恋人らしい。

 

夢の中の私はとにかくその男を殴っていた。

 

憎しみに体をまかせとにかくこぶしをふるう。

 

温血。白くひっそりとした空間にぬくもりが飛び散る。

 

そして、憎しみはそれだけでは飽き足らず、もう一方の男の足を折った。

 

真っ白な空間に鈍く大きな音が響きわたる。

 

悲鳴と、笑い。

 

「ははははは」

 

私は、笑っていた。

 

この男が不幸になるのは当然だと当然の報いなんだと笑っていた。

 

蹴り殺すつもりなのかwたしの怒りは収まることはなくなおも私は続けている。

 

「もうやめてくれ。」

 

そう、何度も、何度もつぶやく男に私は蹴りを何度も入れ歓喜であふれていた。

 

そして、床に転がる男に私は冷たく言い放つ。

 

憎しみの言葉を。

 

そこには、思う一人男がいた。

 

2人をただ、見ているだけの男が。

 

その男は私だった。

 

私は見ていた。

 

2人の男の様子を。

 

殴る方と殴られる方争う2人はどちらも私。

 

殴られているほうもまた私だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ちゃん。ちゃん。 

 

----------------- 

 

 

*物語はフィクションです。*

 

誰か、創造の中でしか知らない人を憎むとき、そのモデルは自身である。

 

 
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昨年、父が退職してから何度か

父の新たな職探しに付き合うことがあった。

 

とは言っても時間があるときに

職安に送る程度だけど。

 

もう退職したのだからのんびりすれば?

なんて行ったのに

まぁ、働くのが趣味みたいな人だから止めはしないけど・・・。

 

職安と言うものはどうも背広で行く必要はないらしく

その人の思うカジュアルな服装なんだと思う。

 

父を見ている限りじゃそう思う。

 

父を送った帰り、同じように職安に入っていく人を見た。

彼らのファッションは…

何となく使い込んだ

つなぎや工場の作業着のような服装が多い。

 

『今仕事探してるんです』とか『工場帰り』と言われると

やっぱりそうなんだろうなと、すぐに納得できる感じだ。

 

どうしてみんなそんな服を着ているのだろうと考えてみた。

 

父基準に考えるとダメなのかも知れないが・・・

それ以上のおしゃれな服が家に存在しないんだと思う。

 

彼らなりのおしゃれ。

 

それは、まるで学級新聞を作るのに

小学生の男子に好きなように色を塗っていいからと

クレヨンと画用紙を手渡したとき、

女子ならば黄色やピンクで彩られた明るい色で着色された学級新聞が出来上がるのに対し、 

黒と白、そして少しの茶色に濃いめの藍色で塗られた

見た目のダークなものが出来上がった瞬間のような感覚だ。

 

いや、そうじゃない。

すでにクレヨン箱に入っているクレヨンが黒と屋根色しかないんだ。

 

その年はボクも大学を卒業し就職活動をしていた。

3月になり、9月に決まった就職先の研修で

ボクがスーツを着て出かける日、外が真冬のように寒かった。

 

社会人が着て行くのにふさわしい服装と言うものを部屋で探したのだけど

9月までに就職先の決まっていたボクは冬用の服装を用意してはいなく

いざ研修に向かおうとするとめぼしいものが見当たらなかった。

 

そんなとき、父がボクに言った。

 

「どうだ?お父さんの普段着ているコートはいいだろ?」

 

と、職安に行く時に来ている服を指差した。

 

10年くらい着こんだよれよれのコート。

 

確かに、スーツの上から着用でも違和感がない。

 

「着てくか?」

 

だが、しかし。

 

だがしかし。

 

悩むこと数分。

 

結局ボクはコートを着ないまま家を出た。

これを着たらダメな気がして。

 

このとき20の夏休み、

友人たちと旅行に行ってた日のことが頭をよぎった。

 

どこへ行っても10代~20代くらいの人ばかりで。

どの店もにぎわっていて地方にはないブランド店に足を運んだ。

 

3万も4万もする財布にワイシャツ。

給料(…いや、バイト代)数ヶ月分はあるだろうバックに

1万近いキーホルダー。

60万から半額になったコート。


と、

 

初めてやってきたブランド店はボクには異様な空間に思えた。

 

全てが1点もので

ブランド物の価値があまり分からないボクには

不思議な世界だったが他に来ていたお客人たちは『安い』、

やら『彼女』へのプレゼントやら自分へのご褒美と買っていたっけ。

 

興味がないとは言ったものの、

正直、素敵な服だとは思ってた。

できがすごくいいし、かっこのいいものが多い。

店の雰囲気を楽しむだけでも価値があるように思う。

 

そう感じた。

 

バイト代だしいっかと、3、4万の買い物をした。

 

旅行が終わると

しばらく生活ができず支援を求めたっけ。

 

 

そんな旅行から3年になる。

ようやく仕事にも慣れ、1年経とうとしていた。

 

昔は、見えていなかった。

 

10年くらい着こんだよれよれのコート。

そう、10年くらい着こんだよれよれのコートが。

 

そいつが、いろんなものの対価にともなうものとは何も知らず。

 

何も知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃん。ちゃん。 

 

----------------- 

 

 

*物語はフィクションです。*

 

すねをかじられたよれよれのコート一着にも物語が存在する。

 
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