あの日、彼女からはじめて聞いた。

どこでもそうなのだろうが、娘と言うものは男の子に比べ

こんな話題が浸透しやすい。

地元で行われる花火大会、そこで愛を語り合ったものたちは永遠に結ばれると言う。

 

永遠に・・・か。

少し迷惑な話だ。

 

そんな都市伝説のおかげか、

中高生のカップルが多い。

 

子連れの家族にとっては目にあまる。

それでなくても人人人。

暑いのにおしくら饅頭をしに行っている気分だった。

 

そんな中、律儀に伝説を信じ

愛を語っている人もちらりほらり。

頭がやられているんじゃないかと思う。

 

私の頃なんかは、ありきたりな語らいでも

もう少し知恵を使ったと思うが・・・。

こう言うことを言う時点でもう年だなと感じてしまう。

 

いや、人ごみでの語らい。それもまた風流と言えば風流か・・・。

人世代前に自分達を思い出し、少し感傷に触れた。

 

「パパ~。わた飴買って~」

 

この子達も、こうなって行くのだろうな。

 

「いいけど、人にぶつからないようにしなさいよ。」

「は~い。」

 

そう思うと、わた飴がずっしりと重く感じた。

ひとつ300円は重い。

 

 

花火の打ちあがるときの音は、首を上げ上を向く。

子どもたちも上を向き、花火を見ていた。

 

昔なら抱っこをしてあげたが、今はそうは行かないな。

そんなことを思いながら、また花火を見た。

多分、そろそろ卒業だ。もう、人ごみの中わざわざ来たくないだろう。

 

すると、彼女が言ってきた。

 

「パパ。来年も来ようね!」

 

いつまで、彼女に言われるだろうか。

娘に対し、

ただり笑い、うまく返事ができない自分がそこにいた。

「も~、そうなのよ。ウチの隆ったら九九を覚えるのクラスで一番最後だったらしいわよ。近い将来私立にいけるか不安で不安で。最近じゃ、『俺、頭悪いもん』って開き直るのよ。」

 

他人事のせいか、電話越しから聞こえる友人の声は意外と軽やかだった。

 

「正美、それだったらさ、駅前にできた塾はどうかしら?」

 

塾。その言葉に正美は少し戸惑った。

 

「ダメよ。ウチの子、勉強させようと一年生の頃から塾や通信教育受けさせたのに2ヶ月でやめちゃうんだもの。

全く誰に似たのかしらね~。私はもっとできたのに。」

 

以前。隆を塾へ入れたことがあるのだ。でも折り合いが合わず隆は塾をやめた。

 

「大丈夫よ。ほら、あの正樹くん。」

 

「え?近所でもダメだって有名だったあの子?」

 

「そうよ。その正樹くんがね最近そこ通い始めたんだって。でね、先週スーパーで正樹くんのお母さんに会ったんだけど、成績が学年10位にまで上り詰めちゃったらしくってね、ホクホク顔で自慢されたわ。入塾するのに試験もしなくていいらしいし、私の息子も通わせようかなって思っているんだけど、正美もどう?」

 

とてつもないおいしい話。

飛びつきたいのは山々ではあるけれど・・・

 

「でも、高いんでしょ?そんなに優秀なところだったら。」

 

「それがびっくりよ。他の塾と5000円しか変わらないの!しかも、学力は一年保証付きですって。」

 

「えぇ!?保障付き?」

 

「そうよ。しかも成績が上がらなかったら、月謝を丸々返してくれるとか言ってるのよ。これは行くっきゃないわ。」

 

電話を下ろした正美は隆を呼んだ。

 

「隆!隆!」

「お母さん、近所に聞こえて恥ずかしいから大声で叫ばないでって言ったじゃない!」

「そんなことよりも、塾よ。塾。駅前にできた塾へ行くわよ。」

「行きたくないよ!つまんないもん。」

「何言ってるの!子どもの仕事は勉強よ。」

 

半ば強引に息子を連れ出す正美。

 

「イヤだって!」

「うるさいわね。そんなに言うんだったら部屋にあるおもちゃやゲームお父さんに言って捨ててもらうからね。」

 

隆は母親の一言で黙ってしまった。

 

 

「こんにちは、川崎さん。」

 

塾の先生は眼鏡をかけている細身の男性でかなり落ち着いている。

 

「では説明をさせてもらいますね。ご存知かと思いますが、塾と言うものは・・・。」

 

細身の男性の説明が続く。

30点アップはどこもかしこも当たり前で問題はそれ以降続くかが決定になるのだという。

ここの塾では、成績が伸び続けることを1年間約束してくれるのだと言う。

正美はこの先生の人柄や塾のシステムに感激し、入塾させる事を決めた。

旦那に電話して確認するとお前がいいって言うならなんて言っていたから正美が決めて良いようだ。

 

「成績を上げるためにはこちらの意向にはしたがってもらいますよ?ご家族の方にも協力を願う事もあるかもしれません。」

 

「あの、で、いつから通わせてもらえるのでしょうか?」

 

「契約は最低限一年切れませんがよろしいでしょうか?」

 

「子どもの成績が上がるんでしたら!」

 

「入塾する前に簡単なテストを受けてもらいたいんですが?」

 

「やっぱりですか。隆がんばるのよ!」

 

「あ、いえ、お母さんの方です。」

 

そう言われ、正美の顔はこわばった。

現役を退き早ウン年。流石に自身はない。

 

「大丈夫ですよ。テストって言っても、ただ、家庭生活に関してのアンケートに答えてもらうだけですから。こうしないと、勉強方法の改善とかもうまく行かないんですよ。では、あちらへ。」

 

そう言われ正美はテストを受けることとなった。

 

「制限時間は1時間です。なるべくこまめに答えてくださいね。」

 

質問は多々あるが

ほとんどが3択で構成されていて、当てはまる、当てはまらない。どちらでもないだ。

 

「何々・・・『自分は言い母親である?』まぁ、普通よりか少しはいいでしょうね。」

「『子どもの望みはできるだけ叶えている?』そうね。塾に通わせているんだもの将来の望みのため力を注いでいるわ」

「『子どもの話は聞いている』そうね。私は友達関係まで知っているから当てはまるわね」

「『旦那が子育てに無協力?』あぁ、これはYESね!あの人ったら不憫そうな目をするだけで私に何も言わないんだもの。全く、誰の子だと思っているのかしら。」

 

永遠質問に答えアンケートは終了した。

 

「お疲れ様でした。では、後日。」

 

数ヵ月後・・・

隆の成績はうなぎのぼりとなった。

だけど、最近隆の様子がおかしい。

 

「どうしたの?隆。せっかく成績が上がったのに。」

 

隆が喜ぶ母親にこう投げ捨てた。

 

「うるさいな!母親偏差値24(標準以下)のクセに!」 

 

「・・・母親偏差値って何のこと?」

 

「塾が教えてくれたもんね!ボクのお母さんは母親としての成績が低いって」

 

隆はそう言い部屋に閉じこもってしまった。

隆はいつまで経っても出てこようとはしなかった。

 

くだらない事を吹き込んだ塾に対し正美は文句をつけることにした。

 

「どうなっているんですか?私が偏差値24ってなんですか?」

「最初のアンケートは母親検定ですよ。どのくらい良い母親なのかなってだけでして・・・」

「そんなことどうでもいいわ。私は隆の母親よ。私以上の母親なんていないんだから。ウチの子に変な事を吹き込まないで頂戴!」

 

正美の怒りは頂点を極めているが

電話の向こうの男は冷静さを保っていた。

  

「しかしあなたも、自分の子を点数で判定していたではありませんか?」

 

「それは、隆のためよ!」

 

「同じ事ですよ。お子さんも他人の母親と比べただけです。」

 

「そんな、母親を見比べるだなんておかしいわ。」

 

「そうでしょうか?お子さんの意に反して塾へと面倒事を丸投げする母親を彼はどう思っていたのでしょうかねぇ?」

 

「それは、でも、隆の将来のためよ。」

 

「将来のため。将来のため。ですか?彼の話を聞いたことはありますか?」

 

「うるさいわね!何で他人のあなたにそんなことを言われないといけないのよ!」

 

「ふふふ。流石、偏差値24でいらっしゃる。見事に物分りが悪いのですね?これからは、お母さんが母親偏差値を上げるために今日から塾へ入ってもらいますよ。今迎えをさし迎えました。」

 

ピンポーン。

インターホンが鳴った。

 

「あなた、何を言っているの?」

 

「お子さんが、こんな偏差値の低い母親は恥ずかしいから塾に入れたいと希望されています。」

 

「私に強制させる気?」

 

「あなたも同じことをしましたよね?嫌がる息子を塾へ。」

 

「それとこれとは話が違うわ!」

 

「あ、いえ、お代は結構ですよ。お子さんの出世払いだそうですからね。」

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視線

 

荷物を貰った後、ニコスは

大きな門の前でマールを待っていた。

門には大きな猫の像が2つあり、衛兵が巡回している。

像の足元には木の粗末な看板がありこう書かれていた。

『食の街アルバータ随時兵士募集!来たれ若者よ』

 

「マール、楽しんでるかな~」

 

像の前でしゃがみこみマールを待つニコスは暇をもてあましていた。

手には薄い本を持っているが見たり見なかったり。

天気もいいためかあくびも出る。出る。

すると横から巡回している大きな槍を持った鎧の衛兵が声をかけてきた。

 

「キミ、城に入城するのかしないのかどっちなんだい?あまり城の前で武器もってウロウロされると困るんだけどね。その腰につけている剣を見たところ、今日の衛兵希望なんだろ?早く行ってくれないか。」

 

「すいません。田舎者の友達待っているので・・・。」

 

衛兵と話している途中

街の方からこっちへ向かっている人影が見えた。マールだ。

 

「マール!こっち、こっち。」

 

マールは山の様に炭のような味のする『黒焼きタマゴ』をもって

ニコスの前に現れた。その目は気のせいか潤んでいる。

 

「ニコスぅ。」

 

階段の下からニコスを見上げるマールはひどく幼く見えた。

マールの方からは焦げた香ばしい臭いがしてくる。

 

「マール、その荷物は何?無駄遣いするなって言ったじゃない?しかも黒焼きタマゴばかり!」

 

マールは申し訳なさそうにニコスの顔を見つめ、つぶやいた。

 

「・・・おいしかったんだよ。」

 

口はすごく曲がっている。

 

「はぁ・・・。まぁ、いいよ。で?その抱えているでっかいタマゴは?」

 

「・・・サービスだってさ。」

 

「そ?でも、その黒焼きタマゴは今日中には食べられそうもないからそこにいる衛兵さんたちにあげようよ。献上品何も用意していなかったからちょうど良かったよ。」

 

「献上品?」

 

「入場料みたいなもんだよ。タマゴは・・・ダメだな。それは持っててくれな。」

 

「お金じゃないんだ?」

 

「うん。入城に採れた作物や料理を送るのがこの地方の風習なんだ。」

 

「へ~?リリー、記録した?」

 

マールの頭の上に漂う蝶はピンク色に輝き上下している。

うなずくようにマールの周囲を上下に飛びまわる明るいピンク色に輝いた。

 

マールはニコスが腰に剣を携えている事に気がついた。

ニコスの腰を指差し言う。

 

「ドクからの贈り物って、腰につけている剣?」

 

「そうさ、さっきマスターのなじみの楽器屋で貰ってきたんだ。」

 

「・・・?剣は楽器屋で売ってるものなの?」

 

「この剣は特別なんだよ。」

 

ニコスはマールに剣の柄を見せた。

柄は猫の横顔をイメージしてデザインされていて細身だ。

刀身がきっちりはまっていないのかカチンカチンと音を立てている。

 

「はい、マール。これ、後でリリーに与えておいて。」

 

ニコスは手に持っていた薄い本をマールの前に差し出した。

 

「これは?」

 

「この街周辺のガイドブックさ。ついでに買っておいたんだよ。リリーが食べればいつでも地図の機能も果たすし、お得情報もわかるしね!じゃ入城するから黒焼きタマゴ頂戴。」

 

ニコスはマールから黒焼きタマゴを受け取ると、さっきの衛兵のほうへもって行った。

 

「2人入ります。」

 

「献上品は?この黒焼きタマゴかい?ずいぶんと、量があるな。」

 

「えぇ、皆さんに食べてもらおうと思って彼が奮発してくれたみたいです。」

 

「そいつは助かる。衛兵達はいつも腹をすかせていてな。

とくに黒焼きタマゴには目がないのだよ。試験を受けるのは2人かね?」

 

「いえ、彼は声援です。」

 

「そうかい、わかったよじゃあまず、王の間へ。」

 

衛兵は門のところへ行くと大きな声を出し鎖を引いた。

 

「開門」

衛兵が声を上げると同時に、マールの期待は高まった。

目の前にある大きな扉が開くのが楽しみで仕方がない。

 

『パタン』

 

そんな小さな音を立て

大きな門の横に取り付けてある、小さな扉が開いた。

 

「・・・あれ?あっちの門は?」

 

ニコスは答える。

 

「アレは、王族専用だよ。毎回やってくる兵士志望者のためにあんな大きな門は開けられないさ。」

 

期待を裏切られ、マールは少し肩を落とした。

カシャンカシャンとすれた金属音を音をたて、鎧を着た衛兵が案内する。

 

「こちらへ。この道をまっすぐ行けば、王の間へと続きます。」

 

衛兵の案内した石畳の道の奥にはい立派な宮殿がある。

中央には噴水、噴水を囲うように石畳の道は伸びていて

全体を囲うように四方に池がある。

まるで、冷たい水の出るシャワー室にいるような感覚、

砂漠の真ん中にある城だってことを忘れてしまいそうだ。

 

「すごい水の量だね。街ではほとんど水気を感じなかったのに。」

 

「この国の王は代々、この水の管理をしてきているらしいな。」

「詳しいね。」

「さっきリリーに渡したガイドブックに載っていたよ。」

「・・・。」

 

宮殿を見上げると全体が黄色く、中央に太陽を背にした青い鳥の書かれている旗が目に留まった。

 

「この旗のシンボルって鳥?」

 

「リリー、マールに教えてあげれるかい?」

 

ニコスは、マールの頭の上で輝く蝶に向かって語った。

 

リリーは淡く輝くと

マールの頭の中に直接映像を流し込んだ。

光と共にマールの目の前にはリリーの描く世界が広がる。

 

『アルバータの水はその源流は

砂漠の神と呼ばれる水鳥、レインバードの巣から流れる水である。』

 

太陽を背にしたレインバードの映像はなくシルエットとなっている。

 

『砂漠の民はこの水をレインバードからの恵みと称し、レインバードを神のようにあがめているのだ。』

 

映像は終わった。

 

急に元の世界へと視界が戻り、太陽のまぶしさを感じた。

 

「・・・ありがと、リリー。でも、これは歩きながら見るもんじゃないね。」

 

いつの間にか、足は止まっていたらしい。

ニコスに置いてかれていた。

ニコスはマールの方を振り返ると

 

「マールは、リリーの使い方も勉強しないとな。」

 

と、笑って先に歩いて行ってしまった。

 

城の中は実にシンプルだ。

天井は高く、まるで薄いカーテンでもしいてあるかのように光が差し込む。

王の間へ続く回廊が続きただ一直線に伸びていて、

回廊の中央には赤いじゅうたんがしいてあり、そのじゅうたんの脇にはさまざまな像が置いてあった。

猫や人をかたどったものさまざまだ。どれも、これもすばらしい出来。

 

「城の中なのに、人はあんまりいないんだね。それにしてもすごい石像。」

 

マールはそう言い、手に持っていた大きなタマゴを床に置くと、感心したのか石像の顔や足、胸にいたるまでぺたぺたと触っている。

 

「おい、マール。あんまり彼らに触れるなよ。」


ニコスはマールを指差し、低めの声でマールに注意する。

 

「彼ら?」

 

石像を彼と呼ぶなんて、ニコスは何を言っているのだろう?

そう思っていると石像が笑い出した。

 

「はっはっは。やめてくれよ。お客人。」

 

マールはギョッとした。石像が豪快に笑うのだ。

 

「キミら、兵士志願者だろ?王の間ならこの先さ。迷わず進みなさい。」

 

マールはコクッと頷くと、じっとニコスの方を見て何かを訴えている。

 

「あのな、マール。彼らは俺と同じで、いろんなものに変身できる兵士さんだよ。」

 

「ニコスは、そんなこと何でわかるのさ?」

 

「だって俺、同属だもん。忘れたか?」

  

この一言に、マールはものすごく納得してしまった。

そう言えばそうだ。ニコスは人の姿をして入るが

元々、人間の姿等に変身できる猫なのだ。


「さっきの噴水の広場にも所々にもいたぞ?」


なんてニコスは言うけれど、

噴水の広場にもこんなのがいたなんて気がつかなかった。

マールにとって見れば、誰もいなかったはずだから。

 

回廊の先には階段があって2階へ行くと大きな扉が待ち構えていた。

それが王の間の扉だ。

扉の脇にはひとりずつ衛兵が立っている。

 

階段を上りきるとニコスは2本の尾を持つ黒猫の姿となった。

1本の尾ははっきりとしているのにもう1本はうっすらと透けている。

腰に抱えていた細長い剣も、なぜかニコスの体の大きさと共にサイズが縮む。

 

「あれ?ニコス、何で猫の姿になるのさ?」

 

「ミャー。」

 

黒猫はにっこり笑う。

猫の状態では会話ができないのだろうか?

少し咳き込むと、ニコスはその姿のまましゃべった。

 

「王の前で、仮の姿とは失礼だからな。」

 

そのままニコスは、衛兵に志願者である事を継げると

衛兵は扉を開けた。

 

門が開く。王の間から輝かしいばかりの光が差し込む。

王の間は、回廊よりもさらに明るい造りとなっていた。

明るい天井にはクリスタルのシャンデリアが取り付けてあり、見る者の目を奪っていく。

 

真っ白な天井には時々何十もの星たちが浮かび上がり

その一つ一つが形作る獣達の文様は大きな光を放ちクリスタルの輝きへと反映される。 

真昼のプラネタリウムを思わせる王の間の天井。

 

その一番奥の部屋に王座があり

そこにはひとりの男が座っていた。

 

「!!」

 

その座っている人と目を合わせた瞬間。

マールの体は硬直した。

まだ、部屋にも一歩も入っていないのに目の前に怪物がいるかのようで動けない。

額に汗が浮かび上がる。肌でびりびり感じる恐怖。王の風格ってヤツだろうか?

広い部屋なのに、狭く位トンネルを歩くような感覚が二人を襲う。

 

「・・・進みたくないよ。ニコス。」

 

マールは手にしていたタマゴをギュっと抱きしめ、ニコスを見た。

 

「大丈夫だよ。取って食われたりはしないさ。さぁ、行こう。マール。」

 

ニコスがそう言い、

マールは、ニコスの後を追い一歩一歩進んで行った。

 

王の間は大きな柱が4本あって

王の他に見当たる人物も何もない。

 

誰かに見張られているわけでもないのに

視線を強く感じる。

 

一歩、一歩と進むたびに足が重くのしかかり、

まるで台風の逆風に剃って歩いているみたいで

さっさと逃げ出してしまいたい。

 

ニコスはマールの肩に乗り。

ヒソヒソ、小声でマールに言う。

 

「とりあえず、頭を下げろ。」

 

マールはニコスに言われるがまま、ひざをついた。

ニコスはマールの肩から下りると王に向かい挨拶をはじめた。

 

「お初にお目にかかります王。私は、眠りの賢者の弟子ニコスでございます。こっちは、マスターより魔法の絵本を預かった友、マールです。」

 

マールはちらりと王の方を向いた。

顔をあげることはできないが、赤いマントで包まれているのだけはわかる。

ぱっと見ただけでも、良い布を使っている衣を羽織っているのがよくわかる。

 

「よいよい。顔をあげよ。ニコス、そしてマールよ。」

 

顔をあげたマール王の顔をマジマジと見つめた。

王冠は最初は金だったのろうけど長い年月のせいか色落ちし、所々に銀が輝く。

耳は少しとがってはいるがヒゲにしても、紙の白髪具合からしても気のよさそうな年長者だ。

あの視線は誰のものだ?多分、この人のものではない。

 

「そなたが13賢者の一人、眠りの賢者の弟子か。師匠より話は聞いておるぞ。世界を救う旅の御供をするそうだな。」

 

「はい。そのためには旅の資金が必要なのです。」

 

ニコスは静かに答えた。

世界を救う?どう言うことだろう?しかも御供って・・・。

ニコスは何か知っている見たいだけど、

ドクには本を完成させてくれとしか言われていないし。

そう考えると、マールの頭の中は魔法の絵本のことでいっぱいになった。

 

「関心じゃな。我が国の騎士は働きながら旅をするにはもってこいだからのう。じゃがな、いくら13賢者の弟子と言っても試験は受けてもらうぞ?よいな?」

 

「もちろんです。」

 

なにやら、王とニコスは話してはいるがマールの耳には入らなかった。

絵本の事もあるし、その上あの鋭い視線はまだ、続いている。

絶対に王のものではない。

 

「あの、ひとつ質問よろしいでしょうか?」

 

おもむろにマールは口を開いた。

 

「マール君と言ったね。なんじゃ?言ってごらん。」

 

「・・・この視線は誰のものですか?」

 

それを聞いたニコスは少し焦った。

 

「マール、言うなよ。後ろに誰かいるんだよ。」

 

王は、きょとんとした顔をしてしばらく2人を見つめた後、答えた。

 

「はっはっは。2人とも気がついておったのか?なかなか感性が鋭いようだのう。セバスよ、出ておいで。」

 

王がそう言うと後ろから、1匹の尾のない黒猫が現れた。

空気が変わる。静電気が体を走っているようでビリビリビリビリする。

この視線。この視線だ。

 
 

強くたくましく、落ち着いているが

それでいてけたたましい轟音が体全体を通過していく感じ。

王よりも威圧を与える空気。

それを一匹の年老いた猫から感じる。

 

黒猫は

「ニャーン」

と一声上げると人の姿へと変化した。

年齢を重ねた執事姿。髪は白髪で目は線目。

鼻の下に伸びる口ひげは品格を表しているようでしているようで白くまっすぐに横に伸びている。

その姿はどことなくニコスに似ていた。

 

「紹介しよう。セバスチャン・クロガネル。我が国で最も強く、今じゃ兵の教育係を勤める元騎士団長じゃ。この試験の審査官でもあるんじゃよ。第一次審査は合格じゃ。文句はなかろう?セバスよ。」

 

セバスと呼ばれた老人はただ単に頷いた。

 

「え?」

 

マールとニコスは顔を見合わせ不思議そうな顔をしている。

 

「一次審査は、王の間へと来る事。セバスの視線に耐えられるかどうかが、最大の決め手なんだが大半の者はこの視線に耐え切れずに逃げ出すのだよ。」

 

ただの部屋で台風に直撃されたような視線は確かに逃げ出したくなる。

ニコスとマールはそれに打ち勝ったのだ。

 

「良かったなニコス!」

試験の一次合格を聞き、マールはニコスを祝福した。

ニコスの顔は複雑そうだったがマールは何だか自分も合格したみたいで顔がほころんでいる。

 

「ではニコスよ。二次試験会場へと行くがいい。マール、お主は後で我が部屋へと来てくれぬか?魔法の絵本に関して教えておきたい事があるのでな。」

 

2人は王の命を受け王の間を後にした。

 

 

次の話に続く