東宝『王様と私』日生劇場 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

てるみん ~エンターテインメントな日々~

• ミュージアム& アトラクション
• アート& カルチャー
• 音楽
• 映画
……などについて書いてます

 

 タイには不敬罪が存在するため、上演が禁止されている『王様と私』。ブロードウェイやウェストエンドでは今も再演されたりしていますし(貴重な東洋人俳優枠)、日本でも何度も上演されている定番作品ですが、これがエリザベス女王や天皇に対し、異国人の家庭教師が上から目線でガミガミ言われたら、そりゃ問題になるよねぇ。アジアの国なのに『蝶々夫人』も『ミス・サイゴン』も『王様と私』も人気作な日本って不思議だ~。


 演出や歌詞は一新されていました(再演が重ねられている作品は「ラマンチャの男」のように訳詞が古臭いものはそのままだったりするものもありますが、慣れ親しまれている歌詞の作品の歌詞を一新したりは必要だと思う反面、いろいろ思うところあり)が、今回はちょっと「北朝鮮の物語?」という印象も持ってしまいました。舞台装置も衣装もちゃんとシャム(タイ)なのになんででしょうね。

 

 越路吹雪、那智わたる、草笛光子、安奈淳、鳳蘭、一路真輝、紫吹淳(一般社団法人映画演劇文化協会の公演/貴城けいの代役)と、草笛光子除き歴代宝塚トップスターが演じてきた『王様と私』、かつて一路真輝にインタビューした際に「アンナ役は男役のキーからさほど高くないので歌いやすい」とのことでしたが、このたび8代目アンナに明日海りおが登場。宝塚退団後、いきなりハイソプラノの役に挑戦して爆沈しましたが、むしろ「最初にこの作品からやっもくべきたったでしょ」と思った次第。とはいえ、退団して4年半たつにもかかわらず、未だに宝塚歌唱&お芝居から抜けられずもがいている印象の強い舞台でした。とにかく高音になるとミュートかかるし、低音は高音とのバランスの悪い声量だし、クラシカルなリチャード・ロジャースのメロディを歌いこむには至らず。決めのメロディが張れないので盛り上がらず。今後もいくつかミュージカル出演が控えていますが、ミュージカル女優として新たなファン獲得は厳しいかと思います……。とはいえ、舞台に登場した時の華やかさはさすが元トップスター。

 

 興味深いことに、明日海りおに恥をかかせないためか、事務所の力なのか、今回のプロダクションは(も!)かなり歌えない共演者を揃えています。タプティムの朝月希和は冒頭から「かなり苦しい」と思ってたら、クライマックスでは1オクターブ下げるし、高音が続く箇所は新しいメロディで歌っちゃうし、デュエットは声量がなさ過ぎて一人マイクが大きくされちゃうし、もう手が付けられませぬ。彼女は元娘役トップではあるものの、姫役者ではなかったせいか、幸薄いタイプの女性が似合うので、キャラクターは合ってた!

 

 そして、チャン王妃の木村花代 ですが、元来メゾの太い声で歌い上げるナンバーを、ソプラノの軽い声で歌うので、響きのスイートポイントがずれてて、アンナの意識を変える大ナンバー(ロジャース作品お馴染みの美味しいベテラン女優枠)が盛り上がらないので、ショーストップにはならないし、アンナの意識改革にもつながらず。この役、オペラチックに歌い上げるためか、二期会から歌手が駆り出されることもあるほどなのに、ミスキャストも甚だしい。感動の場面で出かけた涙も引っ込みます。明日海りおに貫録負け。

 

 松本幸四郎(現・白鸚)、松平健、髙嶋政宏から4代目王様を引き継いだ北村一輝はスキンヘッドでもなく、裸にもならないし、今までにない王様像。死に際の演技は歴代の王様での際立つ仕上がりに拍手。幕切れで客席を泣かせまくったのはアナタです!!! いつも思うんですが、王様ってダンスが踊れない役ですよね。今回は3週間という短めの公演期間ですが(地方公演もありましたっけ?)、公演中に上手になってしまわないかなぁ、と勝手にニヤニヤしてしまいます。

 

 その他も男優陣はおおむね好調。ルンタが良い声!と思ったら、芸大出身の竹内將人でした。石丸 幹二、 田代万里生に続く、二枚目系に化けますように!(上原理生や安崎求はちょっと路線が違う)。歌はないけれど、ラムゼイ卿:中河内雅貴 、オルトン船長:今 拓哉 、クララホム首相:小西遼生の中年トリオはそれこそミュージカルでメインキャストを務めてきた方たちなので、脇役であっても「おっ?」とオペラグラスを上げさせるきらめきがありました。

 

 客席になっちゃうけど、超名演だったかのように一斉にカンカン拍手を送り、スタンディングオベーションをする某ファンクラブが必見。何でも良いのか、酷くて良いのかこの人たち? エリザべートといい、アンナ夫人といい、元ジェンヌの専売特許みたいになっていて(あ、草笛さんはSKD出身ね)、確かにドレスさばきや姫役者らしき所作は長けているけれど、そろそろ宝塚シバリじゃなくてもええやん! 最近は宝塚退団後、宝塚色を消して、一からヴォイストレーニングや演技改革に取り組む人もいる中、頑なに宝塚調の舞台(そしてそんな共演者)に、王様じゃないけれど「かなり頑固な女だ!」と思ったのでした。

 

【キャスト】
王様:北村一輝
アンナ:明日海りお
タプティム:朝月希和 
ルンタ:竹内將人 
チャン王妃:木村花代 
ラムゼイ卿:中河内雅貴 
オルトン船長:今 拓哉 
クララホム首相:小西遼生

井口大地 伊藤かの子 風間無限 笠行眞綺 金子桃子 河野駿介 黒田 陸 酒井 航 島田 彩 鈴木遼太 聖司朗 西尾真由子 福満美帆 松田未莉亜 丸山泰右 宮河愛一郎 村上貴亮 村上すず子 矢野友実 吉田玲菜 植木達也

【スタッフ】
音楽:リチャード・ロジャース
脚本・歌詞:オスカー・ハマースタインⅡ
翻訳・訳詞・演出:小林 香
振付:エミリー・モルトビー
音楽監督・歌唱指導:山口琇也 

美術:松井るみ 

照明:髙見和義
音響:山本浩一 

衣裳:有村 淳(宝塚歌劇団) 

ヘアメイク:馮 啓孝
オーケストラ:東宝ミュージック/新音楽協会
演出助手:斎藤 歩/時枝正俊 

舞台監督:本田和男
制作:田中景子/橋本 薫
プロデューサー:小嶋麻倫子/塚田淳一
製作:東宝