新国立劇場『エウゲニ・オネーギン』オペラパレス | てるみん ~エンターテインメントな日々~

てるみん ~エンターテインメントな日々~

• ミュージアム& アトラクション
• アート& カルチャー
• 音楽
• 映画
……などについて書いてます

 

 オペラというと名アリアが売りだと思うんですが『エウゲニ・オネーギン』で最もポピュラーなのは「ポロネーズ」ではないでしょうか? バレエ音楽の巨匠、チャイコフスキーだけあって、「ポロネーズ」が流れるやいなや、合唱団といえど踊り狂います♪⁠ ⁠\⁠(⁠^⁠ω⁠^⁠\⁠ ⁠) チャイコ恐るべし!! 今回は新国合唱団が大活躍で、ストップモーションでは微動だにもせず、パーティ場面では全員で「家政婦は見た」のようなお芝居をするし、「ポロネーズ」ではフォーメーションを組んで一曲丸々歌わずに踊り切っちゃうし、大健闘賞! 新国は公演数が多いので、合唱団員といえども、小芝居を起用にこなしていたり、身振り手振りがサマになっているのが素晴らしいんです。ついオペラグラスで舞台奥まで眺めてしまいます。

 

 さて『エウゲニ・オネーギン』というオペラですが、何度観ても、タイトルロールが魅力的に思えないんですね。+30歳位に見える歌手ですが前半は18歳、後半は26歳という設定です。その割に台詞がジジ臭いんですよ。18歳の時点でおじさんぶってタチヤーナに恋愛についてお説教するし、26歳にして既に人生に退屈して隠居爺さんみたいなことを言い始めるし。ドン・ジョヴァンニのように「悪が魅力」までは昇華しているならともかく、自責の状況も人のせいにするニヒルを何かと取り違えた、厨二病を引きずってる勘違い野郎です。タチヤーナには塩対応(おまけにタチヤ―ナが泣き去ったら客席に向かってニヤリって何様?)、数少ない友人のレンスキーには「冗談がすぎた」と何度も言いながら嫌がらせを繰り返すし(冗談って楽しいハズなのに、どこが楽しいのか意味不明。イジメっ子によくあるタイプ)、人妻になったタチヤーナには「家族も身分も捨てて僕のところにくるんだ」とか「僕は生涯君を守ってげる」とか、ロミオメールの連発。性格悪すぎ、ダメンズまっしぐら。と、イライラしてしまう原因は、私自身が過去の反省が多いからかも。愛は素直に伝えるべき! 友人・知人はリスペクトすべき!

 

 も一人性格が悪いのがタチヤーナの妹のオリガ。フィアンセの前でオネーギンとイチャイチャしたらそりゃ愛想をつかされますわ。挙句のはてにそんなフィアンセを馬鹿にしまくるんだから何考えてるんだか、この女。それも家族の前でですよ。家族だって誰も彼女を止めようとしないし、いっそのことバカ男(オネーギン)とバカ女(オリガ)でくっついたれ!と思ったほどお似合いのゲスっぷり。レンスキーに何を言われても「はぁ、アンタ何言ってるの?」とけんもほろろだったのに、「永遠にさようなら」と言われてようやくばあやに泣きつくわがまま放題。

 

 そんなわけで儲け役だったのがオネーギンの友人にしてオリガのフィアンセのレンスキー。非リア充のオネーギンをみんなの前に連れ出してくれるし、性格に難ありまくりのオネーギンの友人として居続けてくれたし、オリガには常にジェントルだったのに、オネーギンにもオリガにも同時に裏切られてた果てに、オネーギンに殺害されるという踏んだり蹴ったり、理不尽な御臨終。オネーギンがなんども「何たる人生」って感じで自分を嘆くたびに「どの口がいってるのさ? それはレンスキーの台詞でしょうが!」と思ってしまいました。いっそのことレンスキーが『ドン・ジョヴァンニ』の騎士長みたいに化けて出てくれたら良いのにと思ったほど。役作りなのか、チャイコの指定なのか、今日のレンスキーは演歌調で、鼻にかかった発声、今にもひっくり返りそうな歌い上げ。良い役だけどお歌はちょっと苦手。

 

 素晴らしかったのがタチヤーナ。歌う女優です。終幕でオネーギンが26歳ということは、タチヤーナも20代前半かと思うのですが「あのころ(オネーギンと出逢った8年前)私は美しかった」って、「ああ、ティーンエイジャーから急激に老け込むロシア人」と思ったのでした。「手紙の場」は名場面と言われる割にメロディが印象に残らないのですが、少女らしい初恋の胸の高鳴りがしかと伝わってきて、ショーストップになりそうな喝さいを浴びていましたし、人妻となった8年後はグレーミン侯爵への愛情と信頼がちゃんと伝わってきて、オネーギンの登場に動揺し、心が揺らめくものの、きっぱり過去と絶縁して、少女から大人の女性として生きていこうとする変化っぷりが鮮やかでした。

 

 で、タチヤーナに操をささげられるグレーミン侯爵ですが、「年の差カップルだけど愛情に年齢差は関係ない」とストレートに情熱をタチヤーナにも周囲(オネーギン含む)にも包み隠さないことに好感度◎。最後にちょこっとだけ登場するチョイ役だけど、役どころも、歌の確かさも、そして舞台上での貫録でも、大人の魅力を振りまいてくれたのでした。本日のベストキャスト!

 

 2019年に新国初演のプロダクションですが、シンプルながら豪華な大道具、絵画を立体化させたような演出、秋~冬にかけての美しい季節の描写、キャスティングされた歌手任せではなく周囲の人物を介してキャラクターを浮かび上がらせる手腕など、ドミトリー・ベルトマン、イゴール・ネジニー、タチアーナ・トゥルビエワのトリオが素晴らしい仕事ぶりで魅せてくれました。美しい舞台です!!

 

【スタッフ】
指揮:ヴァレンティン・ウリューピン
演出:ドミトリー・ベルトマン
美術:イゴール・ネジニー
衣裳:タチアーナ・トゥルビエワ
照明:デニス・エニュコフ
振付:エドワルド・スミルノフ
舞台監督:髙橋尚史

【キャスト】
タチヤーナ:エカテリーナ・シウリーナ
オネーギン:ユーリ・ユルチュク
レンスキー:ヴィクトル・アンティペンコ
オリガ:アンナ・ゴリャチョーワ
グレーミン公爵:アレクサンドル・ツィムバリュク
ラーリナ:郷家暁子
フィリッピエヴナ:橋爪ゆか
ザレツキー:ヴィタリ・ユシュマノフ
トリケ:升島唯博
隊長:成田眞

合唱指揮:冨平恭平
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団