宝塚歌劇団雪組『蒼穹の昴』東京宝塚劇場 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 原作モノではあるけれど、適材適所なキャスティング、豪華絢爛に見せる舞台転換や衣装や装置、専科のベテランから雪組の若手まで過不足なく見せ場を作った台本などなど、ケレン味タップリな素晴らしいプロダクションです。主に専科生たちが担う大人の芝居と、雪組の若手が演じる若者たちの芝居ががっつり絡み合って、奥行きのある、非情に見ごたえのある公演でした。この手のスケールの大きくて濃い大作というと、星組のイメージが強いのですが、今の宝塚でこの手の作品を上演できるのって雪組だけかもしれません。骨太だけど、重くなりすぎないバランスが最高! この手の作品ってダイジェスト感が強いことが多いのにそんなこともなく、それでいて、暗転ではなく「舞台転換を見せる」ことでレビュー味を出すこと、平面的な演出が多い宝塚で立体的な人員配置を行ったことなど、年末にふさわしい仕上がり!

 

 

 トップの彩風咲奈が本公演3作目にして早くも代表作を手にしました。何年も主演しているのに代表作に巡り合えないスターだって珍しくないのに、これはものすごい幸運。表情が硬めの人なので、コメディタッチやボケたものよりも、今回のような硬派な作品が似合います。ダンサーの方ってついつい芝居でも細かな動きをしてしまいがちですが、堂々と構えたたたずまいでいながら、長体の軸がぶれないので、衣装の裾さばきがとても美しく、それが役の大きさにつながって素晴らしい仕上がりでした。意外といぶし銀な「静」の芝居がお似合いです。音楽も中島みゆき調で、最近流行りのリズムセクションで賑やかに盛り上げるものではないし、ダンスだって中華風でロックビートがつんざくものではないので、いずれも様式で聴かせ、魅せなければならないところ、そのスケールに負けずに真ん中にいられたのは凄いこと!

 

 一方、二番手の朝美絢は登場の衣装はボロだし、宦官になるためペニスカットしたことをやたらと言われる「女の子としてどうよ?」な役なんですが、そういえば、彩風咲奈だってスミレコードで言葉こそ変えられているけれど、性器関連の台詞を連呼させられていて、これまた「どうよ?」なんですよねえ。そんなスケベなイメージはないんですけど。で、朝美絢が彩風咲奈とは対照的で、華やかでキラキラした芸風ゆえ、舞台で存分に暴れても、トップの得意分野を邪魔しないし、むしろ、お互いの得意分野を光らせ合うことができるという人事の妙。彼女は「動」担当で、舞台を走り回るのが似合いますね。宝塚って公演ごとに、いろんなジャンルのダンスをそれらしくみせなければならないし、どうしても女の子が演じるハンデがあるのですが、実に立派な演舞でした。京劇の見せ場もきっちり締めて、大拍手でした。年度賞狙えるのでは?

 そして、和希そらは、芝居でこそ見せ場が少ないものの、フィナーレ冒頭の「主題歌を歌いながらの銀橋わたり」を三番手ながらに担う抜擢と、派手な衣装で振り向きざまに微笑んだだけでショースターの君臨を強烈に印象付ける怪物ぶり。ふと「ベルばらイヤーだけど、2023年にベルばらがもっとも似合うのは雪組だよな」と思ったのでした。もっとも、今回の公演が1本ものなので、雪組にベルばらが回ってくるかはわかりませんが。

 

 さらに、下級生ながらやたらと大物感漂う縣千が光緒帝として、上級生たちを相手に一歩も引かない押し出しを見せたことにビックリ。ポスターinも納得の、まさにピッタリのキャスティング。彼女をめぐって専科のお姉さまたち(おじさんたち?)が権力争いをするのが何とも痛快。

 当初「専科が6人!?」と若手ファンが腰を抜かしたこの公演ですが、ふたを開けてみれば専科生でないと手に負えない大役ばかり。トップを筆頭にした雪組生たちが束になって力を発揮するためにも、専科生の大量投入が必要だと納得。西太后vs栄禄の丁々発止とした芝居の応酬は、もはやこの公演の芝居の見せ場でタップリ見せてくれたし、科挙の首席の梁文秀(宝塚93期首席の彩風咲奈と被る)に対し、李鴻章に凪七瑠海(宝塚89期の首席)を配したことで、中国の伝統が野しかかかってくるのが台本以上に感じられるのも宝塚マジック。チョイ役だけど、圧巻の存在感が必要な伊藤博文に汝鳥 伶という切り札も登場(この人、吉田首相の時も思ったけれど、政治家のドンの扮装がホント似合いますよね~)。今回、一瞬だったり、短い出番の中で強烈な印象を残したり、時にトップと張り合ったり、まさに「専科」な芸の連続にしびれました。宝塚の舞台って「成長する過程を楽しむ」という人も多いけれど、やっぱり「上手い役者たちが舞台にいると引き締まるな」と。

 

 おしむらくはトップ娘役の朝月 希和のさよなら公演なのにチョイ役だったこと。トップになったものの、豪華な衣装やキレイな衣装とは無縁な娘役でした。。。幕切れの唐突なせり上がりや、フィナーレのデュエットダンスに取ってつけたような感覚を覚えました。お気の毒😢