梅芸『THE BODY GUARD』東京国際フォーラムホールC | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 ホイットニー・ヒューストンが主演した1992年の同名映画のミュージカル版です。舞台向けにアレンジしている部分もありますが基本的に映画版を踏襲しています。主役のレイチェルが歌手役ということで、映画版でもホイットニーが歌いまくっていましたが、あちらはミュージカルにあらず。でも、舞台版もひたすら歌いまくっているのはレイチェル。2020年版は残念ながら公演中止となってしまいましたが(トライアウト公演的地方公演は上演されています)、今回ようやく東京公演の幕があがりました。元々レイチェルは柚希礼音と新妻聖子のダブルキャストでしたが、さらにMay Jが加わってのトリプルキャスト。今回は柚希レイチェルと新妻レイチェルを拝見することができました。

 

 柚希レイチェルはキャラクター勝負。ムチムチした肉感的な体格はアメリカのポップスターにピッタリ。細かな部分よりも全体の大きなフォルムを重視した役作りが役にフィットしていました。ショー場面の華やかさはさすがです。歌手の役なので大して踊らないのが残念。一方、新妻レイチェルは1にも2にも歌唱力が売り。この人はどんな役でもどんな曲でもしっかり自分の曲として歌いこなしてしまうのがさすが。決して声量豊かなタイプじゃないと思うのですが、弱音を駆使することで、ダイナミックレンジの広さを存分に生かした歌唱はこの人ならでは。ミュージカル俳優がポップスを歌うと、音よりも歌詞重視になってしまって、訳詞の場合、曲の音やリズム感が崩れてしまうことが多々あるのですが、新妻聖子の場合、音だけ聴いても魅力が伝わってくるのが日本ミュージカル界の中でも屈指の実力。そして、ホイットニー(をはじめとするアメリカのミュージカルスターに多いんだけど)、歌い上げに特化して歌唱としては大味になることが多い中、繊細に歌い継ぐ情感溢れるナンバーに仕上がるのが特徴的。元々黒人歌手役、彼女たちの喉に合わせて作られた曲かと思うと違和感を感じなくもないけれど、日本版として歌うには理想的な歌唱。お二人、まったく違う仕上がりですがそれぞれ自分の強みを把握していて、それに特化した役作りなので、見ごたえのある複数キャスト。レイチェルよりもニッキーの方が似合いそうなMay Jの役作りも気になるところです。余談ですが、柚希礼音の同期生=AKANE LIV(宝塚85期生で、在団時の芸名は神月茜)が姉妹役で共演しているのも宝塚ファンには響きそう。さすが梅芸、このあたりはしっかり押さえています。

 

 フランクの大谷亮平はテレビだと気にならないけれど、舞台発声を長時間はあまり慣れてないみたいで、後半になるに従い聞きづらく。舞台の発声って独特ですものね。フランク役は歌が下手というキャラクターですが、2019年の来日公演の時のフランク:ブノワ・マレシャルは歌える人がわざとヘタッピに歌う(歌ウマが隠し切れない!)のに対して、大谷亮平は「ああ、この人は歌が苦手なんだな」というのがわかる歌唱。役にピッタリなので、『INTO THE WOODS』の時のようにイライラすることはありません。が、歌が上手じゃないのに爆笑する客席の一部の人にちょっとイラッ。そこ、笑うところ? 歌ウマであるべき役を歌が苦手な役者が演じることは反対ですが、歌が苦手な役を歌が苦手な役者が演じるという役にぴったりの配役に対し、その役者の歌が上手くないからと笑いものにするのはちょっと違うと思うんですよね。。。歌ウマを求められてない人に対して歌が上手くないのを笑いものにするって、ピアノの発表会で初心者が上手く弾けないのを笑いものにしているみたいでとっても感じ悪い。。。「守りたい愛がある」がこれほどまでに似合わないトリプル・ヒロインたちで(◎_◎;)、ヒロインたちが戦士として今にも戦いだしそうでしたが。大谷亮平が良くぞ支えきりました!


 アンサンブルの面々はなかなか揃っていて、聖子ダンサーズみたい。大歌手の後ろで元気に踊る若者たち感が出ていてリアリティがありました。来日公演のダンサーマッチョでもムチムチではないけれど、通常のミュージカルに多い華奢なダンサーたちでもなく、スポーツクラブのインストラクターたちみたいに爽やかな健康体。アメリカンなナンバーをスポーティに踊っていて観ていて気持ち良いですね。衣装もかなりセクシーなんだけど、着こなしが爽やかだとやらしくならないので安心。

 

 映画も観ているし、来日公演も観ているので、展開もオチも分かっているのですが、その上で鑑賞すると「ああ、この段階でこの人はこんな芝居をしているんだ」という細かい部分もより楽しめました。(私はネタバレ鑑賞を気にしないタイプなんです)。

 

 

【キャスト】
レイチェル・マロン:柚希礼音、新妻聖子
フランク・ファーマー:大谷亮平
ニッキー・マロン:AKANE LIV
ストーカー:入野自由
サイ・スペクター:猪塚健太
トニー・シベリ:大山真志
ビル・デヴァニー:内場勝則
フレッチャー:大河原爽介

青山航士
飯田一徳 小山銀次郎 宮垣祐也 加賀谷真聡 鹿糠友和 落合佑介
杉浦小百合 吉元美里衣 橋本由希子 HitoMin 杉原由梨乃 原田真絢 斎藤葉月

スウィング:新井健太 江崎里紗

【スタッフ】
原作:ローレンス・カスダン作  ワーナー・ブラザース映画「ボディガード」
脚本:アレクサンダー・ディネラリス
訳詞:森雪之丞
翻訳:阿部のぞみ
編曲:クリス・イーガン
演出・振付:ジョシュア・ベルガッセ
ミュージカルスーパーバイザー ヴォーカルアレンジメント:リチャード・ビードル
音楽監督:小澤時史
美術:二村周作
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
衣裳:十川ヒロコ
ヘアメイク:田中エミ
歌唱指導:満田恵子
アクション:西村陽一
演出補:伴・眞里子
振付補:飯作絵梨子
通訳:角田美知代
音楽監督助手:大隅一菜
美術助手:伊従珠乃
照明助手:小沢淳
衣裳助手:
演出助手:玉置千砂子
舞台監督:山貫理恵
ミュージシャンコーディネート:新音楽協会
ロンドン・ウェストエンド・オリジナル版プロデューサー:マイケル ハリソン エンタテイメント、デビッド イアン プロダクション
主催:梅田芸術劇場/アミューズ/フジテレビジョン/関西テレビ放送/
トリックスターエンターテインメント/読売新聞社
協力:TBSラジオ(東京公演)/ABCラジオ、FM802、FM COCOLO(大阪公演)
企画・制作:梅田芸術劇場

 

 

↓中止となった2020年4月公演↓