【観劇日記】梅芸『ポーの一族』@東京国際フォーラムホールC | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 ここ1年間、中止や中断続き、片手では収まらない本数の舞台が「予定通りうまくいかない」状態の小池作品。今度こそは完走できますように。番狂わせは面白くないです>トート閣下

 

 宝塚でブロードウェイ・ミュージカルを上演すると「頑張って宝塚歌劇化しているけど無理が目立つな」となるのが定番ですが、宝塚歌劇を外部の舞台として上演するのも逆の意味で無理が目立つことがわかって面白いことになっています。良く宝塚ファンが「宝塚の舞台はホンモノの男性が出てこないから生々しくないのが良いわ」とおっしゃいますが、『ポーの一族』のアランとエドガーの関係が、宝塚版は女同士ゆえの生々しい舞台でしたが、男女版になるとかなり見やすい。男性の生々しさは気にならず、女性の生々しさが気になるのはやっぱり性差ですかね。そして、男声&女声の音楽を女声のみに編曲するのが難しいように、女声のみの作品を男声&女声に割り振るので、男声は他ミュージカルに比べてキーが違ってきますね。それを余裕で歌いこなす人あり、とても苦しそうな人あり。日頃、オペラにしろ、ミュージカルにしろ、西洋人のための音楽を東洋人が演じる際の声帯の違いを感じることがありますが、やっぱりニンにあってないものを歌うというのは肉体的にさぞきついことでしょう。

 

 で、唯一、自分のための音楽を慣れ親しんだキーで歌うことができるのが明日海りおなんですが、宝塚のオーケストラに、宝塚のアンサンブルに慣れているせいか、外部仕様の音響に「何歌っているかわからない人」に陥っているのが思わぬ誤算。男声が加わっているので、響かない低音はもとより、声量もまったく不足していて、歌詞すら聞き取れない状態。ガタイの良い男優や、痩せすぎでない女優たちに囲まれると、細すぎが際立ち、キレイというよりやつれているようにも。今回は男役なので衣装で体を隠してますが、色気がまだまだ必要ですね。宝塚の舞台で「似合う」とされる女性像と、退団後に「女性らしい」とされる女性像は体型からして異なります。ま、今回は観客のほとんどが「男役トップスターだった明日海りお」を求めているでしょうから良いんでしょう。

 

 結局舞台をさらったのは、元男役トップスターで、女優修行も長年積んできた涼風真世。「宝塚版でもこんな大きな役だったっけ?」と観客を驚かせる怪演。久々の男役歌唱(おばあちゃん役ですが宝塚版では男役が演じてました)も余裕綽綽な上、男声とのバランスとりもお手の物。そして、憑依型スターの彼女にとって「人間でない役」や「マンガの役」は得意分野。二幕の霊媒術師役も妖怪的な役作りを楽しんでいるのが客席にも伝わってきて、さすが「昔妖精、今妖怪」を枕詞にしているだけのことがあります。存在感といい、魅せ方の上手さといい、今回のカンパニーで突出してました。

 

 男優たちは、小西遼生が男役以上の美しさで、あと少し歌えたらミュージカル界のキングになれたのに。。。福井晶一はスタイルの良さと圧巻の歌唱力でキング・ポーの貫録タップリ。中村橋之助と千葉雄大は久しぶりに椅子からずり落ちそうになる迷唱ぶり。宝塚だって歌が下手なスターはたくさんいますが、歌のレッスンを受け、日ごろから舞台に立っている「歌が下手なプロ」と「舞台歌唱のイロハもわからない素人」とは雲泥の差。いやぁ、凄い物を聞いてしまいました。舞台人はどれだけハッタリを聞かせてナンボなので、自信なさげだと観ているこちらが困ってしまいます。千葉雄大はCMでの歌唱を聞く限り、もう少し歌えると思っていたんですが、自信のなさからか音程はフラフラ、ロングトーンだと途中で消えてしまうなど、まぁ手に汗を握りました。元々、歌を苦手としている柚香光(新人公演を卒業したばかりの新二番手お披露目でもありました)のお役だけあって、難易度も高くなければ、出番も少ないんですけどね。でも、ここまでひどいと、文句言うよりも応援したくなってくるんだから不思議なものです。ダンスも一人ドタバタだし、そもそも姿勢が悪いので、ポスターの美しさはどこへやら、スタイルの悪さが際立って、小学生が迷い込んでしまったかのようなウロウロぶり。さすがの小池演出でもカバーしきれなかったみたい。芝居もテレビだと気にならなかったのに、劇場でみるとテクニック不足が痛々しい。。。キャリアがある俳優なだけに、本人が一番つらいことでしょう。あくまで映像の方ですね。

 

 女優たちは宝塚娘役出身者たちが多くキャスティングされていて、ドレスの着こなし、カツラの似合いっぷりは圧巻です。能條愛未だけが非宝塚ですが、存在感も浮世離れ感も違うんですよね。舞台上での品の良さや動きの美しさから、宝塚出身者が退団後もひっぱりだこなのが納得です。前星組トップ娘役の綺咲愛里は二番手娘役枠、前前前星組トップ娘役の夢咲ねねが娘役トップ枠でそろい踏みです。が、元々「明日海りおとその他大勢」で娘役が邪険にされてきた花組作品らしく、番手に関係なく女優たちが切磋琢磨する舞台では、役が小さく見えました。それにしても、長身者揃いの星組出身者のお二人、男役だった明日海りおが小さく見える位背が高い! とはいえ、この二人が脇を支えてくれたからこそ明日海りおが「少年役」として舞台が成り立ったのかなとも思います。明日海りおは宝塚時代からフェアリータイプで少年役が最も似合う男役でしたが(大人の男性は似合わなかった)、これからは年齢的にも少年→中年女性へのシフトが課題とお見受けしました。鳳蘭も「男役からおばちゃん役に切り替えるのはファンも去るし冒険だった」と言ってましたが、生涯娘役が許されるのは、森光子か大地真央位? 宝塚のキレイ売りにいつまでもしがみついてないで、退団したんだから早々に地に足をつけた修行を始めた方が、女優としての主演には必要かと私は思うのですが、最大のヒット作の再演という奥の手をしょっぱなに使ってしまったし、これからどうなることやら。女性としても女声としても、女優として主演舞台をつとめるにはハードルが高そう。研音の売り込みが凄いし、今後は映像中心で行くのかなぁ。

 

 さて、アンサンブルですが、冒頭はいきなり男性ダンサーたちがジャンプの高さで魅せます。舞台上部で明日海りおが登場するというのに、すっかり視線はそちら。作品のそこここで登場するトートダンサーのような男性たちのダンスは、ハイヒールで踊る宝塚男役のダンスとは全然違いますね。でも、テクニシャンが集まっているのはわかるけれど、やたらと動きすぎな振付が気になりました。あくまでアンサンブルによる脇役のダンスなんですからね! ドレス姿の女性が激しく踊るのは美しくないし、時にメインキャストの芝居を邪魔するような振付も散見。ダンスの見せ場という場面でない限り、やりすぎは邪魔っ! 劇団として、固定メンバーが演じる宝塚だとちゃんとトップを立てるので気にならないところが気になったりしました。でもコーラスはやっぱり混声の方が100倍魅力的。宝塚版の半分以下の人数ですが、とにかく重厚。みなさんちゃんとお腹から声が出てます。手加減しない舞台は気持ち良いです。アンサンブルの重みが違います。これは好き好きですね。でも、ショーアップされたダンス場面(特に学生たち)になると、「宝塚の男役だったら可愛くまとまるだろうに、なんて野暮ったくなってしまうんだろう」と思ってしまうのはご覧になったみなさんが納得してくださるかと。

 

 セリや盆のない(ついでに舞台袖もない)国際フォーラムの舞台ですが、仮設の回り舞台を設置し、三層構造のセットをグルグル回して展開していく手法、流れるように場面が展開し、舞台が立体的に使われていて観客を飽きさせないのはさすが小池マジックでした。ただ、最近の舞台では野暮ったい芝居や台詞が目立つように思うのは、そろそろ若者アンテナが鈍りだしてるのかしらん?(ファンゆえに野暮ったいものを見せられるとことさら悲しい)。ラストも「トートとエリザベートの昇天?」に続いて「オリジナルなんだから何で新曲にしなかった!?」と思わず思う、トウのたった俳優が演じる学生たちによるロカビリーバンド、さらには「楽屋で絶対みんな嫌がってるだろうな」というダサい制服(これは萩尾望都の原作がそうなのかな?)も俳優がお気の毒。

 

 フォーラムで良かった!のは、横広で音響の悪い東宝劇場と違って、コンサートも想定して作られているホールはとても音の抜けが良くて、管楽器なんて気持ち良く客席内の空気を動かしていたこと。オーケストラはフルートが良いのにクラリネットがくぐもるなど波がありましたが、東宝劇場のオケのように椅子からずり落ちるようなミスがあったりせずしっかり舞台を支えてくれます。

 

 とりあえず、宝塚ファンにとっては「トキメいていたスターの宝塚らしい舞台姿」が再現されていること、ミュージカルファンにとっては「宝塚歌劇とミュージカルの違い」をあれこれ感じられること、演劇ファンは「スターシステムにとらわれない実力派俳優による舞台をさらう瞬間」が見られることが面白い公演だったと思います。

 

【スタッフ】

原作:萩尾望都『ポーの一族』(小学館「フラワーコミックス」刊)
脚本・演出:小池修一郎
作曲・編曲:太田健(宝塚歌劇団)


美術:松井るみ (装置:大橋泰弘)
照明:笠原俊幸 (笠原俊幸)
音響:大坪正仁 (大坪正仁)
衣裳:生澤美子 (有村淳 加藤真美)
ヘアメイク:岡田智江
映像:九頭竜ちあき (奥秀太郎)
サウンドプログラマー:上田秀夫 (上田秀夫)
振付:桜木涼介 KAORIalive 新海絵理子 (若央りさ 桜木涼介 KAORIalive 鈴懸三由岐)
殺陣:諸鍜治裕太 (疑闘:栗原直樹)
音楽監督補:竹内聡
歌唱指導:西野誠 堂ノ脇恭子 (飯田純子 やまぐちあきこ)
稽古ピアノ:太田裕子 宇賀村直佳 松永祐未子
演出助手:長町多寿子
技術監督:小林清隆
舞台監督:徳永泰子
協力:宝塚歌劇団
企画・制作・主催:梅田芸術劇場

指揮:福田光太郎

【キャスト】

エドガー・ポーツネル:明日海りお (明日海りお)
アラン・トワイライト:千葉雄大 (柚香光)
フランク・ポーツネル男爵:小西遼生 (瀬戸かずや)
ジャン・クリフォード:中村橋之助 (鳳月杏)
シーラ・ポーツネル男爵夫人:夢咲ねね (仙名彩世)
メリーベル:綺咲愛里 (華優希)
大老ポー/オルコット大佐:福井晶一 (一樹千尋/羽立 光来)
老ハンナ/ブラヴァツキー: 涼風真世 (高翔みず希/芽吹 幸奈)
ジェイン:能條愛未 (桜咲 彩花)
レイチェル:純矢ちとせ (花野じゅりあ)

 

 ( )は2018年宝塚歌劇団花組公演