【観劇日記】宝塚歌劇団月組『ダル・レークの恋』@赤坂ACTシアター | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 さすがに1959年の春日野八千代版は観てないのですが、1998年に麻路さき版が帝国劇場で、2007年に瀬奈じゅん版が全国を回り、そして今回、月城かなと版が赤坂ACTシアターに登場。非常に古い作品です。月城かなとは最近では珍しい「立ってるだけでOK」なタイプのスターで、クラシカルでゆったりした芝居やダンスが続く作品ながら、間延びさせることなく、しっかり場面をコントロールしているのが圧巻でした。つい、歌い上げたり、激しく踊ったり、小芝居を加えたくなるであろう中、舞台の真ん中にドンッと構えて、余計なことをしないのに、風格と品格が備わっているので、まさに適役。ノーブルなのに骨太という、いかにも男装の麗人でした。振り向くだけで、ターバンをほどくだけで、色気ダダ洩れ。水も滴るってこういう人を言うんでしょうね。

 

 菊田一夫作品だけあってストーリーは波乱万丈。確か、春日野八千代版から麻路さき版にリメイクする際に半分近くカットしているハズなのですが、それでもたっぷりと芝居をみせてくれます。インドを舞台とした作品ですが、ボリウッド色もなければ、インド映画に登場するような男性も皆無で、むしろ昭和歌謡の世界なのですが、そんなツッコミを跳ね返して盛り上げる筆力はさすがです。「身分違いの恋」を縦糸に、「詐欺師との騙し騙されのスリリングな展開×父息子の物語」を横糸に、ストーリーが展開していきます。それにしても、『ジャワの踊り子』といい『ダル・レークの恋』といい、菊田一夫って宝塚の舞台でSEXを演じさせるのお好きですよね。もちろん、すみれコードがあるので、『ダル・レークの恋』はダンスに置き換えていますが、女性のエクスタシーとか、男性の射精とかをちゃんと表しているのは『薔薇の騎士』のオーケストレーション(冒頭のホルンとか)のごとき。知らなければ「キレイだな」な場面ですが、状況をわかってみると結構赤面な振付も! と、書くと拒絶反応を示す方も多いでしょうが、この表現があってこそ、カマラの腹芸が活きてくるってもんです。

 

 で、カマラの見せ場「身分違いの恋」と「自由恋愛」の間で苦しむ女心ですが、いかんせん「格下だと思った男を蔑みこき下ろしたのに、実は相手が自分より格上と知った途端よりを戻そうと媚びを売ろう」とする女性という難役。これが女の哀しさに見えるか、女の卑しさに見えるか、紙一重。今の社会でもいますよね。新人男性社員で格下と思ってディスりまくってたのに、その男が実は社会勉強中のどこぞの会社の御曹司と知った途端手のひらを反すOL。自分たちのことは「地位だの名誉」だの言ってるのに、相手の「地位や名誉」はさっぱり無視。ここまで自己本位になれるのはアッパレだけど、観ていて非常にイライラする女性。97年公演は「よろめき専科」の星奈優里が「本心と家族からのプレッシャーの狭間」で苦しむ姿を、2007年公演は彩乃かなみが「運命に流される女」として「仕方ないよね」な姿を見せてくれたのですが、今回の海乃美月は上手なんだけど、腹芸はあまり得意じゃないみたいで、ゴメンナサイ、とにかく痛い女っぷり全開。裏で親族が糸を引いてたとはいえ、散々男の事をコケにしておいて、ころっと「愛してます」と言われ、挙句の果てにパリまで探しに来られたらドン引きです。とにかく醜くてみっともない女、ラッチマンが気持ち良く振ってくれて「ああスッキリ」になってました。これまた『薔薇の騎士』だけど「貴族なら、何ごとも終わりがあることを心得るべきです」と、片方の眼だけで泣きつつ、品位を保とうとするウィーン貴族を思い起こしてしまいました。そういえば、インドはアジアでしたね。ダンスは張り切っているし、歌も芝居も悪くないのに、あまりに合わない配役に海乃美月が気の毒で気の毒で。太目が高貴でリッチの象徴のインド貴族なのに、ギスギスに痩せているのも庶民的でした。

 

 とはいえ、月組のみなさんいずれも熱演で、ニン違いはあれど、どのお役も「みなさん上手い!」でした。二番手だけど出番の少ないペペルな暁千星は都会的な危険な香りを振りまいていたし、三番手の風間柚乃は出番は多いけれど見せ場は少ないクリスナを、インド貴族の貫録タップリに月城かなと相手に一歩も引かない芝居でのりこえてました。月組のスターたち安泰です。少人数での中劇場公演だし(ドラマシティに合わせたのか舞台奥は使わず割と前面で展開)、その他の面々も「それぞれの役に設けられた見せ場」をしっかり担いつつも、決して出しゃばりすぎない舞台センスの良さを発揮(若手コーラスなのでメロディよりも大声でハモル子がいたのだけが残念)。

 

 そして、フィナーレがね、短いけれどこれまた良かった! エキゾティックな「踊り曼荼羅」(98年DARREN LEE振付←傑作/2007年KAZUMI-BOY振付)の代わりに新人メンバーがソロでカップルで踊り継ぐ場面(港ゆりか振付)が装入されているのですが、新人公演が上演できない状況が続く中、短い出番とはいえ、舞台の中央で自分だけの出番が与えられた若手たちのはつらつとした姿の素晴らしさといったら! 座付き作家ならではの愛情を感じました。そして「若手に負けるか!な暁千星(ダンスにおいて長い腕の処理に思わず目が行きます)」、「若手だけどベテランっぽい!風間柚乃←お芝居が良かった!)」、「いつでもトップOK!な月城かなと」と、どのスターも売りがかぶらないので、各々の個性が一層引き立ちますね。現トップのサヨナラ公演が控えている時期ですが、早くも次の時代に向けて、乗りに乗っている月組の底力を感じる公演でした。

 

【スタッフ】

作:菊田 一夫
監修:酒井 澄夫
潤色・演出:谷 貴矢

 

【キャスト】

( )内は1959年東宝劇場1998年帝国劇場2007年全国ツアーキャスト

ラッチマン:月城かなと (春日野八千代麻路さき瀬奈じゅん

カマラ:海乃美月 (故里明美星奈優里彩乃かなみ

インディラ:梨花ますみ (神代錦邦なつき出雲綾

アルマ:夏月都 (雅章子朋舞花憧花ゆりの

チャンドラ:千海華蘭 (登代春枝夏美よう越乃リュウ

ミシェル:楓ゆき (稲葉町子藤京子美鳳あや

ジャン:颯希有翔 (美竹しげる朝宮真由朝桐紫乃

酒場の主人:蓮つかさ (千歳かぐみ千秋慎一樹千尋

ハリラム:蓮つかさ (沖ゆき子千秋慎一樹千尋

支配人:佳城葵(三吉野一也司祐輝一色瑠加

ペペル:暁千星 (星空ひかる稔幸大空祐飛

酒場の内儀:麗泉里 (芦田千代美万里柚美音姫すなお

ピエール:蒼真せれん (歌川波留美音羽椋桐生園加

ラジオン:蘭尚樹 (黛光彩輝直明日海りお

クリスナ:風間柚乃 (御山桜絵麻緒ゆう遼河はるひ

ジャスビル:礼華はる (美吉佐久子英真なおき研ルイス

リタ:きよら羽龍 (武蔵野裕美羽純るい城咲あい

ビーナ:詩ちづる (野辺小百合妃里梨江白華れみ

 

 

(1998年星組帝劇公演)

 

(2007年月組全国ツアー公演)

 


(2021年月組赤坂ACTシアター公演)