【バレエ】日本バレエ協会『海賊』 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 酒井はな、圧巻のステージでした。誰よりも小さいのに、誰よりも大きく見えるなんて、舞台人としてすごい武器。技術はもちろんだけど「見せ場を見せ場らしく見せる術」はさすがの主役っぷり。スタイルや技術では若手にも素晴らしいダンサーが何人もいますが、プリマとしての位取りばかりはそうそう真似できません。通常のバレエだと、男性ダンサーは女性ダンサーをいかに美しく見せるかで男っぷりをあげるものですが、酒井はなは誰の助けも借りずに輝きまくっているので、男性ダンサーたちは、『海賊』としてはメドーラ奪還に成功しますが、主役奪還はかなわぬ夢でした。そもそも、『海賊』は男性ダンサーの見せ場は多いけれど、主人公のコンラッドよりも、ランケデムの方がドラマティックで演じ甲斐があるし、バレエのテクニカルな見せ場はアリに持っていかれるし、なかなかバランスを取るのが難しい作品です。

 

 通常のバレエだと、脇役たちの踊り、群舞の見せ場、主役コンビの踊り、男女プリンシパルそれぞれのソロがあって大団円と流れがあるのですが、『海賊』は主役がコンビとしてほとんど踊らなかったり、女性プリマと女性二番手が対になって踊ったりする変則技ばかり。女性二番手のギュルナーラは主役ではないので、オダリスクたちとともに(私が演出・振付家であったら真っ先にカットするであろう)「脇役にも出番を」のナンバーも踊っていたりするので、メリハリがつかない展開になってしまうのは正直なところ「またアナタ?」と。

 

 パンフレットを購入しなかったので細かなストーリーはわかりませんし、そもそも『海賊』はプロダクションごとにストーリーが異なるのですが、今回はプロローグとエピローグはロンドンの街中、『海賊』本編は劇中劇とでした。そのせいがあってかどうか、海賊たちも半裸の野郎ではなく、宝塚の男役的な衣装で、第一幕の男性ダンサーたち大活躍の場面も控えめでエレガントな印象を受けました。女性陣の活躍は主に第二幕ですが、上記のようにメリハリのない展開なのでさすがに飽きてしまうのですが、ここで別格だったのが酒井はな。登場するだけで場の空気を変え、舞台をかっさらってしまうのですから、とにかく「凄いものを観た!」コレに尽きます。舞台人として表情豊かなこと、清楚でありながら、時に男性ダンサーよりもキビキビした筋肉質な踊りを披露すること、決めのポーズの直前に微妙に動きのスピードを変えてタメがあることなど、歌舞伎座だったら「●●屋!」と掛け声を飛ばしたくなるような主役っぷり。

 

 酒井はなが新国バレエを去ってかなりの年月が経ちました。新国バレエの初公演『眠れる森の美女』では、森下洋子、吉田都、ディアナ・ヴィシニョーワとのクワトロ・キャストで、牧阿佐美バレヱでもまだチョイ役ばかりだったこともあり、さすがに新人公演状態でしたが、それからもザハロワをはじめとする外来ゲストと主役を張り合って培ったキャリアは伊達ではありません。彼女が全幕物を踊る機会はかなりレアになってしまいましたが、今なお輝き続けている姿に「アナタに出会えて良かった」と幸せに浸ったのでした。これが「過去の栄光で踊っている」プリマだと、ファンとしては楽しいものの、舞台としては痛々しくなってしまうのですが、今はまだまだ熟れているダンサーです。

 

 もっとも、他日公演を観たら、それはそれできっと楽しんでしまうんですけど。若手は若手にしか出せないキラキラ感がありますし、キャリアがある人はそれに見合った「私の魅せ方」がありますから。それにしても、今回は新国バレエ団ダンサーの出演が多いですね。新国バレエでは、今年のニューイヤーバレエで『海賊』からのナンバーが一つ披露された程度で、全幕はまだレパートリーにはなっていないのですが、男性ダンサーが充実している今のうちにぜひレパートリーに加えてもらいたいものです。

 

【スタッフ】
指揮:オレクセイ・バクラン
演奏:ジャパン・バレエ・オーケストラ
原振付:マリウス・プティパ改変版による
再振付/演出:ヴィクトール・ヤレメンコ
振付補佐:タチヤナ・レべツカヤ
音楽:アドルフ・アダン

【キャスト】

メドーラ:酒井はな(フリー)
コンラッド:橋本直樹(フリー)
アリ:高橋眞之(NBAバレエ団プリンシパル)
ギュルナーラ:瀬島五月(貞松浜田バレエ団プリンシパル)
ビルバント:川村海生命
ランケデム:ヤロスラフ・サレンコ
セイード・パシャ:イルギス・ガリムーリン
オダリスク:佐々木夢奈、清水あゆみ、古尾谷莉奈