新国立劇場バレエ研修所公演『バレエ・オータムコンサート 2018』@新国立劇場中劇場 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 「明日のスターを探せ!」が楽しい研修所公演。各学年に男の子が一人しかいないので、輪島拓也、山本達史、芳賀望がゲスト出演。前半はガラ形式、後半は『ドン・キホーテ』抜粋。新国バレエ団のレパートリーにない作品も並んでいて、なかなか楽しい。

 

 幕開きの15期生と予科生による『ワルツ』は、宝塚のフィナーレでありがちな「一人の男役スターとそれを取り囲む娘役たち」なんだけど、井上興紀はまだ新人なので、10人の女の子を一人でお相手するにはまだ貫録不足。ノーブルなダンサーですね。

 

 『海賊』はKバレエではプリンシパルだったのに、新国バレエに移籍後は脇役専科な輪島拓也が久々に主役級の踊り。バレエダンサーは圧倒的に女の子が多いけれど、やっぱり男性が活躍するとがぜん華やかになります。公演がビシッと締まりますね。女の子が映えるのは男次第です!

 

 『エスメラルダ』は14期生の二人が主役ですが、カップル感はなく「やっぱり女子校に男の子一人だけみたいなクラスはやりにくいのかなぁ」なんて仲村啓のことを気の毒に思ったりもしました。稽古場でカップル感出して濃厚なやりとりをしても許されるには、研修所の面々まだ若すぎますし(^-^; 

 

 そんなわけで、井上興紀のソロ『パリの炎』が今回の白眉。誰に遠慮することなく、自分の芸に集中したダンス、安心して見られました。ちょうど、フィギュア・スケートのグランプリ・シリーズ真っただ中ですが、新進スケーターが4回転ジャンプを決めているような勢いがあって、完成度で点数を稼ぐベテランとは別の、新進だからこそ出せる独特の雰囲気。研修所公演、こういうダンスが見たかったんです!

 

 『ハルレキナーダ』はちっこい男性ダンサーと大柄な女性ダンサーのパ・ド・ドゥ。最近の女性ダンサーは大柄な方が多く(新国バレエの女性ダンサーは163cm以上という規定あり)、小さい男性ダンサーがリフトすると押しつぶされそうで観ていてハラハラ。男女逆転の慎重さが笑いにつながる踊りかと思うんだけど、笑いにはまだ至らず。山本達史も自分の小ささを自虐的に笑い飛ばせる心境には至ってないのかな。身長は努力ではどうしようもないから、開き直りも必要ですよ~。(もしくは、王子を躍らせてもらえなかった某プリンシパルのように、踊りたい役を踊るために自分のバレエ団を作ってしまうしかない!?)

 

 一幕フィナーレ前にはこの一年間の活動を記録した10分位の映像が披露されました。プロ養成の場として、結構あちこちに出演してたんですね。先日の『白鳥の湖』に出演していた場面も流されましたが、よりにもよってオケのトランペットが大コケしたところが使われていて、編集者の悪意を感じる。。。プロと一緒の公演だとプロのダンサーも一緒に映りこんでいるんですが、たとえチョイ役でもプロは違うんですよね。役のなりきり方、動きや表情のつけ方、舞台上での自然な立ち居振る舞いなど、とてつもなく大きな壁が立ちはだかっていました。中でも、プリンシパルの方たちなんて稽古場での基礎レッスンですら華があって、研修生を観なくてはいけないはずの映像なのに、ついついそちらに目が行ってしまいました。技術だけでなく、華がなければ生き残れないあたり、舞台人って過酷で残酷。

 

 一幕フィナーレはコンテンポラリーダンス。今までコンテンポラリーダンスは苦手、苦手と言ってきたけれど、ショパンのピアノ協奏曲第1番の第2楽章をそのまま利用。音楽が良ければ楽しくみられることがわかりました。コンテンポラリーダンスって音楽がずさんなのでつまらないという印象を与えているのかもしれません。たいてい切り刻まれていたり、音楽だけだと魅力ないものが使われていたりするので。今回は有名曲ということもあって、事前に盛り上がりどころもわかるし、素人にはこういった構成だとありがたいです。貝川さん、新人ダンサーだと思ってたのに、振付の先生なんですよね。バレエ・ダンサーの旬は短いなぁ。

 

 二幕は『ドン・キホーテ』の第三幕ダイジェスト。が、いかんせん、ほとんど「少女バレエ団」状態なので、結婚式の場面なのに、カップルが存在しないという異常事態。もちろん、男性が活躍するナンバーは全面的にカット。男と女のダンスバトルが見せ場の作品なだけに、女の子だけで上演されると面白さ半減。可愛い子が可愛く踊ってもキレイなだけで、丁々発止とか、格好良いとか、そういうワードが出てこないんですよね。その他大勢クラスの女性ダンサーにはとんと興味がないのは、あくまで私の好みの問題なので、出来が良くないとかそういうことではなくて、趣味の違いなだけなので、許して。そして、この作品もちっこい男性ダンサーと大柄な女性ダンサーのコンビ。ミュージカルの世界だと、180cm以上が標準で、特殊枠として小柄な男性俳優がいる、みたいなカンパニーばかりになりましたが、バレエの世界も世代交代真っただ中といったところでしょうか。新国バレエの男性ダンサーは173cm以上ですが、これからは長身でないと舞台映えが厳しい時代になりそうです。もちろん、小柄なダンサーは八幡枠(と勝手に私は呼んでいますが)の道化や少年役を演じる超テクニシャンの例外ダンサーがいてしかるべきですが。今回の『海賊』と『ドン・キホーテ』は、男性ダンサーのキャスティングが逆の方が合っていたと思います。

 

 「研修所の発表会」ではなく「バレエ公演」として観てしまったゆえ、きっと公演の趣旨とはずれた感想になってしまいました。これからはプロと比べられる立場のダンサーたちですが、客を魅了するにはまだまだ余裕がない人が目立ったかな。踊りだけでなく、目線の飛ばし方も、プロの舞台を見慣れていると「あれっ?」と違和感を感じる箇所もちらほら。とはいえ、まだまだ研修中の期待の若手たち。今日のキャストからも明日のスターが生まれますように!